彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️

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国王ジュリアス③

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アルドベリクは更に侍女長を問い質した。

「だが、お前がイヴァンナ様に命じられてやったのは、これだけではあるまい? さぁ答えよ。このパンの中には何が入っている?」

 アルドベリクの声には相変わらず何の抑揚もない。だが、それが返って言葉の裏に潜む彼の怒りを感じさせ恐怖すら覚えた。

 侍女長もきっと俺と同じように感じたのだろう。彼女は真っ青な顔をして泣きながら俺に膝をついて土下座した。

「申し訳ありません! …堕胎剤を…堕胎剤を入れました…」

「何? 堕胎剤だと…」

 俺は怒りに震えた。ではイヴァンナは漸く授かった俺の子を殺そうとしたと言うのか…。

「それに陛下。可笑しいとは思われませんか? 陛下は今日私からの報告で、初めて王妃様の懐妊をお知りになったのです。そうでしょう?」

「……ああ…」

 俺は戸惑いながら頷いた。

「でしたら何故、この食事には堕胎剤が入っていたのでしょう? つまりそれは、イヴァンナ様は陛下より先に王妃様の懐妊を知っていたと言う事になります。王宮医師が陛下より先に王妃様の懐妊を知らせた人物がいるのです。これは由々しき問題です」

「………」

 懐妊を知らなければ、堕胎剤など使う訳がない。

 アルドベリクの言う通りだった。俺より先に王妃の懐妊を知らされた者がいる。それはとりも直さず宮廷医師は、王であり子の父である俺よりもその人物を優先したと言う事に他ならない。

 それに加え、今日まで宮廷医師が俺に王妃の懐妊を知らせていないと言う事は、恐らくその人物が俺に黙っているよう医師に命じたのだろう…。

 更に問題なのは、がその人物の言葉に従ったと言う事だ。

「お気付きになられましたか? この王宮の中は、既にその人物によって情報統制されているんですよ」

アルドベリクは、まるで俺の考えを読み取ったかのようにそう告げた。

「何? 情報統制だと…」

「ええ。自分にとって都合の悪い情報は相手に教えない。それが徹底されているのです。王妃様の懐妊は正に、その人物にとって非常に都合が悪い出来事だった。だから陛下は今日まで何も知らされてはいなかったと言う事です」

 その人物…。俺の頭の中に1人の男の姿が思い浮かんだ。

 俺はまるでその男の名を確認するかの様に、アルドベリクに訊ねた。

「お前の事だ。本当は最初から分かっていたのであろう? ならば医師から聞いているはずだ。 彼が真っ先に王妃の懐妊を知らせた相手は誰なんだ?」

「ええ…。シルベール公爵です」

 アルドベリクははっきりと俺の思った通りの人物の名を口にした。

 やはりそうか…。疑惑が確信になった瞬間だった。

 シルベール公爵はこの国の筆頭公爵で、側妃イヴァンナの養父だ。

 此処から推測出来る事なんて決まっている。シルベールは俺の知らぬ間に王妃の腹の中の子を始末しようとしたのだろう。王妃より先にイヴァンナに俺の子を産ませるために…。

 そうとしか考えられなかった。

 何日も食事を与えず、腹が減り切ったところにたった1個のパンを与える。

 王妃は命を繋ぐため、また腹の子を守るため、そのパンを食べざるを得ない。

 俺はトレーに置かれたたった1個のパンに触れてみた。そのパンは思った以上に硬かった…。お腹に子がいると知りながらこんな硬いパンを与えたのか…?

 王妃の心情を考えると、そのあまりにもむごい仕打ちに吐き気すら催した。

 彼女は隣国の王女だ。そして彼女の腹の子の父親は王であるこの俺だ。

 それなのにどうしてこんな事が出来る?

 答えなんて簡単だ。今、この国では俺より公爵の方が力があるから…。

 だからアルドベリクは言ったのだ。イヴァンナを側妃にしてはならぬと…。

 これ以上、シルベールに力を持たせてはならぬと…。

 それなのに俺は自分の恋慕とシルヴィアへの同情から彼女を側妃として娶り、挙句王妃を蔑ろにし、彼女を死なせた。

 俺の中を果てしない後悔の念が襲う。

 だが話はこれで終わりでは無かった。

「王妃様に薬を盛ったのはこれが初めてか? もう既に全て調べがついていると言ったであろう? 正直に話せ。さもなくば陛下の御前と言えど、ここで切る!」

 アルドベリクが今度はそう言ってサーベルに手を掛けたのだ。まさか普段冷静な彼がここまでするなんて…。俺は息を飲んだ。

「……ヒッ! 避妊薬を…! ずっと避妊薬を盛っておりました!」

 侍女長は、後ずさりながらそう答えた。

「避妊薬を盛っていた…? それもイヴァンナの指示か?」

 自分でも信じられない様な低い声が出た。













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