悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍

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王太子は騎士団長がお好き

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私は、王太子 マクシミリアン=フォン=レッドキングダム。
知慮深く、武力に長け、見目麗しく、だれからも慕われる、王太子。

ーーーというのは、仮の姿で、本当の私は、その婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディアだ。

王太子と私は6歳の春、親同士に婚約者と引き合わされ、お互いに「鏡を見ているようだ」と思った。
親同士は面白がって、この二人なら次も同じ顔が生まれるだの言っていたが、当人にとってはたまったものではない。
よほどのナルシストじゃない限り、だれが自分と結婚したいと思うのか。


自分に欠けたものを補ってくれるからこそ、惹かれるものだと私は思う。


王太子と私は、お互いの真実の愛を求めて、学園では立場を入れ替えることにした。
幸い、顔だけでなく、私たちは体格も近いし(私が悲しいことに大柄…)、顔が似ているせいか声も似ていて、幼少から入れ替わることを計画して鍛えていたので、声真似もばっちりだ。


毎朝、家を出て、学園に着いたらお互いに衣装を入れ替え、校舎に入る。
(武術の講義はさすがに厳しいので、そういう授業の時だけはもとに戻っているが)
入学してだいぶ経つが、いまだに私たちが頻繁に入れ替わっても、だれも気づかないので、面白い。


「しかし、騎士クラスの実技が全部昼に集中していて助かったな。」

隣で、私の衣装に着替えている王太子が、呟く。

私たちは、朝、学園に来ると、人気のない園庭の隅にある武器倉庫に侵入して、そこで着替えていた。

それにしても、王太子は、細い。筋肉もそれなりについているはずで、ちゃんと男の体なのに。
考えたら、私の服が入るのは凄い。

まあ、私も女性にしては背が高いのではあるが…。


少し憎たらしくなって、コルセットを締め上げたら、痛いといわれた。

お互いに鬘を被って、私が王太子に化粧を施してあげると、すっかり男女逆転だ。


「それでは、ごきげんよう?」

淑女のカーテンシーを見事に披露し、王太子は楽しそうに先に教室へ向かっていった。

最近、好きな人ができたらしい。

いいなぁ。




私ときたら、今日も、メス豚に追い掛け回されている。
側近候補たちも、どいつもこいつも家柄と顔だけの能無し。
楽しそうなあっちとは違って、こっちはうんざりだ。

「…それでねぇ、ひどいんですよぅ。私が成績悪いからって、いつも馬鹿にするしぃ。下級貴族だからっていつも先生の用事は言いつけられて…、持ち物はいつも汚されたり捨てられるし…。このあいだ階段からも落とされたんですぅ。」

あーはいはい。

「わたし、もう恐ろしくて…。あんな人が婚約者だなんて、マクシミリアン様おかわいそう…。」

あーソウネ。

周りのあほな側近候補どもは、リリムさんがかわいそう!だのなんだの言っているし。

知ってるんだから、あんたたちこの女の虚言真に受けて、あっちに足ひっかけたり、階段から突き落としたり、なんか実力行使で報復しようとして、返り討ちに会ってるでしょう?
馬鹿よね、あっちが王太子だってのに。


「それが本当なら、許せないな。」

めんどくさいし、釣りのため。一応そういうと、リリムはぱあっと花を咲かせたように笑って、腕に絡んできた。

胸あててるんじゃないわよ、わざとでしょ、気持ち悪い。


しかし、この女の親は何を考えているのかしら。

下級貴族とはいえ、貴族なら、男爵家の娘が王太子の妃になれるはずがないと知っているはずなのに。
この娘は頭がからっぽで夢が代わりに詰まってるお花畑みたいだから、王子様のお嫁さんになりたい☆くらいにしか思ってなさそうだけれど。

ーーーーー公爵家の破滅が狙い?

私に冤罪ふっかけて、家ごと破滅させる気なのかしら?
なんのため?
私のお父様は宰相よ。我が家が破滅したら正直、陛下をお支えする体制が崩れてしまうわ。
内政ガタガタよ。
まさか、それが狙いなのかいら…。

ーーーーーーーーこれは調べてみる必要があるわね。



頭の中でいろいろ考えながら、私は王太子から侯爵令嬢に戻るため、武器倉庫にやってきた。

ガラッ。

扉が開く音がして、私は服を脱ぎ始める。

「早く着替えてしまいましょ。あなたも早く脱いで頂戴。」

「へっ!!? えっ!!! おうたいs…!!!!?」


上ずったような低い男性の声。

マクシミリアンではない。

振り返ると、そこには、茶色の髪で男らしい凛々しい風貌の、真面目な仕事人間と評判の大柄な男。

この国の騎士団長であるリチャード=ローズ=ビクトリア伯爵だ。

まだ30代前半にして実力で拝命を受けた、陛下の覚えもめでたき男が、今、真っ赤な顔で目を白黒させている。


「お、おうたいしが女性?…継承問題…?秘密…!?あdsdfghjkkkkkklk」

あ、私今服脱ぎかけてたから、シャツの前全開だったわ。
布で巻いた胸の谷間が丸見えでした。

でも、こんな小娘の胸の谷間見たくらいでそんな童貞みたいに…。
そういえば、この方、いまだに独身で婚約者もいらっしゃらなくて、浮いた噂の一つもないのでしたわ。


「ミレニア、おまたせーーーーーーー。」


いいタイミングで本物の王太子が現れ、事態は3竦みの様相へとチェンジ。

可愛そうにリチャードは、もう私たちの共犯者にしなくては。





「理由も状況も分かりました!ですが、年頃の男女がこんな密室で服を交換するなんて、よくありませんよ!
いくら婚約者同士とはいえ!」

「婚約は入学前に解消してるって言ったじゃない。」

「余計悪いです!! 醜聞になって困るのはミレニア嬢ですよ!」

「でもねえ。」

噂通りの真面目な大人の叱咤に、顔を見合わせて首を傾げる。

          
「裸をみたところで、女性(男性)に生まれていたら、こんなだったのかーという感想しか持てないし。」


「そういう問題じゃありません! もう、これからは私が付き添います!」

「あらいやだ、あなたは見放題?」

私がキャッと胸を両腕でクロスさせて抑えるしぐさをすると、かーーーっとまた赤くなって

「私は王太子殿下を見てます!!」

と叫ぶ。


なにこの人。なんて可愛らしいのかしら。
うふふ、もう逃がさない。


「わかりました。それでは、今日から共犯者のリチャードにお願いします。」


「…致し方ありません。それで、何を?」

「王太子としている私の周りに怪しい動きがあります。もしかしたら、国家転覆につながることよ。だから、リチャード?証拠をつかんできてくださいな。」


にっこり微笑むと、リチャードは驚いた様子を一瞬見せて、膝間づいた。


仕事人間のリチャード様?

あなたはきっと仕事じゃなければ私に構ってはくれないでしょう。

そして、あなたならきっと成果をあげるでしょう。

距離を縮めて、愛を育み。
あのメス豚共も一網打尽にしてくれるわ。


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