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王命による結婚 5
しおりを挟むそれにしても、嫌な視線だ。
国王ガルーダ・ドルトムント陛下のそばに近づくにつれ、嫉妬や憎しみを含んだ、いつまでも降り続く雨のように、冷たくジットリとした目線が、ミリアとアーロンに向けられる。
ミリアが不安がっているのではないかと、さりげなく視線を向けるアーロン。
「見て下さい。あの絵、古代神話の一場面です。今は、ほとんどの資料が失われたと言われているのに。先日読んだ古文書に描かれていた場面ですよ! ……あんなに色鮮やかに。さすがは王宮ですね」
「は?」
アーロンには、ただ男女が見つめ合っているだけの絵画に見える。
扇子で口元を隠したまま、満面の笑みを返され、アーロンは、また本の話かと脱力した。
「……君の心臓は、鋼で出来ているのか」
「え? 何か仰いましたか?」
「いや、何でもない」
「そうですか?」
周囲の視線に気がついていないらしいミリア。
ミリアが、不安がっていないのであれば、捨て置いても良いのかもしれないが……。
「そろそろ面倒になってきたな」
誰でも聞こえないような小声でつぶやいたアーロンは、密かに、威嚇を含めた魔力を周囲に放つ。
その途端、つぶらなすみれ色の瞳が、まっすぐにアーロンを見つめた。
「……アーロン様、あまり周囲に敵意を向けるのはおすすめしません」
そんな言葉とともに、アーロンの上衣の裾をミリアがツンツンッと引っ張る。
威嚇は、対象だけに向けたはず。アーロンは、軽く目を見開いた。
「……どうしてわかったんだ、ミリア」
「真横で、今にも戦いそうな雰囲気になれば、誰でも気がつきますよ。私まで、ピリピリしました」
そんなはずはない。
アーロンから魔力を向けられた貴族は、青くなって震えているが、周囲にはわからないようにしたはずだ。
もちろん、ミリアにも。
……番だから、なのだろうか。
「さ、国王陛下に結婚のお許しを請うのでしょう?」
ミリアは、アーロンの腕に、白くて細い腕を絡ませて、優雅に笑う。
そのあまりの美しさに、アーロンは、思わず見惚れた。もちろん、周りの貴族達もミリアの笑みから目が離せずにいる。
アーロンの人間と比べて優れた聴覚には、周囲から感嘆のため息まで聞こえる。
その視線とため息に、ミリアは気がついているのかいないのか。
おそらく後者に違いない。社交界から縁遠かったミリアが、周囲の視線を一身に受けてしまうのは、天性のものなのだろう。
それとも、ほんの少し引いた竜人の血がそうさせるのか。
どちらにしても、これだけ注目されても平気なミリアが豪胆なのだ。
アーロンは、そう結論づけた。
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