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第3章
答えは決まっている
しおりを挟む手紙を読み進める。
そこには信じられないことが書かれていた。
震える指先を押さえ込み、下の兄に視線を向ける。
「――と、いうことだフィリア」
「確かにこれは、イディアルお兄様も慌てていらっしゃるでしょうね」
「……どうしたい?」
「私が決めてよろしいのですか?」
手紙に書かれていたのは、隣国の王太子からの婚約申し入れを断った事に対する抗議だった。
やんわりとした書き方ではあったが、場合によってはフォルス辺境伯領の不利益になるという内容だ。
恐らく、ここ3日間アシェル様が屋敷に戻ってこられないのは、この問題を処理するためでもあったのだ。
――私と隣国のロイ・レザボア殿下が結婚したのなら、この国ミラベルと隣国レザボアの国境線は変わったかもしれない。
まさか――と思わないでもないが、兄たちの私に対する溺愛を考えたら完全に否定できない。
だから、私の答えによってはフォルス辺境伯領の対応が変わってしまう可能性すらある。
「――ロイ殿下とは結婚したくありません。以前はフォルス辺境伯家のためであれば致し方ないと思っていました……でも、今はアシェル様のそばにいたいです」
私の選択如何によっては、宰相であるアシェル様に負担を与えてしまうことだろう。
けれど、ようやく思いを確かめ合ったのに、離れるなんて身が引き裂かれそうにつらい。
「……そうか、ベルアメール伯爵に対しては思うところがあるが、こんな風に隣国に舐められて気分が悪い」
背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
イディアルお兄様は、私にはとても甘いのだけど、政治における判断は時に冷酷で悪鬼のようだと恐れられてもいる。
敏腕宰相との評価が高いアシェル様ですら、イディアルお兄様だけは敵に回したくないと言っていた。
家族の話になったとき、ランディス子爵令嬢も彼女が知っているイディアル・フォルスと、私が話す下の兄が同一人物とは思えない、と言っていた。
「さて、方針も決まったことだし、そろそろ登城するか」
「私が意見を言って本当に良かったのですか?」
これはフォルス辺境伯家だけの問題に留まらない。場合によっては、隣国との関係がより悪化してしまうかもしれないのだ。
恐る恐る聞いてみるが、下の兄はにっこりと微笑んで首をかしげた。
「もちろん、フィリアがきちんと決めてくれて良かったよ」
「どういうことですか?」
「ベルアメール伯爵が、隣国相手に戦闘態勢に入ってしまってはさすがに止めるのが面倒だ」
「イディアルお兄様が止められないなら、誰も止められませんものね……」
「――お前が止めたら簡単に止まるさ。相当ショックを受けるだろうが――ん、それを見るのも楽しいか」
「え?」
「まあ、気にすることはない。では、いってくるとしよう」
「いってらっしゃいませ」
軽く手を振って、去って行く下の兄を見送る。
もちろん、味方になってこれほど頼りになる人はいない。
たぶん、この問題は私が下手に動くより下の兄に任せておいた方が良いのだろう。
私はそう思いながら、ベルアメール夫人としての社交の準備や勉強にいそしむのだった。
* * *
そして午後になって、いつもであれば下級文官が運んでくる定期文書をもって彼女が現れた。
――もちろん彼女とは、ランディス子爵令嬢のことだ。
彼女は私と目が合うや否や「どうするつもりよ」と言って金色の目を細め口の端をつり上げたのだった。
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