我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
26 / 79
第一章

第26話 異世界の街の観光と干し肉

しおりを挟む
 周囲の安全が確保されたら、俺たちは廃聖堂を揃って後にする。
 どこへ向かっているのかと言えば、以前にも訪れた例の市場。ケネトさんに出会った場所だ。目的は、相場チェック。

 昨日から、我が家のエンゲル係数はバク上がりしている。うちの子たちはみんなよく食べるからね……当然、このままでは遠からず俺の貯金は底をつく。

 そこで、異世界の食材でやりくりできないかと考えたのだ。現状、こちらの金貨の方が日本円よりも入手しやすいし。

「そうだ、サクタロー殿。ただ歩くだけではつまらんし、よければこの街について軽く説明でもしようか」

「お、いいね。ぜひお願い」

 とてもナイスな提案だ。黙々と歩くだけじゃエマたちも飽きちゃうかもだしね。
 レトロな馬車が行き交う大通りを歩きながら俺が応じると、スウェットにサンダル姿のサリアさんがこの街についてざっと説明してくれた。

「ラクスジットは大まかに、五つの区域に分けられる。北の貴族街、東の迷宮街、東南の職人街、中央の商業街、西~南に伸びる住民街、といった具合だな」

 北の貴族街には領主の公爵家をはじめ、上流階級の館が立ち並んでいる。城壁で区切られているので、入るだけでも許可が必要なのだそうだ。別名は『白獅子街』で、白い石材の建築物が多いのと公爵家の紋章に由来する。
 
 東の迷宮街は、このラクスジットの名物であるところの『迷宮』の入口が存在する。探索者ギルドや各種飲食店、花街なども付近に軒を連ねている。

 東南の職人街は、その名の通り職人が集まる地区だ。騒音と鍛冶場からの煙が絶えないらしい。今もうっすら上空に見えている。

 街の中央には商業街が広がり、多くの商会がひしめいている。ゴルドさんの商会もここに属しており、他にも役場などの行政施設が集まっている。
 
 残る住民街は北に近いほど裕福で、廃聖堂があるのはだいたい西南あたり。南の端っこには貧民窟(スラム)がある。

 そして、街全体を大きな城壁がぐるっと囲んでいる。はるか昔、魔法を使える者を総動員して建設したのだそうだ。

「魔法か……すごいな。いつか見てみたい」

「おかしなことを言う。サクタロー殿も一緒に見たではないか、フェアリープリンセスたちの素晴らしい魔法を」

 サリアさんは、依然としてアニメと現実を混同気味だ……というか、彼女は身体能力を強化する魔法を使えるんじゃなかったっけ?

 近いうち、機会を作ってぜひ見せてもらおう。某国民的アニメの超サ◯ヤ人みたいに黄金のオーラをまとったりしないかな。

「わたし、フェアリープリンセスたちみたいになりたいなぁ」

「リリもプリンセスになりたい! でね、わるい人たちをやっつけるの!」

 肩車されているエマが夢見るように呟くと、隣を歩くリリが弾んだ声で追従する。ルルも、手つなぎリングをグイグイ引いて同意をアピールしている。

 この可愛らしい反応に、俺は「なれたらいいね!」と微笑んで答える。プリンセスのイメージに関する疑問はさておく。

 その流れで、どんな魔法を使いたいか話しながら楽しく歩けば、あっという間に目的の市場が街角の先に見えてくる。

「思ったより人が多いな。サクタロー殿、よければルルを抱いていようか」

「ああ、その方がいいかもね。エマも、悪いけど一旦おりて手を繋ごうね。リリは左手をしっかり握って」

 朝日に光る市場は、以前と変わらぬ活気に包まれていた
 ざっと通りを見渡す。獣耳と尻尾を持つ人間――いわゆる『獣人』と、一般的な外見をした人間が半々くらいの割合で見受けられる。
 
 住民たちは朝食を求めて集まったのか、なかなかの混雑具合だ。幼女たちが迷子になっては大変なので、サリアさんと協力して対策する。

 では、さっそく市場調査を開始しよう。
 人混みの流れに乗って、通りの左右に並ぶ露店をチェックしていく――品揃えは、前回と大きく変わらないな。

 食材に限って言えば、肉類が特に豊富だ。結構な数の露店が枝肉などを陳列し、大きな笹のような葉の上に切り身を乗せて売っている。あと、独特の香りを漂わせる草葉を添えていた。ジャーキーの類いも目に付く。

 見た感じ、新鮮で美味しそう。雰囲気もそうだが、ちょっとジビエっぽい……ただ、正体不明の肉が多いんだよな。ちょっと尋ねてみるか。

 ふと目についた露店では、古めかしい衣服を着た中年男性が呼び込みをしていた。その前で俺は立ち止まり、サリアさんに声をかける。

「あの、このファングボアの肉ってなに?」

「なにって、ファングボアは四つ足に牙を持つ魔物だが」

 なるほどわからん……異世界の言葉は、俺の耳に入った瞬間に翻訳されて聞こえる。文字に関しても、知らないはずなのにすんなり読める。原理や機序はさっぱり理解できない。

 だが、正確性には不安が残る。例えばいま口にしたファングボアは、直訳すると牙イノシシとなる。でもイノシシ、異世界にもいるの? 

 しかも牙とわざわざ修飾している。おまけに、魔物って……多分、地球に生息する種とは違うんだろうな。

 ならば当然、食べて大丈夫か心配になってくる。衛生観念だって不安だ――それでも、実のところは『問題ない』と本能的に理解していた。

 おそらく、例の虹色ゲートの効能ではないだろうか。すなわち、『神の奇跡』だ。
 言葉や文字が理解できるのと同様、異世界の常識を知らないにもかかわらず不思議と直感が働くのだ。それも、確信を抱くレベルで。

「これしってる、オイシイのよ! 孤児院でたべた! でも、ちょびっとしかもらえなかったの!」

 リリが黄金色のもふもふ尻尾を揺らしつつ、目の前の露店に並ぶ肉を指さして教えてくれる。
 そうか、食べたことあるのか。気になってエマにも聞くと、「おいしかったです!」と笑顔で教えてくれた。やはり左右に忙しなく動く亜麻色の尻尾を見るに、ファングボアの味は確かみたい。

 ちょっと試してみようか……なんて考える俺の視線の先では、ほのぼのとしたやり取りが繰り広げられていた。

 サリアさんに抱っこされたルルが、黒い猫耳をピコピコうごかしながら腕を精一杯のばし、露天商が差し出す小ぶりのジャーキーを受け取ろうとしている。その真剣な表情と懸命な仕草に、思わず笑みがこぼれる。

「嬢ちゃん、これ食べたらダンナ様に美味しかったって言うんだぞ? ちゃんと買ってくれるよう頼んでくれよ」

 露天商の要望に、無言ながら『うんうん』と元気よく頷くルルである。
 あれ、意味わかってないだろうな。ただ食べたいだけだ……が、うちの子たちに対する宣伝効果は抜群だ。

 ルルが念願のジャーキーを受け取ってもぐもぐ口を動かせば、すぐにリリとエマが『ズルい! 食べたい!』と騒ぎ出す。本日からはそこに、「私だって食べたいッ!」と全力で駄々をこねるサリアさんが加わった。アナタ大人でしょうに。

 とにかく、こうなったらもう買わないと収拾がつかないだろうな。
 まあ、どうせ味見するつもりだったからいいけどね。
 
 持参したこちらの通貨――リベルトリア金貨はサリアさんに預けてあるので、購入をお願いする。

「サリアさん、みんなの分を適当に買ってくれる? せっかくだから味見しようか」

「うんむ! 店主よ、干し肉を大袋でひとつ頼む!」

 ジャーキーだと思っていたが、干し肉だったらしい。
 というか、味見なのに量多くない? 

 案の定、露天商は喜色満面となり、干し肉が詰まった結構な大きさの麻袋を差し出してくる。

 お値段は、銀貨1枚と大銅貨5枚。袋はサービスらしいが、適正価格かどうかは不明だ。そもそも通貨単位がよくわからん。

 引き換えに、サリアさんがスウェットのポケットから取り出した金貨を手渡す……ずいぶんラフなスタイルだな。落としたらいけないので、後で財布でも買ってあげよう。

 しかし、相手はお釣りがなかった模様。周囲の露天商に声をかけ、なんとか工面してくれた。コンビニで水を買うのに、万札しかなかったときの気まずさを感じる。ご迷惑をおかけしてすみません。

「ダンナ様、ありがとうごぜえます! うちの干し肉は自家製ハーブの漬け汁で仕込んでますから、ひと味違いますぜ! お気に召したら、ぜひまたご利用くださいませ!」

「美味しかったらまた来ますね」

 笑顔で別れを告げ、俺たちは少し離れた路肩の空きスペースへ移動する。
 再び市場散策を開始する前に、さっそく皆で試食タイム。食べたいと合唱でおねだりするリリとエマを優先しつつ、俺もちぎった干し肉を口に放り込む。

「……うわっ、美味しい!?」

 恐る恐る数回咀嚼して、俺は興奮気味に声を上げた。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

陰陽師と結ばれた縁

サクサク
ファンタジー
2本に古くから続く一族の直系に生まれた女の子、安倍咲月は一族の中では霊力と神力が少なく、使用人や分家の親族からは“役たたず”と呼ばれていた。 だが、現当主である成親は彼女に最大限の愛情を注いでいる。 そして、そんな彼女の傍には強い力を持たないのその姿を見る事すっらできない、守護神である十二神将が控えていた。 18歳の誕生日に他の兄妹と同じように、一族内での成人式裳儀に挑むことになるのだが・・・・・。 ※なろう、カクヨムでも同じ小説を掲載中です。 どうぞよろしくお願いいたします。

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる
ファンタジー
異世界に召喚されたのに、剣も魔法も使えず「無能」と言われて追い出された。 仕方ないので芝を探してゴルフを始めたら、 なぜか遠くの魔族が次々と全滅していく。 剣は振らない。魔法も使わない。 代わりに測るのは、距離と風と芝のご機嫌。 それだけで、なぜか魔族は全滅し、 人と国と経済が、勝手に整っていく。 ——今日も彼は、 普通にゴルフしているだけ。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

処理中です...