本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

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本の虫令嬢は竜騎士に発見される 3

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 もちろん、アーロンは、ミリアを屋敷に招待した時点で、ウェンライト男爵家にすでに使いを出している。

 すみれ色の瞳は、とても珍しい。
 本気になって調べればすぐ、ウェンライト男爵家に行き着いた。

 そのことを馬車の中で知ったミリアは、貴族令嬢らしからぬと知りながらも頬を膨らませた。

 そもそも、ウェンライト男爵家は、貴族の末端に位置しているものの、裕福でもなければ名家でもない。
 貧乏ではなかったが、高級品の本を自由に買うことができるほど裕福でもない。
 家族仲はよく、数少ない使用人達とも家族のように暮らす、それがウェンライト男爵家だ。

「――――連絡してくださっているのなら、教えてくださればよかったのに。今頃家族が騎士団に捜索願を出しているのではないかとヒヤヒヤしてしまったではないですか」
「そうだな? ――――家族仲がよいのだな」
「まあ、いい方だと思います」
「そうか。うらやましいな」

 それだけ言って、はじめてミリアから視線を外して窓の外に視線を向けたアーロンは、やはり少しさみしそうだ。
 馬車で向かい合って座っているアーロンを、改めてミリアは観察する。
 黒い髪はつやがあり、金色の瞳は太陽のように輝いている。
 笑うと少しだけ見えるとがった犬歯は、竜の牙のようだ。

 竜人は、王都には今一人しかいないという。
 どうして、たった一人でアーロンは王都にいるのだろうか。
 もしかすると、今日読ませてもらった本の中に、ヒントが隠されているのかもしれない。

 古代語で書かれた竜人に関する文献は、古代語というだけでなく専門用語が多くて、言い回しも難解だった。
 アーロンの屋敷にあった古代語の辞書を探し出して調べながらではないと内容の判別が難しい。

 ――――まだまだだわ。世界中の本を読むという夢はまだ遠いわ。

「…………どうしても、帰らなければいけないのか?」
「え? もちろん家に帰りますけれど、むしろ、どうしてそんな質問をするのですか?」
「――――番なのに」

 番というものがよく分からないミリアと、なぜかそのことを何よりも重要視しているようなアーロン。
 もちろん、人間には番という概念がわかりにくいかもしれない。
 けれど、アーロンが持つその気持ちが少しも分からないのだとすれば、ミリアがまだまだお子様なのも原因なのかもしれない。

 ものすごく座り心地がよくて、そっと触れば座席もふかふかと手触りのよい布地で覆われている馬車の中、ミリアはアーロンの金色の瞳をのぞき込む。
 悔しくなるほど美しい顔をしている。
 ミリアは、少しだけ低い鼻にかかった、メガネの位置を直す。

 ミリアが唯一周囲に褒められる美しいすみれ色の瞳は、丸いメガネの中に隠されてしまい、その存在感を主張していない。

 フワフワと揺れる髪の毛も、可愛らしくまとめれば妖精のように見えるだろう。だが、今は簡単にまとめられているだけだ。

 化粧の一つもしないのは、18歳になった貴族令嬢の中で、ミリアくらいなものだろう。

「家に帰りますけれど、まだあの本全く読み進められていないので、明日も伺ってよろしいでしょうか?」
「――――っ、ああ。待っている」

 その瞬間、子どもみたいに笑ったアーロンを見て、ミリアの心の奥底の、何か小さな箱みたいなものがゴトゴトと揺れたのだけれど、本日はそれ以上何かが起こることはなかった。 

「明日も迎えに行く」
「――――え? 場所も分かったので、歩いて行けますよ」
「いや。迎えに行きたい。迎えに行かせてくれ」
「竜騎士様って、お暇なのですか?」

 首をかしげたミリア。
 真剣な表情のままのアーロン。

「いや? 暇というわけでは。そういえば、今日は国王陛下の呼び出しに応えるために、王宮の庭園を抜けて近道しようとしていたところだったな」
「え?」
「まあ、番を見つけたので行けない、という連絡をしたので問題なかろう」
「――――国王陛下からのお呼び出し?」

 さあああ……。っと血の気が引く音がするみたいだ。
 国王陛下からのお呼び出しを邪魔してしまったとなれば、吹けば飛ぶような弱小貴族であるウェンライト男爵家なんて、一族全員処罰は免れないだろう。

「えと、どうして国王陛下よりも番を優先しようとしたのですか?」
「――――え? 当たり前だろう。竜王様ですら、番を見つけたと言えば、そちらを優先させろと言うに違いない」

 ミリアは竜王様なんて存在がいること自体はじめて知った。

「――――明日は、必ず陛下に謁見してきてください」
「え? なぜ」
「それが人間社会というものです」
「俺は…………。いや、ミリアはそうしてほしい?」

 ため息をつかずにはいられない。
 竜騎士様は、王国の英雄で、今となっては王都にたった一人しかいない竜人だ。
 人間の考え方と、少しずれているのは、今日一緒に過ごしただけでも嫌というほど理解した。

 ――――でも、少し分かったことがある。

 そう、ミリアは少しだけアーロンのことが分かってきた。
 だから、この選択肢への答えは、一つしかない。

「はい。国王陛下からのお呼び出しの理由を確認して、きちんとお答えしてきてほしいです」
「…………ミリアがそう言うなら」

 本当に番という存在は、竜人にとってなんなのだろう。
 番について書かれている本は、少なくともミリアが知る限りどこにもない。
 隠されているのかもしれないが、アーロンの屋敷のあの素晴らしい夢空間にならあるのかもしれない。

「その代わり、明日もアーロン様のお屋敷に伺ってもいいですか?」
「え?」
「本を読みながら帰りをお待ちしてます。読書仲間として」

 どちらにしても、ミリアは本を読んで過ごすのだ。
 その場所が、公開されている王宮の庭園から、アーロンの屋敷になるだけのことだ。

「――――そうか」

 アーロンの機嫌が一瞬にしてよくなったのを見て、ミリアは察した。
 多分これから、アーロンとミリアは一緒に過ごす時間がものすごく増えるのではないかと。
 そして、ミリアはこれからもたくさんアーロンに「お願い」をすることになるのだろうと。
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