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恵まれないジニアルに恋の気配が
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王太子オーレム=チャーリ―=グレイシャスは黒髪の側妃が産んだ子である。
ライト=カイン=グレイシャス陛下が20歳の時、その時の国際情勢からサザンクロス帝国から王女を正妃として迎え入れなければならなくなった。
しかし、その時既に陛下には結婚を目前に控えた相思相愛の令嬢がいたのだ。
宰相であるブックス公爵の令嬢、マドンナ。
艶やかな黒髪が夜を思わせる、しっとりと知的な美人で、彼女と離れたくなかった陛下はあろうことか婚前交渉をして王女の輿入れ前に彼女を孕ませたのである。
正妃と婚姻の儀を結び、式は身内だけとしてすぐさまマドンナを側妃として迎え入れた。
サザンクロス帝国は怒ったが、胎に子がいてはやむを得ない。
王子はライトだけでどうしようもなく、その上嫁いだハニュ王女自体がそれを許し、あまつさえマドンナと親友になってしまったので、許すしかなかった。
そして、第3王子のハロルド=ホーランド=グレイシャスはブックス公爵家とは別の派閥のポート辺境伯家から嫁いだ2番目の側妃、サリーの子だ。
サリーもハニュやマドンナと仲が良く、既に側妃を娶ってしまったことからバランスを考慮して嫁いだ。
様々な思惑が周囲には入り混じっていたが、ハニュは優しく穏やかな性格――――つまり箱入り娘の天然ちゃんで、庇護欲にかられたマドンナとサリーの3人の妃はとても仲が良く、子ども同士も仲の良い兄弟だ。
1学年上に在学していたオーレムは忘れない。
それまで、正妃の産んだジニアルこそが王太子の最有力候補であり、その美貌も相まって、彼の周りには常に女性がまとわりついていた。
それこそメイドまでがじっとりねっとりとした目で彼を見ていたのだ。
母譲りの天然でさほど気にしていないように見えたが、それでもどうしようもない事件が起きた。
優しすぎるジニアルや覇権争いに疎いハニュ王妃は、いつまでたっても婚約者を一人に絞れないでいた、そのせいで。
「私が殿下とデビュタントに出るのよ!貴方は私の家より格下でしょう!遠慮すべきだわっ!」
「殿下は家格で差別されるような方ではないわ!貴方のような性悪が殿下にエスコートされるなんてありえないことよ!」
「私の方が美人だわ!」
「美貌などいつか色あせましてよ!飽きさせない話術、教養、それこそが王妃に必要な素養です!」
「……あの。ちょっと。皆様、淑女なのだから落ち着いて…。」
「王太子妃になるのはこの私よ!」
「いいえ!私よ!」
ヒートアップした淑女?たちはよりによってジニアルの目の前で取っ組み合いの大喧嘩をはじめ…。
殴る蹴るの暴行、折れた歯が飛び、鼻は折れ、髪の毛は振り乱して毛をむしられる者もでて、あたりは血まみれになって…。
ジニアルは侍従に彼女たちを止めるように、騎士と医師を早急に呼ぶように手配すると、意識を失ったのである。
あれから7年。
ジニアルはすぐそばに越えられない壁(フォート)があったせいで自分を凡庸だと劣等感を抱いていたようだが、能力自体はたいへん優秀だった。だが、母親似で優しすぎる性格の彼に兄も弟も王位という負担を強いたくないと考えるようになり、ジニアルから王太子位を奪った。
すっかり女性恐怖症になり、城に引きこもりがちになったジニアル。
不憫に思っていた矢先、喜ばしい変化を兄弟は感じていた。
「ハロルド。ジニアルに好い女性ができたようだぞ。」
「オーレムお兄様も聞きましたか!なんでも、お兄様の執務室の一室をその方のために誂えたようですね。部屋の掃除をしている侍女が、ピンクとフリルとお花で囲まれたとても可愛らしいお部屋だと言っていました。」
「ジニアルがぬいぐるみをたくさん買い込んでは、部屋に運んで飾っているらしい。ジニアルが心を許すということは、とても心が美しい女性なのだろう。内装やぬいぐるみからして、もしかしたらまだ幼い少女なのかもしれないな。彼女が他の女性に感化されて穢れてしまわないうちに囲っているのかもしれない。」
「何でも、フォート騎士団長が部屋に出入りされているとか。騎士団長のお身内なのでしょうか。年端も行かない少女であれば、悪い噂が立たぬよう、団長が自らお守りしているのかもしれませんね。」
「なんにせよ、いい傾向だろう。女性の発育は早い。教育は学校に行かずとも王家で教師をつければよい。デビュタントの年齢になったら私たちで後押しして、結婚させよう。」
「はい!」
るんるん。今日もフォートが来るから、部屋にぬいぐるみを足しておこう。
びっくりするぞー。
周りからどう見られているか全然気づいていないジニアルである。
ライト=カイン=グレイシャス陛下が20歳の時、その時の国際情勢からサザンクロス帝国から王女を正妃として迎え入れなければならなくなった。
しかし、その時既に陛下には結婚を目前に控えた相思相愛の令嬢がいたのだ。
宰相であるブックス公爵の令嬢、マドンナ。
艶やかな黒髪が夜を思わせる、しっとりと知的な美人で、彼女と離れたくなかった陛下はあろうことか婚前交渉をして王女の輿入れ前に彼女を孕ませたのである。
正妃と婚姻の儀を結び、式は身内だけとしてすぐさまマドンナを側妃として迎え入れた。
サザンクロス帝国は怒ったが、胎に子がいてはやむを得ない。
王子はライトだけでどうしようもなく、その上嫁いだハニュ王女自体がそれを許し、あまつさえマドンナと親友になってしまったので、許すしかなかった。
そして、第3王子のハロルド=ホーランド=グレイシャスはブックス公爵家とは別の派閥のポート辺境伯家から嫁いだ2番目の側妃、サリーの子だ。
サリーもハニュやマドンナと仲が良く、既に側妃を娶ってしまったことからバランスを考慮して嫁いだ。
様々な思惑が周囲には入り混じっていたが、ハニュは優しく穏やかな性格――――つまり箱入り娘の天然ちゃんで、庇護欲にかられたマドンナとサリーの3人の妃はとても仲が良く、子ども同士も仲の良い兄弟だ。
1学年上に在学していたオーレムは忘れない。
それまで、正妃の産んだジニアルこそが王太子の最有力候補であり、その美貌も相まって、彼の周りには常に女性がまとわりついていた。
それこそメイドまでがじっとりねっとりとした目で彼を見ていたのだ。
母譲りの天然でさほど気にしていないように見えたが、それでもどうしようもない事件が起きた。
優しすぎるジニアルや覇権争いに疎いハニュ王妃は、いつまでたっても婚約者を一人に絞れないでいた、そのせいで。
「私が殿下とデビュタントに出るのよ!貴方は私の家より格下でしょう!遠慮すべきだわっ!」
「殿下は家格で差別されるような方ではないわ!貴方のような性悪が殿下にエスコートされるなんてありえないことよ!」
「私の方が美人だわ!」
「美貌などいつか色あせましてよ!飽きさせない話術、教養、それこそが王妃に必要な素養です!」
「……あの。ちょっと。皆様、淑女なのだから落ち着いて…。」
「王太子妃になるのはこの私よ!」
「いいえ!私よ!」
ヒートアップした淑女?たちはよりによってジニアルの目の前で取っ組み合いの大喧嘩をはじめ…。
殴る蹴るの暴行、折れた歯が飛び、鼻は折れ、髪の毛は振り乱して毛をむしられる者もでて、あたりは血まみれになって…。
ジニアルは侍従に彼女たちを止めるように、騎士と医師を早急に呼ぶように手配すると、意識を失ったのである。
あれから7年。
ジニアルはすぐそばに越えられない壁(フォート)があったせいで自分を凡庸だと劣等感を抱いていたようだが、能力自体はたいへん優秀だった。だが、母親似で優しすぎる性格の彼に兄も弟も王位という負担を強いたくないと考えるようになり、ジニアルから王太子位を奪った。
すっかり女性恐怖症になり、城に引きこもりがちになったジニアル。
不憫に思っていた矢先、喜ばしい変化を兄弟は感じていた。
「ハロルド。ジニアルに好い女性ができたようだぞ。」
「オーレムお兄様も聞きましたか!なんでも、お兄様の執務室の一室をその方のために誂えたようですね。部屋の掃除をしている侍女が、ピンクとフリルとお花で囲まれたとても可愛らしいお部屋だと言っていました。」
「ジニアルがぬいぐるみをたくさん買い込んでは、部屋に運んで飾っているらしい。ジニアルが心を許すということは、とても心が美しい女性なのだろう。内装やぬいぐるみからして、もしかしたらまだ幼い少女なのかもしれないな。彼女が他の女性に感化されて穢れてしまわないうちに囲っているのかもしれない。」
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「なんにせよ、いい傾向だろう。女性の発育は早い。教育は学校に行かずとも王家で教師をつければよい。デビュタントの年齢になったら私たちで後押しして、結婚させよう。」
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