この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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繰り返される誓いと口づけ

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 ***

 ……ルナシェの目の前にいるのは、少しくすんだ、紅葉のような赤い色の髪の男性だ。

「ベリアス様……」

 その色を持つ人をルナシェは一人しか知らない。
 知らないはずだ。

「ベリアス? 誰だそれは」

 振り返った男性の瞳は、やはり落ち着いたグリーンだ。

「………あ、あの」

 白銀の髪の毛を手のひらにのせ、流れるように口づけを落としたその人は、ベリアスではないという。
 でも、間違いなくベリアスその人のはずだ。

(本当に?)

「……戦いに行くことになった」
「……え?」
「避けられない戦いだ。……だが、心配するな。この地は俺たちが守ってみせる」

 笑ったその顔も、ベリアスと同じその人。
 その人は、ベリアスではない。
 そして、ルナシェは知っている。

 これが最後なのだと。
 もう、二人が会うことはないのだと。

「……帰ったら君の瞳を、俺の色に染めてもいいか?」
「え?」
「そしてあの花を一緒に見に行こう。戦いが終わったなら、俺の魔力をすべて君に捧げる。そして、君の瞳は瑠璃色ではなくなる」
「あ……」

 行かないで、と叫びたいのに、この時間はもう過ぎ去ってしまっているから、覆すことはできない。

「あの花は特別だ。俺たちの願いが叶った時、一緒に赤い花が咲き誇る白銀の世界を、ともに見よう」

 ルナシェは知っている。
 二人はもう、会うことはなくて、瑠璃色の瞳のまま、少女は、兄の努力もむなしく、そして青年の願いが叶うこともなく、一人儚く消えるのだと。

 そして、その少し前、青年は戦場で散るのだと。

「……赤い花」

 魔力の気配を感じて涙に濡れた瞳を開けば、ルナシェは、見慣れた天幕のなかにいた。

(ドランクの砦……)

 少し開いた天幕の隙間から、覗いた大好きな色。大好きな人。

「……どうして、こんな危険な場所に、君がいる」

 記憶と時間が交差する。
 それは、魔法の力であり、二人の願いだ。

「だが…………夢なら、醒めないでくれ」

 ルナシェは、温かい体温を感じて、その体を抱きしめる。
 赤い花を一緒に見ようと、何度も繰り返された約束。叶わない願い。

「あなたに会うたび、この夢が醒めないでほしいと、何度も願った。でも、今は」

 生まれつき強い魔力を持って生まれた兄とは違い、いつだって同じ瑠璃色の瞳をを持って生まれたルナシェは、少しの魔力しか持たない、半端な存在だけれど。

 そして、瑠璃色の瞳が二組存在することを、なぜが神様も運命も許してくれないけれど。

「過去になんて、もう逃げない」

 目を覚ませば、憔悴した様子のベリアスに抱きしめられていた。
 温かいその手と、はち切れそうに強い鼓動が、夢ではないとルナシェに伝える。

「ご無事のお帰り、うれしいです」
「ルナシェ……」
「ずっと、ベリアス様を待っていたんですよ?」

 兄が過ごしてきた過去。
 いつだって、その時間のなか、ルナシェは妹だった。そして、ベリアスの……。

「どうか、今度こそ、私を手に入れてくださいね? そして、あの花を見に行きましょう?」

 きっと、すべてを思い出していないベリアスには、意味がわからないだろう。
 けれど、ベリアスのたくましい、傷だらけの腕は、ルナシェを強く抱きしめ返す。

「君の願いなら、すべて叶えるよ。……ルナシェ」

 もう一度、冬が来るまで……。
 繰り返された祈りを叶えるその日まで。
 二人の口づけは、ほんの少し先の未来を約束しているようだった。
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