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九条尚久と憑かれやすい青年
収まらない体調不良
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祓ってもらってしばらくしてから、再び酷い頭痛や肩こりに悩まされた。もしやと思い、また寺に向かう。祓ってもらうとよくなる、それを再三繰り返しているのだ。
住職も驚いていた。だが曰く、『祓うとは霊を消すわけではなく遠くへ追い払う行為なので、戻ってくる可能性があるのだ』と教わった。だからしつこい霊が、伊藤を気に入って戻ってきてしまうのではないかと。
何度か寺に足を運ぶも、その日常に疲れていた。料金もかさむ。昔はただの不調と思っていただけなので気にしなかったが、霊が原因だと分かってしまえば気分的によくない。祓いたいと思うのは当然だった。
そんな日々を送りつつ迎えた社会人三年目の伊藤をある日、今までとは違う異変が襲う。彼はこの体験で、今まで生きてきた人生の価値観をがらりと変えられることになる。
届いた唐揚げを、顔を綻ばせて取った。先ほど注文した三杯目のレモンサワーを喉に流し込み、熱々の唐揚げを頬張る。至福の時だ、と伊藤は思った。
正面に座るのは彼の友人・桜井だ。大学生の頃からの仲いい友達で、勤める会社は違うものの、今でも定期的にこうして連絡を取り合い、食事に行く仲だ。伊藤は元々友人が多いのだが、中でも桜井には確かな信頼を置いている。
「あーうまっ」
「伊藤って案外飲むよな」
「顔にビールが似合わないとはよく言われるよ」
桜井はそれを聞いてげらげら笑った。伊藤は今でもよく学生に間違われるぐらいの童顔で、彼の隣にアルコールはどこかアンバランスで合わない。恐らく大学のテキストを置いておいた方がよっぽど違和感はない。
桜井も唐揚げを食べながら言う。
「出会った十八の頃から何も変わってないもんな」
「これ結構悩みなんだけど、このまま年を取ったら僕どうなると思う?」
「おっさんの伊藤って想像できないな……でも大丈夫だ、お前にはコミュ力という武器がある」
「そう強い武器とも思えないけどねー」
よく周囲から『人懐こい』『コミュニケーション能力が高い』と評価されるが、伊藤自身はあまりピンと来ていない。普通に話しているだけで、特別秀でている自覚がない。そういう驕らないところも、彼の長所と言える。
伊藤は冷えたレモンサワーを飲んだ後、自然ともう片方の手で首を触った。何かがあるわけではないのを確認すると、その様子を見ていた桜井が不思議そうに尋ねる。
「どうした? 喉痛いの? なんか今日、やたら首触ってない?」
伊藤は無意識に何度も触っていたらしい。頷いて、彼は眉尻を下げた。
「うーん、なんかさ。苦しいんだよね」
「え? 風邪?」
「そういうんじゃなくて……体験したことないんだけど」
「なに、アッチ系?」
桜井が困ったように言い、伊藤は頷いた。伊藤が霊による体調不良に悩まされていることを、桜井は知っていたのだ。
酷くなると寺に行きお祓いをしてもらうことも、彼は聞いている。伊藤は信頼できる友人にだけ話していた。普通なら怪しまれる話だが、桜井は伊藤のことを疑わず、時々愚痴に付き合ってくれる。
「それがさあ。なんていうかこう……首が絞めつけられてるっていうか、息苦しい感じが時々あるんだよ。最近になってこうで……一応、病院で見てもらったけど、やっぱり体的にはおかしなところはないみたいなんだよね」
「それってつまり、またアレじゃん。寺、行くの?」
桜井は同情するように伊藤の顔を見ると、彼は深くため息を吐いた。
いつ頃からだろうか。それは例えば、肺の機能が落ちているために苦しいという感覚とは違い、はたまた喘息のように変な呼吸音が漏れるわけでもなかった。
首を何かが締め付けている、そんな感覚だった。
住職も驚いていた。だが曰く、『祓うとは霊を消すわけではなく遠くへ追い払う行為なので、戻ってくる可能性があるのだ』と教わった。だからしつこい霊が、伊藤を気に入って戻ってきてしまうのではないかと。
何度か寺に足を運ぶも、その日常に疲れていた。料金もかさむ。昔はただの不調と思っていただけなので気にしなかったが、霊が原因だと分かってしまえば気分的によくない。祓いたいと思うのは当然だった。
そんな日々を送りつつ迎えた社会人三年目の伊藤をある日、今までとは違う異変が襲う。彼はこの体験で、今まで生きてきた人生の価値観をがらりと変えられることになる。
届いた唐揚げを、顔を綻ばせて取った。先ほど注文した三杯目のレモンサワーを喉に流し込み、熱々の唐揚げを頬張る。至福の時だ、と伊藤は思った。
正面に座るのは彼の友人・桜井だ。大学生の頃からの仲いい友達で、勤める会社は違うものの、今でも定期的にこうして連絡を取り合い、食事に行く仲だ。伊藤は元々友人が多いのだが、中でも桜井には確かな信頼を置いている。
「あーうまっ」
「伊藤って案外飲むよな」
「顔にビールが似合わないとはよく言われるよ」
桜井はそれを聞いてげらげら笑った。伊藤は今でもよく学生に間違われるぐらいの童顔で、彼の隣にアルコールはどこかアンバランスで合わない。恐らく大学のテキストを置いておいた方がよっぽど違和感はない。
桜井も唐揚げを食べながら言う。
「出会った十八の頃から何も変わってないもんな」
「これ結構悩みなんだけど、このまま年を取ったら僕どうなると思う?」
「おっさんの伊藤って想像できないな……でも大丈夫だ、お前にはコミュ力という武器がある」
「そう強い武器とも思えないけどねー」
よく周囲から『人懐こい』『コミュニケーション能力が高い』と評価されるが、伊藤自身はあまりピンと来ていない。普通に話しているだけで、特別秀でている自覚がない。そういう驕らないところも、彼の長所と言える。
伊藤は冷えたレモンサワーを飲んだ後、自然ともう片方の手で首を触った。何かがあるわけではないのを確認すると、その様子を見ていた桜井が不思議そうに尋ねる。
「どうした? 喉痛いの? なんか今日、やたら首触ってない?」
伊藤は無意識に何度も触っていたらしい。頷いて、彼は眉尻を下げた。
「うーん、なんかさ。苦しいんだよね」
「え? 風邪?」
「そういうんじゃなくて……体験したことないんだけど」
「なに、アッチ系?」
桜井が困ったように言い、伊藤は頷いた。伊藤が霊による体調不良に悩まされていることを、桜井は知っていたのだ。
酷くなると寺に行きお祓いをしてもらうことも、彼は聞いている。伊藤は信頼できる友人にだけ話していた。普通なら怪しまれる話だが、桜井は伊藤のことを疑わず、時々愚痴に付き合ってくれる。
「それがさあ。なんていうかこう……首が絞めつけられてるっていうか、息苦しい感じが時々あるんだよ。最近になってこうで……一応、病院で見てもらったけど、やっぱり体的にはおかしなところはないみたいなんだよね」
「それってつまり、またアレじゃん。寺、行くの?」
桜井は同情するように伊藤の顔を見ると、彼は深くため息を吐いた。
いつ頃からだろうか。それは例えば、肺の機能が落ちているために苦しいという感覚とは違い、はたまた喘息のように変な呼吸音が漏れるわけでもなかった。
首を何かが締め付けている、そんな感覚だった。
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