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やり直し婚約式
しおりを挟む焚き火が、オレンジ色にルナシェの白銀の髪を染め上げる。その、あまりに美しい色合いをベリアスはただ見つめていた。
直前まで、二人を囲んでお祝いの言葉を述べたり、剣舞を披露したり、騎士団長ベリアスの暴露話に花咲いていた騎士達もようやく解散し、今、ここにいるのはベリアスとルナシェの二人だけだ。
「あー。すまないな。第一騎士団は特に、平民も貴族も、分け隔てなく実力主義なところがある。悪い奴らではないのだが、囲まれてしまって疲れたのではないか?」
たしかに、あんなに囲まれて、ストレートな質問攻めにあうなんて、ルナシェにとって初めての経験だ。
(でも、不思議と嫌ではなかった。それに、騎士団でのベリアス様の話もたくさん聞けてうれしかった。)
ベリアスは、騎士団でずいぶん慕われているようだ。そして、騎士達は皆、愛国精神にあふれ、少しだけ礼儀はないかもしれないが、それが逆にルナシェには新鮮だった。
「あの、ベリアス様……」
「ああ、なんだ?」
「婚約するよりずいぶん前から、私のことをご存じだったって、本当でしょうか?」
「ぶはっ!」
ベリアスの口から、飲みかけの葡萄酒が吹き出した。ルナシェは、ハンカチを取り出すと、ベリアスに差し出す。
「美しい刺繍が汚れてしまう」
「私が手慰みにしたものですから、価値なんてありませんわ。お使いになった後は、捨ててください」
そう言ってルナシェが、差し出したハンカチを受け取ったベリアスは、なぜがルナシェが渡したハンカチで口を拭かず、先ほどルナシェの涙を拭ったハンカチで口を拭いてしまった。
「捨てるということは、もらってもいいということだな?」
「え?」
意味がわからず、ルナシェは、ハンカチを見つめる。刺繍された赤い小さな花は、まるでベリアスの髪の色のようだ。
「あの、本当に上手ではないので」
謙遜などではなく、ほかの貴族令嬢と比べて、ルナシェは、刺繍に自信があるわけではない。
それなのに、返事をする前にベリアスは大切そうにハンカチをしまい込んでしまった。
(えっと、こんなことで喜んでもらえるものなの?)
それならば、もしかしたら以前の人生だって、マントやハンカチに刺繍をして贈ったなら、喜んでもらえたのだろうか。
ルナシェは、刺繍の腕に自信がなかったから、贈ろうという発想がなかった。
「ルナシェが、刺繍したということに意義がある」
「そ、そうですか……」
なぜだろう、うれしすぎて変な顔で笑ってしまっていないだろうかと不安になるルナシェ。
「下手でもよいのなら、これからも貰っていただけますか?」
「ああ、うれしいな。それなら俺も何か礼をしなければな」
「……ごめんなさいっ!」
「え?」
「せっかく贈っていただいた宝石、ここに来るために全部売ってしまったのです。だから、お礼なんて、私などに……」
たしかに、ベリアスが婚約式のために贈ったネックレスも、イヤリングも、ルナシェは、身につけていない。
ただ、ベリアスの髪の毛のようなくすんだ赤色のドレスを身につけているだけだ。
そのことにベリアスが気がつかなかったわけではない。ただ、ルナシェが目の前にいることほど、重要視していなかっただけで。
「そうか。だが、そんなものより会いに来てくれたことがうれしい」
ルナシェは、遠くに出かけることもなく、屋敷で過ごすことが多かったと聞く。そんなルナシェが、婚約式にベリアスが来なかったからと、こんな場所まで来た。
本当は、すぐにでもこんな危険な場所から帰らせるべきなのは、ベリアスにもわかっている。
それでも、その言葉をすぐに告げられなかったのは、会いに来てくれたことがうれしかったからに他ならない。
「ベリアス様……」
ルナシェのことをベリアスは以前から知っていたのか、という質問に答えをもらえていない。けれど、急な睡魔と酔いが回る。ルナシェは、コテンッとベリアスの肩に額を寄せた。
不意にベリアスに告げられたその言葉は、眠る直前のうわごとのようでも、震える唇から紡がれた本音のようでもあった。
「……それなら、もう一度やり直せますか? 今度こそ、ベリアス様のそばで」
「……え、ルナシェ?」
「………」
焚き火の暖かさと勧められるままに飲み慣れない葡萄酒を飲んでしまったせいで、ルナシェは、ベリアスの肩に寄りかかって眠ってしまった。
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