本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

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竜人心と春の庭園 1

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 朝が来る。こんなに待ち遠しくて、まぶしい朝は、はじめてなのかもしれない。
 その理由を、ミリアはまだ知らない。

「――――あの本が読める」

 知りはしないが、こちらの理由もまた真実なのだった。

 昨夜は、なかなか寝かせてもらえなかった。
 結局、番ということは伏せたものの、アーロンに屋敷に招待されたことや、珍しい本に没頭しすぎて時間が過ぎるのを忘れてしまったことまでは、洗いざらい話すことになってしまったミリア。

 父は倒れ、兄は不機嫌に、母の顔は上気していた。

「あっ、今日も本を読んだときにサイドの髪の毛が落ちてこないようにしてね?」
「色気がないですね。お嬢様……」

 この部屋にいるときだけは、幼い頃のような会話をしてほしいとお願いしてある侍女のソフィー。
 そのソフィーが珍しく、ミリアの髪を真剣に髪の毛をブラッシングしている。
 絡まるまではいかないまでも、やっぱり広がってしまうミリアの髪の毛は、扱いにくい。

 ミリアに色気がないのは事実だ。

 眼鏡をしている貴婦人なんて、見かけない。でも、眼鏡を外してしまったら、本が読めない。
 化粧をしないのだって、そんなことをしている暇があるなら、本を読んでいたいから。

 ミリアの毎日は、読書を中心に回っているといっても、過言ではない。

「ねえ。今日はずいぶん気合いを入れるのね?」
「だって、アーロン様にお会いになるのでしょう? 庭園で待ち合わせなんて、ロマンチックですよね」
「そうかしら?」

 ミリアは、アーロンがわざわざここまで迎えに来るよりは、用事の帰りに庭園によってそのまま連れて行ってくれる方が手間にならないのではと思っただけなのだが……。

『……本当に、ミリア嬢は俺のことを喜ばせるすべを心得ている』

 アーロンの声は、とてもいい。低くて心地よくて優しい。
 竜人だからなのだろうか。見た目も街を歩いてたら全員振り返るくらいいい。
 でも、眼鏡をしてもそこまで視力がよくないミリアにとっては、顔の造作よりもやっぱり声が一番気になる。

 それでも、今のところミリアにとっては、アーロンよりも本の方が魅力的に思えてしまうのも事実だ。

「――――読書に行かれるのですよね。アーロン様は、いいところをついてきますね」

 キュキュッと髪の毛がまとめられていく。
 いつもは、読書の邪魔にならないように簡単にまとめているだけの髪の毛も、今日は編み込まれてリボンが結ばれてかわいらしい。

 エンパイアラインのドレスには、胸元までの丈のジャケットが合わせられる。
 今の王都の流行だ。いつの間に用意されていたのだろう。

「王都で流行なんです。男心を、鷲づかみらしいですよ?」

 ――――鷲づかみ。

 番とは何なのだろうか、とミリアは再び考えを巡らせる。
 すべてを差し出しても構わないなんて、初対面の人間に抱く気持ちではない気がする。

 アーロンからの気持ちは、初手からあまりに大きすぎて、現実のものとして受け入れるのは難しい。
 それなのに、嫌悪感を抱いていないことが不思議で仕方がない。

 ただ、これ以上男心というか、竜人心を鷲づかみしてしまったら困るなぁ……、とミリアは素直にそう思ったのだった。
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