冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である

竜鳴躍

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他人のものになった途端、惜しくなる女

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こんなはずじゃなかった。

ドロシー=オズボーン伯爵令嬢は、後悔していた。


親同士で決めた婚約。

カイザー家は田舎寄りの伯爵家で、目立った特産もなく、可もなく不可もない、貧乏とまではいかないが豊かではない、そういう領地の中堅貴族で。

オズボーン家といえば、王都に近く、華々しく交易をしているような金持ちの家だった。


クリスタル=カイザーという男は顔の造形や体格は悪くなかったけど、どこにでもある髪色で瞳の色の、パッとしない男で、ちゃんと夜会はエスコートするし、事前にドレスや宝飾品も贈ってはくれるけどそれだけの。

どこにも遊びに行かない、付き合いの悪い男。
いつも鍛錬や自習ばかりしていて、面白みがない。
学園での成績は良かったと思うけど、なんでこんな男を婚約者にしたのか、我儘なドロシーは不満だった。

オズボーン家には2人の娘がおり、姉は家を継ぐために優秀でカッコイイ侯爵家の次男を入り婿にもらっている。
オレンジブロンドの華やかな美形の義兄と比べても不満で、学園で人気の伯爵令息に心を奪われた。



ジルコニア=ダイヤモンド伯爵令息。
ダイヤモンド伯爵家は、貴金属の鉱山を持つ裕福な家だ。
ジルコニアはストロベリーブロンドで菫色の瞳の派手な色合いを持ち、鼻筋が通り、パッチリした目元の人形のような美形で、成績もよく、いつも周りにはファンの女性がいる。
ドロシーは自慢の豊満な胸を揺らしながら、時には胸元の大きくあいた服を着て、ジルコニアにアプローチした。
その結果、他の女性を出し抜き、体の関係を持つまでに至ったのである。

ジルコニアを手に入れれば、つまらないクリスタルなど要らない。

卒業式の一週間前。
学園内で堂々と振ってやり、父親に報告したら、ため息をつかれて、すぐに「婚約解消」になった。


これが、過ちだったのだ。









「お前には本当に呆れたよ。あとで後悔してもしらないよ。本当はこちらの有責による向こうからの婚約破棄になってもおかしくなかったのだが、向こうの温情で解消になったことを肝に命じなさい。」

卒業式のパーティの時までには正式に解消でいなかったため、ドロシーはパーティーではエスコート無しで過ごした。
父親の仕事の遅さが不満だったが、陛下にまで伺わなければならないのでそんなものだという。
それでも、婚約解消できれば、ジルコニアと婚約できる。
ジルコニアとの未来に夢を見るドロシーは、酷く叱られなかったので、事の大事さを理解していなかった。

ドロシーを見捨てたため、親は叱らなかっただけだということにも気づけなかった。

裏で、どれだけ父親が頭を下げたか。


カイザー家は確かにオズボーン家のように豊かだというわけではない。
しかし、長男のクリスタルは努力家で将来有望だと、商売で名を馳せた当主には分かっていたし、今はそうでもクリスタルの代になれば、頭角を現すと分かっていた。
それに、どんなに矯正しても我儘な次女には、クリスタルのように真面目に妻を大事にしてくれる男の方が良いと思っていたのだ。
オズボーン家の豊かさに見合う流行のドレスや宝飾品をクリスタルが用意するのは、どれだけ大変かドロシーは理解していない。
学生でありながら、学園の事務の手伝いや騎士団でのバイトもしてドロシーのために用意していたことを父親は分かっていた。

だから、その後の娘の破滅を、父親は予見していた。












「は?なんで私が君と婚約をせねばならないんだ?」

婚約が解消になったことをジルコニアに告げ、父に婚約の申し入れをしてもらうつもりであることを言うと、ジルコニアの様子が変わった。

ジルコニアは城に出仕して、文官の端くれとして勤務していた。


「え??だって私たち、恋人同士でしょう?」


「何を言っているんだろうね、君は。オズボーン伯爵もかわいそうに。長女は立派な淑女なのに次女は阿婆擦れの娼婦だなんて。伯爵はよくわかっているから、うちに申し入れなんてしないよ。一応、うちに確認の文は来たけどね。君みたいに自分から体を差し出すような、頭も空っぽで股がゆるゆるの女の子なんて、遊びでしかないよ。私は結婚するなら、ちょっとくらい爵位が下でもいいから貞淑でしっかりした淑女がいいんだ。」



気が付けば、元婚約者は騎士団で頭角を現し、騎士団長や第二王子に可愛がられ、第二王子の側近のような立ち位置になっている。
しかも、第三王子との婚約が発表され、家も家格があがって辺境伯家となり、領地も広がった。



逃がした魚は大きい。





ドロシーは後悔していた。







でもちょっと待って?

妻は第三王子なのよね。男同士は子どもは生まれない。でも、クリスタルは跡取りで、子が必要なはず!

私が第二夫人になってあげてもいいわ!


こうしてはいられない。


ドロシーはおしゃれをして、先ぶれもせず、辺境伯家に馬車を飛ばした。













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