視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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九条尚久と憑かれやすい青年

あなたものすごいですね

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 男は目の前に腰かけた。そして正面からじっと伊藤を見てくるのだが、やたりどこか目が合っていない気がするのかなぜなのか。人の目を見るのが苦手なタイプだろうか。

「ええっと、頂きます」

 さりげなくペットボトルが未開封なのを確かめ、とりあえず伊藤はお茶を一口飲んでみた。ポッキーは特にいらなかった。

 少し時間が流れても、まるで話が始まりそうにないので、伊藤から切り出すことにする。

「初めまして、僕、伊藤陽太と言います」

「初めまして、九条尚久といいます」

「九条さん、やっぱりこちらの責任者の方ですね」

「はい、まあ責任者と言いますか、私しかいないんですけどね」

「そ、そうなんですか」

 そんな会話をしつつも、やはり九条とは目が合わない。彼は伊藤の肩らへんをじいっと見つめているだけだ。

「あの、それで九条さん。今回ネットで調べまして、ここに」

「あなたものすごいですね」

「へ?」

 突然の発言にぽかん、としてしまう。

「私、ここまで背負ってる人、あまり見たことありません。レアですよ、レア」

「はい? 背負ってる、ですか?」

「肩重くないんですか? そんなに引き連れて……」

 無表情で九条は言う。伊藤ははっとし、慌てて自分の肩を見た。だが無論、彼には何も見えない。

「ぼぼ、僕なんか憑いてます!?」

「はいそれはもう」

「実は昔から体調を崩しやすくて。熱出すとか、頭痛がするとか、不眠だとかですけどね。ある日霊が憑いてるって指摘されて初めてお祓いしてみたんです。そしたらすっごく楽になりまして! ただ、問題なのか繰り返す、ということなんです。それで、こちらは再発がないってことを聞いて伺ったんですけども」

「ああ……」

 九条は小さくそう呟いた後、ゆっくり眉間に皺を寄せた。伊藤は不思議に思いながらも、話を続ける。

「祓ってくれたお寺の住職さんが言ってました。除霊とは霊を引き離す、みたいなことだから、すごく気に入られれば帰ってくるかもしれないって。それで繰り返しているのかなと思ったんですけど。ここはどうして再発しないんですか?」

「私に除霊はできません」

 九条はさらりとそんなことを言ったので、伊藤は目を真ん丸にした。

「え!? じゃ、じゃあどうするんですか!?」

「霊の姿も見えますが、基本的には黒いシルエットのように見えます。なんとなく性別、年齢も分かるかなという程度。それに除霊する能力は全くありません。ああいったものは結局生まれ持った才能ですのでね。私は霊と会話するのを得意としてます」

 淡々と抑揚なく喋る九条に、伊藤はごくりと唾を飲み込んだ。黒いシルエットすら見たことがない伊藤にとって、九条の話は別世界の物のように感じる。

「その霊がこの世に漂う理由を聞きだし、可能ならばその原因を解決します。そうすることで霊を浄霊させます」

「浄霊?」

「まあ簡単に言えば、しがらみなどを浄化させて成仏させる、もしくは無害な霊にさせることです」

 それを聞き、感嘆の声を漏らした。なるほど、それで再発しないというわけか。強制的にどうこうするのではなく、霊が思い残したことを聞いてあげて満足させそ、その霊自体を浄化させる。そんなやり方もあるのだと伊藤は一人納得する。

 だが九条本人は、浮かない顔で伊藤を見ていた。

 そして突然、こんなことを言いだす。

「あなた何してるんです?」

「へ? 何って、話を」

「そこにいて何がしたんですか? ああ、そちらのあなたも。そんな必死にしがみついても、楽にはなれませんよ」

 伊藤はびくっと体を反応させた。僕にじゃない、僕の後ろに向かって話掛けている?
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