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向日葵の墓 宰相アルドベリク②
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陛下は何も知らない…。
実は逆なのだ。アルテーシア様の輿入れは、王家の正当な血を残すため、この国からの強い申し入れによって実現されたものだった…。
******
イヴァンナが側妃として陛下に召し上げられてからと言うもの、陛下はイヴァンナを寵愛し、今では彼女の言いなりだ。
そうなると王宮に仕える者達の中にも忖度が働く。どちらの妃に従うのが自分達にとって1番利益になるのか、2人を値踏みするのだ。
ましてイヴァンナは陛下の幼い頃からの婚約者で、養女とはいえこの国の筆頭公爵令嬢。対してアルテーシア様は隣国から嫁いで来た異国の王女だ。王宮に仕える者達にとってどちらに親近感が湧くかと問われれば、間違いなくイヴァンナと答えるだろう。
彼女は幼い頃より王宮で王太子妃教育を受けていた。事情が事情とは言え、その何年にも渡るイヴァンナの努力が、いきなり現れたぽっとでの隣国の王女に奪われたのだ。
王宮に仕える者達の中では、最初からイヴァンナに同情する声が大きかった。それに加え市囲でのあの噂だ。
天災のため、愛する人との仲を引き裂かれた悲劇の公女、イヴァンナ…。
アルテーシア様はいつの間にか、まるで悪役の様に蔑まれ、徐々に王宮内で孤立していった。
そんな王妃様の処遇を憂いたのが私の伯母、前王妃ミカエラだった。
伯母もまた、以前王宮内の心無い噂に苦しめられた事があったのだ。
私は伯母から、王妃様を常に気に掛けてあげて欲しいと依頼され、その過程でエリスに出会った。
初めてエリスを見た私は、彼女の余りにも美しい所作に目を奪われた。
聞けば侯爵家の令嬢だと言う。
納得したと同時に疑問に思った。
確かに王女に仕える侍女には貴族の令嬢が多い。しかし、侯爵家の令嬢と言えば王族に嫁いでも可笑しく無い立場だ。まして、それ程の高位貴族の令嬢が侍女として異国まで王女に着いてくるなんて、私の知る限り聞いた事が無かった。
「私の兄はアルテーシア様の婚約者だったんです。ですが王妃様の祖国のためだと説得され、仕方なく兄はアルテーシア様を諦めました。だからそんな兄に代わり、私が必ずアルテーシア様をお守りすると兄と約束したんです」
エリスは私にそう話してくれた。
確かに王女であるアルテーシア様に婚約者がいなかったはずはない。考えてみれば当然の事だった。
だが、彼女は母であるシルヴィア様の祖国のため愛する人と別れ、この国に嫁いで来たのだ。
それなのにこの国は、アルテーシア様とエリスを殺した。
2人は王宮内で蔑まれ、失意のうちに亡くなった。どれ程、無念だっただろう。
そう説得すると、私の復讐に手を貸すことに伯母は漸く頷いてくれた。
シルベールとイヴァンナ…。
私はあの2人が何の罰も受けないなんて、絶対に許せない。本当はこの国で、この国の法で2人を裁きたかった。
だから私は賭けた。
イヴァンナに籠絡されている陛下も、アルテーシア様が亡くなった今なら、目を覚ましてくれるかも知れないと…。
私は一縷の望みを賭け、彼の前で真実を明らかにした。
だが私はその賭けに負けた。
陛下は保身に走り、あの2人を裁くつもりは無い様だ。
私は、手にした証拠をシルヴィア様に託す事に決めた。
この国が裁かないのなら、隣国によって裁いて貰う他はない。
さっき私はアルテーシア様と君の死を知らせる書簡を隣国に向けて送った。だが、私の行動は既にシルベール達に目をつけられている。
だから、今までに集めた証拠を伯母を説得し、シルヴィア様に送って貰う事にした。
伯母なら姪の死を悼む手紙をシルヴィア様に送ったと言えば可笑しくはないだろう…。
まして伯母は王太后。流石にシルベールと言えど、王太后の送る私信を検める事は出来ないはずだ。
伯母からの手紙を受け取ったシルヴィア様がどう動かれるか、私には分からない。
だが1つ言える事は、これから私は当分の間、その対応に追われる事になるだろう。
だから暫くは君に会いに此処には来れないと思う。いや、君の兄上や王妃様の父上は、彼らの行いを分かっていながら、君達を守れなかった私の事も許さないかも知れない…。
私はそれでも仕方がないと思っている。全てを受け入れる覚悟は出来ているんだ。
だけどもし許されて私の命があったならば、また、此処に…君に会いにくるよ。だからそれまで待っていてくれ。
私はエリスの墓にひまわりの花を置いた。彼女が好きだと言っていた花だ。
『ひまわりの花言葉は貴方だけを見つめています…。アルテーシア様がこの国に輿入れされる時、兄が別れ際に送った花なんです』
最後に会った時、君が教えてくれた…。
そして…
『兄とアルテーシア様はみんなから羨まれる程、本当に仲睦まじい婚約者だったんですよ。こんなに辛い目に遭う位なら、兄は諦めなければ良かったのよ。王妃様を攫って逃げれば良かったの。ねえ、アルドベリク様。どうして助けて貰った人が助けてくれた人を苦しめるの…? それって理不尽じゃない?』
君はそう言って怒りながら、王妃様を思って涙を流していた。
ひまわりは真っ直ぐに光だけを目指して咲く花。
アルテーシア様についてこの国に来てから、君は必死に彼女に寄り添い彼女を守ろうとしていた。
前向きで、真っ直ぐでひまわりの花の様な人だと思った。
君のお兄さんはきっと、例え遠く離れていても、貴方を見守っていると伝えたかったのかも知れないね。
あれからひまわりの花言葉について調べてみたよ。
花には送る本数にも意味があるんだね。
9本のひまわりはずっと側にいて欲しい。
そして12本のひまわりの意味は私の妻になって下さい…。
ひまわりは送る相手に愛を伝える花でもあるんだ。
私はね、エリス。今となってはお聞きすることは叶わないが、せめてアルテーシア様もこのひまわりの花言葉を知って居られたら良かったのにと願ってしまう。
アルテーシア様に仕える君に、王宮の者達からの風当たりはきつかった。でも、どんなに辛い目に遭って涙を流しても、アルテーシア様の前ではそれを悟られない様にと何時も君は笑っていた。
なかなか言い出せなかったけれど、私はそんな君の事が本当に好きだったよ。
私はエリスの墓にそう報告すると、その場を後にした。
彼女の墓の前に言い出せなかった12本のひまわりを残して…。
実は逆なのだ。アルテーシア様の輿入れは、王家の正当な血を残すため、この国からの強い申し入れによって実現されたものだった…。
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イヴァンナが側妃として陛下に召し上げられてからと言うもの、陛下はイヴァンナを寵愛し、今では彼女の言いなりだ。
そうなると王宮に仕える者達の中にも忖度が働く。どちらの妃に従うのが自分達にとって1番利益になるのか、2人を値踏みするのだ。
ましてイヴァンナは陛下の幼い頃からの婚約者で、養女とはいえこの国の筆頭公爵令嬢。対してアルテーシア様は隣国から嫁いで来た異国の王女だ。王宮に仕える者達にとってどちらに親近感が湧くかと問われれば、間違いなくイヴァンナと答えるだろう。
彼女は幼い頃より王宮で王太子妃教育を受けていた。事情が事情とは言え、その何年にも渡るイヴァンナの努力が、いきなり現れたぽっとでの隣国の王女に奪われたのだ。
王宮に仕える者達の中では、最初からイヴァンナに同情する声が大きかった。それに加え市囲でのあの噂だ。
天災のため、愛する人との仲を引き裂かれた悲劇の公女、イヴァンナ…。
アルテーシア様はいつの間にか、まるで悪役の様に蔑まれ、徐々に王宮内で孤立していった。
そんな王妃様の処遇を憂いたのが私の伯母、前王妃ミカエラだった。
伯母もまた、以前王宮内の心無い噂に苦しめられた事があったのだ。
私は伯母から、王妃様を常に気に掛けてあげて欲しいと依頼され、その過程でエリスに出会った。
初めてエリスを見た私は、彼女の余りにも美しい所作に目を奪われた。
聞けば侯爵家の令嬢だと言う。
納得したと同時に疑問に思った。
確かに王女に仕える侍女には貴族の令嬢が多い。しかし、侯爵家の令嬢と言えば王族に嫁いでも可笑しく無い立場だ。まして、それ程の高位貴族の令嬢が侍女として異国まで王女に着いてくるなんて、私の知る限り聞いた事が無かった。
「私の兄はアルテーシア様の婚約者だったんです。ですが王妃様の祖国のためだと説得され、仕方なく兄はアルテーシア様を諦めました。だからそんな兄に代わり、私が必ずアルテーシア様をお守りすると兄と約束したんです」
エリスは私にそう話してくれた。
確かに王女であるアルテーシア様に婚約者がいなかったはずはない。考えてみれば当然の事だった。
だが、彼女は母であるシルヴィア様の祖国のため愛する人と別れ、この国に嫁いで来たのだ。
それなのにこの国は、アルテーシア様とエリスを殺した。
2人は王宮内で蔑まれ、失意のうちに亡くなった。どれ程、無念だっただろう。
そう説得すると、私の復讐に手を貸すことに伯母は漸く頷いてくれた。
シルベールとイヴァンナ…。
私はあの2人が何の罰も受けないなんて、絶対に許せない。本当はこの国で、この国の法で2人を裁きたかった。
だから私は賭けた。
イヴァンナに籠絡されている陛下も、アルテーシア様が亡くなった今なら、目を覚ましてくれるかも知れないと…。
私は一縷の望みを賭け、彼の前で真実を明らかにした。
だが私はその賭けに負けた。
陛下は保身に走り、あの2人を裁くつもりは無い様だ。
私は、手にした証拠をシルヴィア様に託す事に決めた。
この国が裁かないのなら、隣国によって裁いて貰う他はない。
さっき私はアルテーシア様と君の死を知らせる書簡を隣国に向けて送った。だが、私の行動は既にシルベール達に目をつけられている。
だから、今までに集めた証拠を伯母を説得し、シルヴィア様に送って貰う事にした。
伯母なら姪の死を悼む手紙をシルヴィア様に送ったと言えば可笑しくはないだろう…。
まして伯母は王太后。流石にシルベールと言えど、王太后の送る私信を検める事は出来ないはずだ。
伯母からの手紙を受け取ったシルヴィア様がどう動かれるか、私には分からない。
だが1つ言える事は、これから私は当分の間、その対応に追われる事になるだろう。
だから暫くは君に会いに此処には来れないと思う。いや、君の兄上や王妃様の父上は、彼らの行いを分かっていながら、君達を守れなかった私の事も許さないかも知れない…。
私はそれでも仕方がないと思っている。全てを受け入れる覚悟は出来ているんだ。
だけどもし許されて私の命があったならば、また、此処に…君に会いにくるよ。だからそれまで待っていてくれ。
私はエリスの墓にひまわりの花を置いた。彼女が好きだと言っていた花だ。
『ひまわりの花言葉は貴方だけを見つめています…。アルテーシア様がこの国に輿入れされる時、兄が別れ際に送った花なんです』
最後に会った時、君が教えてくれた…。
そして…
『兄とアルテーシア様はみんなから羨まれる程、本当に仲睦まじい婚約者だったんですよ。こんなに辛い目に遭う位なら、兄は諦めなければ良かったのよ。王妃様を攫って逃げれば良かったの。ねえ、アルドベリク様。どうして助けて貰った人が助けてくれた人を苦しめるの…? それって理不尽じゃない?』
君はそう言って怒りながら、王妃様を思って涙を流していた。
ひまわりは真っ直ぐに光だけを目指して咲く花。
アルテーシア様についてこの国に来てから、君は必死に彼女に寄り添い彼女を守ろうとしていた。
前向きで、真っ直ぐでひまわりの花の様な人だと思った。
君のお兄さんはきっと、例え遠く離れていても、貴方を見守っていると伝えたかったのかも知れないね。
あれからひまわりの花言葉について調べてみたよ。
花には送る本数にも意味があるんだね。
9本のひまわりはずっと側にいて欲しい。
そして12本のひまわりの意味は私の妻になって下さい…。
ひまわりは送る相手に愛を伝える花でもあるんだ。
私はね、エリス。今となってはお聞きすることは叶わないが、せめてアルテーシア様もこのひまわりの花言葉を知って居られたら良かったのにと願ってしまう。
アルテーシア様に仕える君に、王宮の者達からの風当たりはきつかった。でも、どんなに辛い目に遭って涙を流しても、アルテーシア様の前ではそれを悟られない様にと何時も君は笑っていた。
なかなか言い出せなかったけれど、私はそんな君の事が本当に好きだったよ。
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