本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

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竜人心と春の庭園 3

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 まだ少しだけ肌寒い、春の朝の風。
 上着を着ていても、薄くて少し寒いドレスが風に揺れる。

 サイドの髪を緩く編み込み、結ばれた淡いリボンの色はミリアの瞳の色とおそろいのすみれ色だ。
 ふんわりと揺れるドレス。珍しく薄く化粧も施されたその姿は、とてもかわいらしい。

「――――無事、謁見されたのかしら」

 竜人と王族の関係なんて、末端貴族のミリアはもちろん知るよしもない。
 それでも、少年みたいなアーロンのことを思うと、どうしても心配になってしまう。

 ――――これが、噂に聞く母性本能というものなのかしら?

 実際は、ミリアに心配されるまでもなく、王国で確固たる地位を持っているアーロン。
 竜に乗ったなら、恐らく王国の騎士団すら相手にできるのがアーロンだ。
 けれど、幸せで平和な読書生活を送るミリアが、そんなことを知るよしもない。

 風に揺れる淡い茶色の髪は、光にすけると金茶にも見える。
 その時、黒い雲が急に空を覆い、雷鳴がとどろいた。

「――――え?」

 空からこぼれ落ちた、大粒の雨。
 ぬれてしまっては大変と、庭園の白いガゼボに飛び込むミリア。
 髪の毛も、服もそれほど濡れなかったけれど、水滴がついて見えづらくなった眼鏡のレンズを、ハンカチでそっと拭う。

「おや、美しいご令嬢。あなたみたいな人が、いただろうか?」

 眼鏡していないすみれ色の瞳を、ミリアは男性に向けた。
 銀の髪の毛に青い瞳をした男性だ。色合いくらいしか分からないけれど、恐らく美男に違いない。
 貴族らしい褒め言葉に、ミリアは「ありがとうございます」とだけ答える。

 雨は強くなる一方で、しばらくこの場所から出られそうもない。
 男性と二人きりなんて、気まずい。

 眼鏡をかけ直そうとしたときに、立ち塞がるようにもう一人の人影。

「ミリア嬢……。待たせてすまなかったな。濡れなかったか?」

 優しく気遣う声。けれど、もしミリアが眼鏡を掛けていたなら、射すくめるような金の瞳が背後の男性に向けられていることに気がついただろう。

「私は、ほとんど濡れていませんが、アーロン様はびしょ濡れですよ?」

 追いかけてきたのだろうか。雨が止むまで待っていてもよかっただろうに。

「――――行こうか」
「え? この雨の中」
「大丈夫。少しだって濡れさせやしないから」

 手を引かれ、ガゼボの外に出る。
 びしょ濡れになるのを覚悟したけれど、なぜかミリアの周りだけ美しい虹が浮かび、雨が降り注ぐことはなかった。

「アーロン様?」
「ほら。大丈夫だろう?」

 ――――竜人の使う魔法なのだろうか。

 不思議に思って、虹が彩るその光景を見ていたミリアだが、もっとよく見ようと眼鏡をかけ直した瞬間、おかしなことに気がつく。

「アーロン様は、なんで雨に濡れているんですか?」
「――――え?」
「どうして、私だけ濡れていないんですか?」
「この魔法は、一人用だから?」

 何を考えているのだろう、とミリアは少しばかり怒った。
 いくらミリアが濡れなかったとしても、アーロンが風邪を引いてしまったらどうしようもない。

「もう! さっきの場所に戻りましょう。風邪を引いてしまいますよ」
「――――嫌だ」

 ミリアの手が強引に引かれ、次の瞬間やっぱり黒い塊の上にいた。

「アーロン様!」
「竜も、竜人も雨は好きなんだ。だから、濡れるなんてどうということもない」

 相変わらず、ミリアだけが濡れることもないまま、空を飛ぶ黒い竜。
 やっぱり風圧が強いせいで、これ以上文句を言うこともできないまま、ミリアはアーロンにしがみついた。
 
 
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