この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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白いドレスと嘘

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「ベリアス様が帰ってくるんです」

 ルナシェは、喜びを隠すことが出来ない、とでも言うように周囲に触れ回った。
 以前のルナシェならそんな行動をしなかっただろう。けれど、社交界の話題の中心になりつつある今のルナシェ、そして王都の話題の演劇のヒロインのモデルとしてのルナシェであれば周囲も違和感を抱かないはずだ。

「お祝いの品を届けに伺いました」

 事情を知っている数少ない人間の一人、ガストがたくさんの贈り物を届けてくれた。
 英雄として名高いベリアス・シェンディア騎士団長の帰還、それに合わせた豪華な祝いの品は、すべてルナシェが用意したものだ。

 積み上げられた贈り物。
 周囲の目を欺くことが出来るようにと、ルナシェは微笑む。

「そうそう、シェンディア卿から注文を受けた品もこちらに」
「……ベリアス様が?」

 真顔になってしまったルナシェ。
 ずっと、手紙すら送ることができなかったはずのベリアスが、一体何を注文したというのだろうか。

 隣の部屋に案内され、扉を開けてみると、そこには白いドレスが飾られていた。
 それは、以前ルナシェが自分で選んだ大人っぽいデザインのものではなく、豪華なプリンセスラインのドレスだ。

「え、かわいらしい」
 
 数え切れないほどの小さな花飾り、大きなリボン。そして、艶やかにきらめくパール。
 ほかの色なら少し子どもっぽいデザインも、白一色のドレスであれば、話は別だ。

「ルナシェ様が、ドランクから帰られてすぐに注文をされていました」
「そんなに前から、ベリアス様が?」
「お似合いになるかと」

 そっと近づいて、触れたドレスの布地は、軽くてふわふわで、サラサラとしている。
 よく見れば、とても薄い布を何枚にも重ねてボリュームを出していた。

「なんて贅沢な」

 ミンティア辺境伯令嬢として、隣国や王都から運ばれる品を見てきたルナシェは、目が肥えている。
 けれど、こんなに贅をこらしたドレスをルナシェは見たことがなかった。

「……シェンディア卿は、全ての財産を姫様に貢ぐおつもりでしょうか?」
「まさか……」

 しゃがんだままの体勢で、驚いて顔を上げたルナシェを、笑っているような糸目のガストが見下ろしていた。

「先日の瑠璃色の宝石に払った代金にも驚かされましたが……。ああ、そのブレスレット気に入っていただけたようですね。くすんだ赤色と言ってもたくさんありますから、完全に同じ色を見つけるのには、骨が折れました」
「……ベリアス様が、どうやって手に入れているのかと思っていたら、ガストが関わっていたのね。…………お会いできたの?」
「シェンディア卿はお元気でしたよ。商会が提供した部屋に身を潜めながら、夜も更けるまで、あなたの話を聞きたがる程度には。それに、どうやって毎回こんなに早く手紙が届いたと思っているのですか……」
「まさか、ガストが」

 それ以上言わずに、口の端をそっとあげただけだったが、ルナシェはそれが肯定なのだと理解する。
 どうしてそこまでしてくれるのか、前回の人生ではそこまでの関係ではなかったはずなのに、今もルナシェは理由が分からない。

「ありがとうございます」
「――――いいえ。その代わり、今後も我が商会をごひいきに」
「もちろんだわ」

 ルナシェ達のひいきなどなくても、すでにガストの商会は、王国全土にその販売網を広げている。
 それと同時に、すべての情報は、黒鷹商会に集まるという。

「――――ガストはすごいわ」
「ベリアス・シェンディア騎士団長、そしてその婚約者ルナシェ・ミンティア辺境伯令嬢に我が商会の品物を格別のご愛顧をいただいておりますから」

 事実として、以前より少し早いのだ。ガストの商会が、王国で最も信頼されるようになった時期は。

 そして、王都にも雪が降り始めた日。
 それは、前回の人生でベリアスが砦が陥落したとの報を受けて、ドランクに引き返した日。

 その知らせはルナシェの元に届いたのだった。


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