夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

文字の大きさ
37 / 43
第2章

国宝クラスの茶器

しおりを挟む

 * * *

 無事にお茶会を終えた翌日。
 アシェル様は今日もお休みを取っていた。

 宰相のお仕事が忙しすぎたため領地関連のお仕事が山積みになってしまったらしい。

 その合間を縫って、初めてとも言うべき夫婦二人だけのお茶会を開催している。

(気合いを入れてベリーパイを焼いたけれど、気に入っていただけたかしら?)

 フォルス辺境伯領は緑豊かな美しい領地だけれど、その一方で王都のようにオシャレな菓子店などない。

 だから、お客様へのお菓子は料理長と私が協力して作っていた。

「いつもの料理長の菓子と違うな……」
「えっ、ええ……」

 私が作りましたと言えばアシェル様は手放しで褒めてくるに違いない。
 でも、私が聞きたいのは嘘偽りのない感想だ。

「甘さ控えめでうまいな」
「そうですか!」
「そういえば、先日カイン・フォルス辺境伯にお会いしたとき、妹の作るパイの自慢を延々とされたな」

 相変わらず、カインお兄様の妹贔屓はすごい。

「……それは、兄が申し訳なく。それにしても、せっかく王都にいらしていたなら顔を出してくだされば良いものを」
「いや、陛下から緊急の呼び出しでな。君に会えないことを嘆きながらもトンボ返りだ。そして俺も君の淹れる紅茶は最高に香りが良いと返しておいた」
「……どこでその話を」

 トンボ返りだったというなら、王城で会話したに違いない。

(まさか陛下の御前――あり得ないわね)

「陛下がうらやましがっておられたので、二人で自慢しておいた」
「な、ななな」

 私の田舎パイや私が淹れたごく平凡な紅茶を陛下に自慢するなんて……我が夫と兄ながらめまいがしてしまう。

 そこで、アシェル様の紅茶がもうすぐ空になることに気がつく。

「おかわりいかがですか?」
「ああ、いただこう」
「それにしても、二人のお茶会に国宝クラスの茶器を使うなんて、贅沢すぎませんか」
「普段から使って慣れれば良かろう」
「でも、割ってしまったら」

 ボソリとつぶやいた瞬間、アシェル様が真顔になった。

「それはいけないな」

 それはそうだろう、国宝クラスの茶器を使わせていただいているのだ。

 壊してしまわないように細心の注意を払うべきだし、こうして和やかな雰囲気の中で最高級の茶器を使うのもベルアメール伯爵夫人としてふさわしい振る舞いを身につけるための訓練だったのだ。

 自分の考えの浅はかさを密かに恥じていると、アシェル様がポットを自分のほうに引き寄せた。

「もし茶器が割れて、君の柔らかい指先が傷ついてはいけない」
「……」
「これから先、二人きりのときに君が飲む紅茶は全て俺が淹れることにしよう」
「……!?」

 アシェル様のことを尊敬だけしていたいけれど、それと同時に私に向けられる重すぎる愛に気がつきつつあるから……。

「問題ありません。割ったりしませんので」

 私はニッコリ微笑んで、茶器を再び自分の手元に引き寄せたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...