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瞳の色が変わるなら
しおりを挟む「それにしても、あの女性は一体……」
襲撃の場面で、こちらをみて笑っていた女性。
彼女の笑顔が、目に焼き付いて離れない。
だって、たしかに断頭台に消えたあの日、彼女はルナシェを見て笑っていた。
「ああ、捕らえルことに成功した。あの女は……前魔塔の主だ」
「お兄様が魔塔の主になる前の。……ベリアス様は、彼女を見て何も感じませんでしたか?」
「……憎悪?」
端的に表わされた言葉は、思い出さないまでも、ベリアスの心証を正確に現わしているのだろう。
なぜ、ルナシェを狙うのか、その理由まではわからないけれど。
「いいえ……。この瞳、ですよね」
「ところで、たしかに矢が弾かれたあの瞬間、俺の目の前に君がいた気がしたのだが」
「…………ベリアス様」
ルナシェは、ベリアスにそっとネックレスをみせた。
先ほどまで、くすんだ赤色に瑠璃色が混ざり込んでいた宝石は、今は完全に紫色へとその色合いを変えていた。
「――――この色」
ベリアスが、ルナシェにこの宝石を贈った夜、たしかにルナシェの瞳はこの色をしていた。
その時、部屋の扉が叩かれる。
「ジアスか……。入れ」
独特な叩き方は、副団長ジアス・ラジアルの訪室を意味していた。
開けられた扉、茶色の髪と瞳をしたジアスは、今は申し訳なさそうに俯いている。
「ルナシェ様を任されたにもかかわらず、お守りできず」
「ジアス様……」
「不可抗力だ。立ち上がってくれないか」
立ち上がり、ベリアスに近付いた。
「――――顔向けできないにもかかわらず、こちらに来た理由ですが」
「ああ、報告を頼む」
「……おそらく、団長を守ったのは、ルナシェ様の魔法で間違いないでしょう。そして、魔法が発動された瞬間、ルナシェ様の瞳の色は、まさにその、宝石の色をしていました」
「やはり、そうか……」
「…………え? どういうことですか?」
それだけ言うと、「尋問がありますので」とひと言告げて、ジアスは退室した。
二人だけ残された部屋には、どこか気まずい沈黙が流れる。
「えっと、私の瞳の色がなにか……」
「ああ、ルナシェの瞳だが、この宝石のような紫に変わっていたんだ。すでに俺とジアス二人がそれを見た」
「…………そうですか」
ルナシェは、先ほど見た夢の内容をベリアスに話すか、ほんの少し迷った。
けれど、それは一瞬で、すぐに顔を上げて、まっすぐにベリアスの穏やかな緑色の瞳を見つめたルナシェ。
「私は、きっと今回のやり直している人生の前にも、ベリアス様にお会いしたことがあるのかもしれません」
「そうか……」
「……驚かないのですか」
「ああ、アベル殿がルナシェを妹として守ろうとした、いくつもの人生について話してくれた。そして、アベル殿の妹には、いつだって恋人がいたという。…………それが俺以外だったなら、地の果てだろうと、違う人生だろうと探し出して始末しなければならないだろう」
「……ご冗談を」
「本気だ。どれだけ、生死を繰り返し、また新しい人生を歩もうと、俺はルナシェを愛するに決まっている。これは、確定事項だ」
当たり前のように言い放ったベリアスは、ルナシェを強く抱きしめた。
「結婚式が、本番でなくてよかったな。魔塔で、結婚式を挙げたら、今度こそ二人であの花を見に行こう」
「…………あの花」
髪に挿された、美しい大輪の赤い花。
その場面は、ルナシェにとって、初めて二人でその花を見た、大切な思い出だ。
「ああ、悲しい物語は、もう終わりだ。終わらせてみせる」
抱きしめられながら、ルナシェもベリアスの背中に手を回す。
隣国も、王族も、魔塔も、なにもかもまだ解決できていない。
それでも、ようやく本当に再会できたような喜びをルナシェは隠すことができずにいた。
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