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赤獅子は走り出す
しおりを挟むルナシェが、ベリアスの前から姿を消して一週間。自ら探しに行こうとしたベリアスだったが、隣国との戦いは、激化しつつあり身動きがとれなくなっていた。
広げた地図には、たくさんの赤い印がつけられ、兵力の分布が示される。
「……なぜ」
それなのに、全く今後の作戦が浮かんでこない。いつもであれば、まるで軍神による天啓のごとく、ベリアスは作戦を練り上げるのだが。
その様子を壁際から眺めていた第一騎士団副団長ジアスは、部屋に響き渡るほどあからさまな、ため息をついた。
組んでいた腕をほどくと、ジアスは、ベリアスに近づき低い声で告げた。
「……ベリアス。今日だけは、この場を離れろ」
顔を上げたベリアスは、明らかに憔悴している。
騎士団に入団してから、ずっと行動を共にしてきたジアスですら、ベリアスがこんな状態になるのを見たことがなかった。
「……ジアス、そういうわけにはいくまい」
次の瞬間、ジアスが急にベリアス肩を遠慮なく殴った。よろめいたベリアスは、しかし倒れることなく踏みとどまる。
「ジアス……?」
「……お前のていたらくには、周囲もうんざりしているんだ! 間違いなく、ルナシェ様は、ドランクの街にいるだろう。一日しか猶予はやらない。黙ってさっさと探してこい!」
いつも穏やかな、ジアスの鋭い言葉は、まっすぐにベリアスに突き刺さった。
そのまま、踵を返し去っていくジアスを呆然と見送るベリアス。
「そうか……」
婚約式に行かなかったベリアスに、会いに来てくれたルナシェ。
深窓の令嬢として育ち、ほとんど屋敷の外に出なかったルナシェが、ここまで来るにはどれほどの勇気と覚悟が必要だっただろうか。
それに深淵を見てしまったかのような、ルナシェの目……。
「俺はまた、優先順位を間違えたのか」
ベリアスの代わりになる人間は、いくらでもいる。
ルナシェが気になって、まともな思考も出来ないベリアスの代わりなら、なおさらだ。
ベリアスは、走り出した。
裏の人間とのつながりだって、まだ使い切ってはいない。
持っている物全て使い切ろうと惜しくない。
ルナシェの死線をくぐり抜けたような目を放っておくくらいなら、全てを捨ててもかまわない。
それなのに、これだけの期間、ベリアスは身動きがとれずにいた。
何度でも、今度こそ、守ると誓った。
「ルナシェ!」
砦を出て、ドランクの街を進む。
目的の店は、法外な手数料と、対価を求める代わりに、ルナシェを探してくれるだろう。
道を曲がり狭い路地裏、急に薄暗くなった細い道を、ベリアスは全速力で走り続けた。
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