我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
50 / 79
第二章

第50話 お出かけ前の鳩

しおりを挟む
 俺がキッチンへ向かったのは、午前十一時の半ばを過ぎたころ。
 こたつの快適さに後ろ髪を引かれながらも、どうにか昼食の準備に取り掛かる。

 これから作ろうと思っているチャーハンは、凝ったレシピでもないのでわりとお手軽……だが、我が家には『無双の餓狼』の二つ名を持つサリアさんがいる。

 彼女、お米だけでも四合くらいペロリと腹に収めちゃうからな。近いうちに大食いのお店へ連れて行ってあげたい。そのうえ、うちの獣耳幼女たちも食欲旺盛なので、かなりの量のチャーハンを作らねばならない。

 毎日多めに炊いたお米を冷凍してストックしてきたが、これでもうカラになる。近ごろは、炊飯器をもう一つ買おうか真面目に検討中だ。

「サクタローさん! わたし、たまごわる!」

「リリもできるよ! ほうちょうつかいたい!」

「ん、りんごじゅーすのむ」

「ならば、私は危険がないよう見張っていよう」

 みんなキッチンに付いて来て、張り切ってお手伝いを買って出てくれる。
 卵をうまく割れるようになったエマが、手をあげて飛び跳ねながらの立候補。そんな姉に続き、リリも包丁を使いたいとリクエストを……いや、ダメだからね。

 ルルは、冷蔵庫から頑張ってりんごジュースを取り出そうとしている。それ飲んだらきっとお手伝いしてくれるはず……だよね?

 サリアさんはキッチンテーブルの椅子にどっしり腰掛け、全体を監視する構えだ。さり気なく危険がないか目を光らせてくれているので、実はけっこう助かっていたりする。

 そんなこんなで、賑やかに調理は進む。
 切り分けた食材や卵をささっと炒め、お米を投入。チャーハンの素や塩コショウで味を整えて、各自の皿に盛り付けていく。仕上げに、サリアさんの特大どんぶりに小山を作って完成だ。

 食べる場所は、もちろんこたつ。
 揃ってまたリビングへ戻り、自分の席について『いただきます!』と手を合わせた。

 食事中も、俺は何かと忙しい。飲み物をついであげたり、こぼれたものを掃除したり、顔や手を拭いてあげたり、甘えて集まってきた獣耳幼女たちの口にご飯を運んであげたり、やることは多い。

 このときばかりはサリアさんのサポートも望めない。食事に夢中だからね。
 残念ながら、自分の手が空く頃には料理も冷めてしまっている……けれど、お世話が楽しいから問題ない。プラマイで考えたら余裕でプラスだ。

 しかもここ最近は、エマたちが順番で今度は俺に食べさせようとしてくれるのだ。三人とも間違いなく天使である。

 昼食が終わったら、みんなでキッチンに空になったお皿を運ぶ。
 いつもなら、そのまま洗い物を始める。しかし今日は、後回しにして外出の準備に取り掛かる。予定通り、この後はドライブタイムだ。

 では、さっそくリビングで準備した服にお着替えを――と、その前に。
 俺はこたつの上に陶器の薬筒を四つ並べる。中に収まる液体は、異世界で仕入れた『擬態薬』。これを飲めば、獣人は時間限定で一般的な人間に擬態できる。

 ただのドライブといえど、獣耳と尻尾を出しっぱなしだと流石にマズい。帽子やフードで隠すのは、ふとした動きでバレちゃうかもだからね。

 それと、擬態薬の使用感に慣れる意味もある。少しずつ色々な体験をしてもらって、いつかみんなでテーマパークなどを楽しむのだ。

 目指せ、夢の国リゾート!
 大興奮する様子が、今からもう目に浮かぶな。

「じゃあ、みんなこれ飲んでね」

『はーい!』

 俺は楽しい想像を膨らませながら薬筒のコルクの栓を外し、中身の液体をそれぞれのコップへ注ぐ。

 最初に口を付けたのは、元気よくお返事をしてくれた獣耳幼女たち。揃ってコップを傾け、コクコクと喉を動かして擬態薬を飲み干してくれた。

 その直後、獣耳と尻尾がぼんやりと光り、にょにょにょっと引っ込んでいく――あれよあれよという間に、三人とも普通の人間の姿になった。
 まさしくファンタジーな光景で、何度見ても慣れそうにない。

 それはそうと、こちらのスタイルもよく似合っている。天使なのは相変わらずだが、今すぐジュニアモデルとしてスカウトされてもおかしくない愛らしさだ。これは、攫われてしまわないよう注意しなければ。

「わっ!? アタマのお耳ない!」

「リリもない! あ、シッポもだ!」

 エマが頭に手をやって目を丸くする。続いてリリが、腰に手を当てて首を傾げる。そこへよく分かっていなさそうなルルも加わり、三人でそれぞれ確認し合っていた……かと思えば、なぜかその場で円を描くようにくるくる回り始めた。

 リビングに響く明るい声を聞きながら、俺は頬を緩める。
 体に異常はないかちょっと心配だったが、これなら大丈夫だね。

 続けてサリアさんも擬態薬を服用するのを見届けたら、今度こそみんなで衣装チェンジ。

 エマたちをルームウェアから温かい冬服に着替えさせれば、『新しい服だ!』と歓喜の大合唱が沸き起こる。動きやすいようにキュロットやストレッチパンツを選んだけど、気に入ってくれたみたい。

 一方、サリアさんには洗面所での着替えをお願いする。
 衣服はやはりスウェットを希望したので、オシャレなパーカーとセットのやつをネットショップで購入しておいた。足元はムートンブーツ。履きやすさを重視する本人のリクエストにお応えした。

「サクタロー殿。この衣服は、正しく身につけられているか?」

「うん。バッチリだね」

 実際に着替えた姿を見ると……おお、よく似合っている。容姿端麗なだけあり、一流モデルもかくやの見栄えだ。写真をSNSに投稿したら即バズりそう。普段の言動のせいで忘れかけていたけど、サリアさんって本当はすごく美人なんだよな。

 俺はそのまま、テレテレするみんなを褒め倒す。それに満足したら自分もささっと着替え、荷物を詰めたトートバッグを肩に下げて玄関へ。スーパーに寄る可能性を考えると、必要な物が多くなってしまった。

 スニーカーを履いたら、空いている方の手をエマとつなぐ。サリアさんには、リリとルルをお願いした。

 さあ、日本での初めてのお出かけだ――少し意気込み、俺は扉を開いて一歩踏み出す。

 入れ替わるように吹き込む冷たい空気が肌を撫で、冬めいた日差しに少し目が眩む。同時に、木々の梢のざわめきや鳥のさえずりが聞こえてくる。

 駐車場を兼ねる前庭では、鳩の群れが地面をついばんでいた。その様子を獣耳幼女たちは、『ふわぁああ~!』と感動した風に眺めている。穏やかながらも、胸を打つ光景だ――なんて浸っていられたのも束の間。

 エマが突然、俺の手を離してシュバッと鳩目掛けてしゃがみ込む。群れはバサバサと羽音を立てて空へ飛び立っていく。しかし小さな体が跳ねるように起き上がったとき、その両手は逃げ遅れた一羽をしっかり捕らえていた。

「やったー! よるのゴハンとれた!」

 鳩を頭上に掲げ、大喜びするエマ。ブンブンとイマジナリー尻尾が揺れている。
 リリとルルも集まって、三人でまたくるくる踊りだす。サリアさんも「でかした。私が捌いてやろう」とご満悦。

 完全に油断していたけど……うちの子たち、食べ物に関してはかなり貪欲だ。孤児として過酷なサバイバル生活を送っていたから。しかも獣人って、身体能力が高い傾向にあるみたい。

 そりゃあ、丸々とした鳥がその辺をのんきに歩いていたら捕まえちゃうよね。
 でもね、心苦しいけど……それ、食べちゃダメだよ。日本には鳥獣保護管理法という決まりがありまして。後で別のお肉を買ってあげるので、その子は逃がしてあげようね。

「なんで食べたらダメなんだ? この鳥は、誰かが飼育しているわけではないのだろう?」

「なんでって……なんでだろうね? なんか、個体数の調整とかあるんじゃない? それに病気とかも怖いし、そもそも美味しくないんじゃないかなあ」

 サリアさん的には、まったく理解できない法律みたい。エマたちも揃って不思議そうに首をかしげている。それでも俺は頑張って説得を続け、風前の灯火だった小さな命を救うことに成功する。 

 開放された鳩は、数枚の羽根を残して大急ぎで空へ逃げていく。もう捕まるなよ、と心の中で呟いて見送った。

 みんなの興奮もいったん収まったようなので、これでようやくお出かけできる……だが、ドライブがてらスーパーに寄っていいものか本気で迷う。なにせ、我が家の敷地からまだ一歩も離れていないのにこの騒ぎなのだ。

 とりあえず、エマの手をしっかり洗ってから改めて出発するとしよう。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...