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王命による結婚 1
しおりを挟むアーロンが呼び出されたのは、次の朝だった。
「討伐、ご苦労だったな」
「陛下……。ええ、まさかあんなものが現れるとは」
「大けがをして、復帰には一ヶ月以上かかると報告を受けていたのだが、思いのほか元気そうだな?」
そんな情報を得ていながら、翌日には呼び出すとは、どこまで知っているのかと、密かにアーロンは戦慄した。
すでに、ミリアの力でアーロンが驚異的な回復をしたことすら、国王ガルーダ・ドルトムントは、知っているのではないかと思えてくる。
昨日までアーロンが戦っていた、巨大な白虎だった。
強さで言えば、竜には劣るかもしれない。しかし、多くの魔獣を従えた白虎は、知能も高く、竜とともに戦うアーロンですら苦戦した。
人間の力では、王国の精鋭達ですら太刀打ちできないだろう。
「アーロンの存在がなければ、この王国は魔獣に蹂躙されていたことだろう。褒美を取らせる。とりあえず、ウェンライト男爵家令嬢ミリアと結婚しろ」
「――――は?」
「これは決定事項だ。明日、褒美を授与するとともに二人の婚約発表を行う」
「…………どういうことですか」
ガルーダ・ドルトムントの赤い瞳が冷たく細められた。
見るものを震えさせるような王者の威厳。
しかし、アーロンはまっすぐに金色の瞳を見据える。
「お前には、ほとんど弱点がなかった」
確かに、竜人であるアーロンを傷つけられる人間なんて、そうそういないだろう。
毒だって、人間よりも敏感な嗅覚を持つアーロンを欺いて飲ませることはできない。
そもそも、竜人は毒物に耐性がある。
「俺だったら、ミリア嬢を狙うな?」
「それはっ」
アーロンの危惧していることも、それだった。
少なくとも、アーロンの屋敷にある図書室は、強力な結界を張ってあるし、屋敷の使用人達も優秀だ。
しかし、ウェンライト男爵家に戻ったミリアを守りきるのは、難しいだろう。
「――――結婚しろ。そして、屋敷の中に囲い、守れ。俺は、番を失った竜人に、王国を破壊されてしまうなんて御免だ」
番を失った竜人は、寝食を忘れ、最期には死んでしまう。
だが、その原因が他者にあった場合、竜人は決してその相手を許さない。
もしも、ミリアが王国の誰かに害されれば、その怒りは王国を灰にするだろう。
「…………そうですね」
アーロンが、もしもミリアのことを本当に番とだけ認識していたなら、こんな迷いを感じることはなかっただろう。
しかし、アーロンは、ミリアに番としてだけではなく、恋人として愛を捧げたいと願ってしまった。
選択肢はそれほど多くない。
アーロンはため息をついた。
ミリアは、どう答えるだろうか。
ようやく思いが通じ合えたばかりなのに、そんなに急に距離を詰めたら嫌われてしまうのではないだろうか。そんな後ろ向きな思考、アーロンは自分がまさかそんな考え方をするなんて、ミリアに出会うまで想像もしていなかった。
「なぜだろうな。お前は、ミリア嬢のことになった途端、ただの青年のようになる」
国王ガルーダは、少し肩を落として立ち去るアーロンの背中を見送りながら、少し楽しげにつぶやいたのだった。
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