夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第3章

隣国からの手紙

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 手紙に書かれていた日付はなんと今日だ。手紙が遅れてしまったのか、それともよほど急いで来たのか。
 何ごとにつけても完璧に整えてから開始するタイプの下の兄にしては珍しい。

 準備を整えていると、ほどなく先触れがあった。それとほぼ同時にミートパイが焼き上がる。

 上の兄は甘いものが大好きだけれど、下の兄は苦手なのだ。

「久しぶりだな」

 ミートパイをテーブルに置いて振り返ると、少しウェーブがかかった淡いピンクの髪に紫の瞳をした兄がいた。
 抱きつかん勢いで走り寄り、広げられた腕の中に飛び込む。

「イディアルお兄様!! お久しぶりです」
「はは、噂では麗しの伯爵夫人として社交界を賑わしていると聞いたが……俺の可愛い妹はあまり変わっていないようだな」
「……あっ」

 下の兄に久しぶりに会えたことが嬉しすぎて、つい子どものようにはしゃいでしまった。でも、今さら体裁を整えようとしてももう遅いのだ。使用人たちも微笑ましいというような視線で私たちを見守っている。

「ところで、アシェル殿は?」
「王城からここ三日ほどお帰りになってしません」
「なるほど……フィリアを寂しがらせるなど不届きな男だ」
「とてもお忙しいことを理解していますから」
「そうか、フィリアはいいこだな」

 それはまるで、兄二人が揃って出掛けたあと、子どもだった私が泣かずに留守番できたと自慢したのを褒めたときのような口ぶりだ。

 以前なら子ども扱いされていると思ったけれど、離れている期間が長かったから兄の言葉がただ懐かしい。

「でもイディアルお兄様、手紙とほとんど同時につくなんて、よほど急いでこられたのですか?」
「……少し前に出したつもりだが、手紙が遅れたのかもしれないな」
「本当に?」
「……」

 もしかして火急の用件で駆けつけたのではないかという思いが拭えずに質問すると、下の兄は軽く瞠目した。

「しばらく会えぬ間に、フィリアの成長が著しい……!」
「私、子どもじゃありません!」

 はぐらかされたのか、本気の言葉なのか判断が難しい。
 下の兄は私のことを微笑みながらジッと見つめ「だが、幸せそうでなによりだ」とつぶやいた。

 そして表情を改めると一通の手紙を私に差し出した。
 それはすでに封が切られている、カインお兄様宛の手紙だ。

 どうして上の兄宛の手紙を私に見せるのか、と訝しんでいたときその封筒に施された封蝋の紋様が目についた。

 真冬の吹雪の中でと青々とした葉を茂らす冬知らずの木の枝……そしてその木を照らすのは永遠に消えることのない不死鳥の炎……。

 それは、隣国レザボアの王家の紋章だった。
 
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