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陰謀の侯爵家2
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「誰か!誰かいるかっ!」
突然体をおしやられ、リュージュは玄関から外に出された。
代わりに女がアクアの隣に立つ。
「旦那様、どうしましたか!」
「ああ、かわいそうにリュージュ。確かに私は昔、この女と関係があった。だが、君という縁ができて、結婚前に別れたのだ。おい、ローズ!お前とは別れたはずだ!今更屋敷まで押しかけてくるとはどういうことだ!」
(え?何が起こっているの…???)
「そんな、私がリュージュ、貴方の妻ではありませんか!子だってできたのに…!」
「お前がリュージュ??馬鹿も休み休み言いたまえ、私と結婚したいあまりに頭をおかしくしたのか?お前の髪の色は何色だ!」
「あ、赤い…!?」
誰にも自分がリュージュだと分かってもらえず、屋敷を追い出された。
硝子に映る顔は、あの女のもの。
あの女は魔女で、顔を入れ替えられたのだ。
おそらく初めから、旦那様はあの女と恋人だった。
初めから仕組まれていたんだ。
竜には呪いや魔法が効かないけれど、唯一、竜の雌は子を宿しているときだけその耐性が落ちる。
それを知っていて、そのためだけに子どもを作ったのだ。
父を殺された。
母を殺された。
お城を叔父に奪われた。
私が女の身で王族の力を承継し発現させていると分かっていたら、何をされたか分からない。
従兄弟の妻にされていたかもしれない。
ひたすら従順に、政略結婚の道具として大人しく。
利用価値があると思わせて、ただ、その時を待って…。
この国で幸せになれると思ったのに…。
ほっとしたのに。
行く当てもなく、街をうろつく。
あの女は有名な女だったらしい。
酒臭い男たちが私を舐めるような目で見て、声をかける。
「あんた…、ちょっと!」
酒場の前を通りかかり、男に絡まれて困っていた時、中から小太りの婦人が現れて追い払ってくれた。
「ありがとう、ございます…。」
「あなた、『ローズ』じゃないね…。」
おかみさんはこの顔の女の知り合いだった。
閉店した店の中で、温かいミルクがうれしい。
「そうかい、リュージュ様…。」
おかみさんは、魔除けの香を炊き、悪しき魔女の使い魔を予防すると、精霊に祈りを捧げ、話してくれた。
「私はローズと同郷でね。私にはそれほど力はないけれど、私たちは女神を奉り、精霊とともにある魔女の一族なのさ。とはいっても、本当に『魔女』と言えるほどの者はそういない。ローズも、多少占いができるほどの弱い力しかない子だった。彼女は本当に綺麗な子でね、心も優しかった。彼女には双子の妹がいたんだけどね、名前をロゼ。彼女は私から見ればそんなに見栄えが悪いとも思えないけど姉と比べて地味な顔をしていたのがコンプレックスだったみたいで、ちょっと被害妄想が激しい子だったね。それでも、ローズはロゼを大事にしていたんだが、ローズが得意のダンスで踊り子として私の酒場で働くことになった時、ロゼが私だって同じように踊れると騒ぎ出して……。断るとローズに場媚雑言をぶちまかしたんだ。そしてロゼはいなくなってしまった。私は予定通りローズを雇い入れて…、最近まで特に何とも思っていなかったんだけど……。もしかしたら、『ローズ』は『ロゼ』だったのかもしれないね。」
「まさか…!」
「顔を入れ替える魔法は、対象が死ねば永遠にその顔を自分のものとできる。実の姉を殺して、姉の顔と立場を奪ったんだろう。優しかったあの子が男を手玉にとるようになったのを見て、都会に毒されたのかと思ってたんだけどね。あんたの話を聞くとロゼだったとしか思えない。あんたを排除してそれで終わりにはしないはずだ。命が狙われるかもしれない。私でよかったら守らせておくれ。」
「……おかみさん、ありがとうございます。私に踊り子は無理ですが、裁縫や家庭教師なら自信があります。きちんと働きます。それと……実は私のお腹には子がいるのです。子を産めば、私も力が回復しますからどうかそれまででいいので、ここに置かせてくださいませんでしょうか。」
「もちろんだとも。その子から大きな加護を感じるよ。精霊の愛し子……いや、女神様の愛し子かもしれないね。きっとこの子がアンタの助けになるはずさ。」
恐ろしい女に追い詰められるように、仕事では時々邪魔が入り、生活は苦しい。
安泰だったフォックス王国も、王弟が兄夫婦を殺し、王位を奪ってしまった。
18になった第一王子とまだ7つの第二王子。
彼らがどうなったか、庶民では情報は得られない。
だがきっと、「男子」であれば………。
容易に想像がつく。
王女であった自分以上に、哀れなことになったであろう。
どこも同じか、とリュージュの胸は空虚に満ちた。
ほどなくして、頼りのおかみさんは苦しんで亡くなり、呪いや攻撃では亡くならないはずのリュージュは、生活苦に疲れて死んだ。
たった一人の、可愛い息子『ティア』を遺して。
侯爵家で生まれた子は、よりによって『ロゼ』に瓜二つで、アクアに似ていない子だった。
地味な容姿の赤毛の子。
リュージュが産んだ子と容姿を入れ替えるため、ティアを探したが、竜の子であり精霊の愛し子であるティアからは、どうやっても顔を奪うことはできなかった。
1人で離れで暮らさせても平然とする平民育ちの子に我慢がならない。
学校に行かせず、悪評をばら蒔き、イライラのはけ口にする。
美しく澄ました顔が許せない。
悪い魔女『ロゼ』は、いっそ忌々しいティアの顔を焼き、体を傷つけてやりたかったが、アクアの目がありできなかった。
アクアはアクアで、ティアを商品とみていた。
あれだけ美しければ、男でも政略の道具になりえるだろうから。
だから、暮らしで虐げていたとしても、顔や体に傷を作ることは許さなかった。
そして、ティア=シャワーズは、エドワルド=ドロップ将軍閣下の妻にと差し出された。
突然体をおしやられ、リュージュは玄関から外に出された。
代わりに女がアクアの隣に立つ。
「旦那様、どうしましたか!」
「ああ、かわいそうにリュージュ。確かに私は昔、この女と関係があった。だが、君という縁ができて、結婚前に別れたのだ。おい、ローズ!お前とは別れたはずだ!今更屋敷まで押しかけてくるとはどういうことだ!」
(え?何が起こっているの…???)
「そんな、私がリュージュ、貴方の妻ではありませんか!子だってできたのに…!」
「お前がリュージュ??馬鹿も休み休み言いたまえ、私と結婚したいあまりに頭をおかしくしたのか?お前の髪の色は何色だ!」
「あ、赤い…!?」
誰にも自分がリュージュだと分かってもらえず、屋敷を追い出された。
硝子に映る顔は、あの女のもの。
あの女は魔女で、顔を入れ替えられたのだ。
おそらく初めから、旦那様はあの女と恋人だった。
初めから仕組まれていたんだ。
竜には呪いや魔法が効かないけれど、唯一、竜の雌は子を宿しているときだけその耐性が落ちる。
それを知っていて、そのためだけに子どもを作ったのだ。
父を殺された。
母を殺された。
お城を叔父に奪われた。
私が女の身で王族の力を承継し発現させていると分かっていたら、何をされたか分からない。
従兄弟の妻にされていたかもしれない。
ひたすら従順に、政略結婚の道具として大人しく。
利用価値があると思わせて、ただ、その時を待って…。
この国で幸せになれると思ったのに…。
ほっとしたのに。
行く当てもなく、街をうろつく。
あの女は有名な女だったらしい。
酒臭い男たちが私を舐めるような目で見て、声をかける。
「あんた…、ちょっと!」
酒場の前を通りかかり、男に絡まれて困っていた時、中から小太りの婦人が現れて追い払ってくれた。
「ありがとう、ございます…。」
「あなた、『ローズ』じゃないね…。」
おかみさんはこの顔の女の知り合いだった。
閉店した店の中で、温かいミルクがうれしい。
「そうかい、リュージュ様…。」
おかみさんは、魔除けの香を炊き、悪しき魔女の使い魔を予防すると、精霊に祈りを捧げ、話してくれた。
「私はローズと同郷でね。私にはそれほど力はないけれど、私たちは女神を奉り、精霊とともにある魔女の一族なのさ。とはいっても、本当に『魔女』と言えるほどの者はそういない。ローズも、多少占いができるほどの弱い力しかない子だった。彼女は本当に綺麗な子でね、心も優しかった。彼女には双子の妹がいたんだけどね、名前をロゼ。彼女は私から見ればそんなに見栄えが悪いとも思えないけど姉と比べて地味な顔をしていたのがコンプレックスだったみたいで、ちょっと被害妄想が激しい子だったね。それでも、ローズはロゼを大事にしていたんだが、ローズが得意のダンスで踊り子として私の酒場で働くことになった時、ロゼが私だって同じように踊れると騒ぎ出して……。断るとローズに場媚雑言をぶちまかしたんだ。そしてロゼはいなくなってしまった。私は予定通りローズを雇い入れて…、最近まで特に何とも思っていなかったんだけど……。もしかしたら、『ローズ』は『ロゼ』だったのかもしれないね。」
「まさか…!」
「顔を入れ替える魔法は、対象が死ねば永遠にその顔を自分のものとできる。実の姉を殺して、姉の顔と立場を奪ったんだろう。優しかったあの子が男を手玉にとるようになったのを見て、都会に毒されたのかと思ってたんだけどね。あんたの話を聞くとロゼだったとしか思えない。あんたを排除してそれで終わりにはしないはずだ。命が狙われるかもしれない。私でよかったら守らせておくれ。」
「……おかみさん、ありがとうございます。私に踊り子は無理ですが、裁縫や家庭教師なら自信があります。きちんと働きます。それと……実は私のお腹には子がいるのです。子を産めば、私も力が回復しますからどうかそれまででいいので、ここに置かせてくださいませんでしょうか。」
「もちろんだとも。その子から大きな加護を感じるよ。精霊の愛し子……いや、女神様の愛し子かもしれないね。きっとこの子がアンタの助けになるはずさ。」
恐ろしい女に追い詰められるように、仕事では時々邪魔が入り、生活は苦しい。
安泰だったフォックス王国も、王弟が兄夫婦を殺し、王位を奪ってしまった。
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だがきっと、「男子」であれば………。
容易に想像がつく。
王女であった自分以上に、哀れなことになったであろう。
どこも同じか、とリュージュの胸は空虚に満ちた。
ほどなくして、頼りのおかみさんは苦しんで亡くなり、呪いや攻撃では亡くならないはずのリュージュは、生活苦に疲れて死んだ。
たった一人の、可愛い息子『ティア』を遺して。
侯爵家で生まれた子は、よりによって『ロゼ』に瓜二つで、アクアに似ていない子だった。
地味な容姿の赤毛の子。
リュージュが産んだ子と容姿を入れ替えるため、ティアを探したが、竜の子であり精霊の愛し子であるティアからは、どうやっても顔を奪うことはできなかった。
1人で離れで暮らさせても平然とする平民育ちの子に我慢がならない。
学校に行かせず、悪評をばら蒔き、イライラのはけ口にする。
美しく澄ました顔が許せない。
悪い魔女『ロゼ』は、いっそ忌々しいティアの顔を焼き、体を傷つけてやりたかったが、アクアの目がありできなかった。
アクアはアクアで、ティアを商品とみていた。
あれだけ美しければ、男でも政略の道具になりえるだろうから。
だから、暮らしで虐げていたとしても、顔や体に傷を作ることは許さなかった。
そして、ティア=シャワーズは、エドワルド=ドロップ将軍閣下の妻にと差し出された。
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