この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

文字の大きさ
58 / 67

瑠璃色の瞳と幸せな未来

しおりを挟む

 ***

 この場所が、敵の本拠地かもしれない、という言葉に緊張していたルナシェ。
 
(ここが敵陣って、どういうことですか?)

 その言葉が、ルナシェの喉から出かけたが、ベリアスにようやく降ろされて、聞き出すタイミングを逃したまま食事が始まる。

「……このスープ」
「好きだっただろう?」
「え?」

 その言葉に、思わずルナシェはアベルの瞳を凝視した。

(たしかに大好きな味で、なぜかとても懐かしい気がするけれど、初めて食べたわ?)

「……ああ。初めて食べたのだったか。すまない、勘違いしたようだ」

 記憶力が優れている兄が、そんなミスをすることはめったにない。
 けれど、気まずい沈黙に、そのことをそれ以上聞くことがルナシェにはできなかった。

「おいしいです……」
「そうだろうな」
「お兄様……?」
「……ルナシェは、気に入ると思った」

 いつもなら、会話が弾むはずの食卓。
 けれど、アベルもベリアスも、どこか物憂げだ。
 どこか気まずい雰囲気の中、すべての食事が、どこか懐かしく、ルナシェの口に合う。
 まるで、遠い昔に誰かが作ってくれた、故郷の味のように。

「……お兄様、魔塔に来てからの話をしてもらえませんか?」
「――――ルナシェ」
「私に以前届いた手紙は、先代魔塔主からだと聞きました」
「……ああ。それは」

 以前の人生では、ルナシェの手元に手紙が届くことはなかった。
 その手紙が届いた意味を、ルナシェは知らなければいけないと思った。

「グレイン……。まだ、その手紙を処分してはいないだろう?」
「はい……」

 青い炎とともに、燃え尽きたはずの黒い手紙がグレインの手の中に現れた。

「開けてみるといい」

 ルナシェは、恐る恐るその手紙を開く。

「きゃ!?」

 次の瞬間、ルナシェは、一番最初に呼び寄せられた、瑠璃色の光があふれる部屋に立っていた。
 ほどなく、何もなかった空間にアベルが現れる。
 その意味に気がついて、ルナシェは思わず震える。

「……もし、グレインが止めてくれなければ」
「ああ、ルナシェを断頭台に送り、瑠璃色の瞳を手に入れる事に失敗したせいで、焦っていたのだろうな? この場所に、直接ルナシェを連れてこようとしたのだろう。だが、おかげで、思い出してすぐにこの場所の痕跡をたどってたどり着くことができた」
「先代……魔塔主は」
「……ルナシェは知らなくてもいいことだ」

 アベルがそういうのであれば、すでに先代魔塔主は存在しないのだろう。
 つまり、この場所には、もう敵はいない……。敵はいないはずなのに。

「……これからは、幸せに過ごせるはずだ」
「お兄様?」

 微笑んで、ルナシェを見つめるアベルの瞳は、迷いがない。

「……ギアードがベリアス様のものになったんです。この場所とミンティア辺境伯領を隔てるものはもうないんですよ?」
「ああ、そうだな?」
「だから、この場所から動けなくたって、お兄様はミンティア辺境伯として」
「……ああ」

 瑠璃色の瞳を持った妹は、いつだって不幸な最後を迎えていたという。
 では、その結末が覆されたとしたら、一体何が起こるのだろうか。

『瑠璃色の瞳は、いつだってたった一組しかない』
『その力が、強すぎるから、もう一つは運命に排除されてしまう』

 その言葉が、ルナシェの脳内で反響する。
 もうすぐだ。もうすぐ、ルナシェとベリアスは結婚式を挙げる。
 ベリアスが帰ってこなかった戦いは、一足早く終わりを迎えたし、ルナシェを陥れた、フィアット・シェンディアはすでにいない。

 だから、全員で幸せになれるはずなのに。

 この場所に、囚われてしまったままのアベル。
 二組存在することができない瑠璃色の瞳。

「そんな顔をするな。結婚式をこの場所でしてくれるなんて、楽しみで仕方がない。これから先、幸せしかないはずだ」

 ――――お兄様も、一緒に幸せの中で笑っていますか?

 ルナシェは、その質問をどうしてもすることができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき
恋愛
「すまない。心の中に別の女性への気持ちを残して君と夫婦にはなれない。本当に、すまない」 アナスタージアは、結婚式の当日、夫婦の寝室にやって来た夫クリフに沈痛そうな顔でそう言われた。 クリフは数日前から一部の記憶を失っており、彼が言うには、初恋の女性がいたことは覚えているのだがその女性の顔を思い出せないという。 しかし思い出せなくとも初恋の女性がいたのは事実で、いまだにその彼女に焦がれている自分は そんな気持ちを抱えてアナスタージアと夫婦生活をおくることはできないと、生真面目な彼は考えたようだ。 ずっと好きだったアナスタージアはショックを受けるが、この結婚は昨年他界した前王陛下がまとめた縁。 財政難の国に多大なる寄付をした功績として、甥であるクリフとアナスタージアの結婚を決めたもので、彼の意思は無視されていた。 アナスタージアははじめてクリフを見たときから彼に恋をしていたが、一方的な想いは彼を苦しめるだけだろう。 それならば、彼の初恋の女性を探して、自分は潔く身を引こう―― 何故なら成金の新興貴族である伯爵家出身の自分が、前王の甥で現王の従弟であるクリフ・ラザフォード公爵につりあうはずがないのだから。 「クリフ様のお気持ちはよく理解しました。王命でわたしとの結婚が決まってさぞおつらかったでしょう。だから大丈夫です。安心してください。わたしとの夫婦生活は、仮初で問題ございません! すぐに離縁とはいかないでしょうが、いずれクリフ様を自由にしてさしあげますので、今しばらくお待ちくださいませ!」 傷む胸を押さえて、アナスタージアは笑う。 大丈夫。はじめから、クリフが自分のものになるなんて思っていない。 仮初夫婦としてわずかな間だけでも一緒にいられるだけで、充分に幸せだ。 (待っていてくださいね、クリフ様。必ず初恋の女性を探して差し上げますから) 果たして、クリフの初恋の女性は誰でどこに住んでいるのか。 アナスタージアは夫の幸せのため、傷つきながらも、彼の初恋の女性を探しはじめて……

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...