悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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「なに、良くある話だよ。イスタルの国王は好色で有名な人でね」

 そう言ってオスカーが語り始めたのは、彼の言う通り国王と言う権力を持つ者が陥る、ありふれた話だった……。

 例え砂漠にある小さなオアシスだったとしても、イスタルにとって領土の1つである事に変わりはない。恐らくそれは国王のほんの気まぐれだったのだろう。ある日視察と称してオアシスの中の1つを訪れた。

 国王はそこで偶々、ダンケルと同じ燃える様な赤い髪を持つ少女を見掛けた。英雄王の誉れ高いダンケルと同じ赤い髪。戦場で自ら指揮をとりルクソルを退けたダンケルの名声は他国にも響き渡っていた。だからこそ彼はを彼に嫁がせたのだ。そして今、彼女が国王の目に止まった理由も正にその事に起因した。ダニエルは己の知らぬ間に1人の女性の運命を狂わせていたのだ。

 国王は命じた。

 あの娘を今宵の夜伽に差し出せと……。

 そう……。イスタルの国王が視察に向かう目的……。それは視察先で自分の気に入った女を見つけては、1夜の快楽を得る。

 国王にとってはただそれだけの事だった。

 だが、娘にとってはそうではない。

『あの娘には心に決めた許嫁がいるのです。どうかお許し願えませんか?』

 命じられたオアシスの長老は、娘の身を案じ王にそう嘆願したそうだ。

 ところが……。

『ええいっ、五月蝿い! 国王である私に逆らうな!! 英雄王と同じ髪色を持ったあの娘を、私の思い通りに服従させてやりたいのだ!!』

 国王はあろう事かそう言ってその長老を切り捨てたそうだ。

 当然の事ながらその後、少女は王へと差し出され、1夜限りの慰め者となった。

 だが、彼女の不幸はまだ続く。王の子を身籠ったのだ。だがどんな理由があるにせよ、お腹の子は間違いなく国王の血を引く子だ。堕胎と言う選択肢を少女は与えられなかった。当然、許嫁との結婚話もなくなった。

 彼女は軈て女の子を産んだ。

 だが、イスタルの国王にとって、そんな事は預かり知らぬ事。生まれた少女は母親と2人、肩を寄せ合うようにしてオアシスでひっそりと暮らしていたそうだ。その母親が体を壊し亡くなるまでは……。

「母親が亡くなった後、少女の姿は忽然とオアシスから消えたそうだよ。ただ、オアシスで詳しく話を聞いていくと、どうも誰かがその少女を迎えに来たみたいなんだ。恐らく少女はその人物に付いてオアシスを出て行った可能性が高いだろうね。でね、その消えた少女の髪の色がピンク色だったそうだよ。勿論、それだけでその少女がララ嬢だと言う証拠なんて何もない。だけど、その少女がララ嬢と同じ歳だと聞けば、先程の話と同じだ。どうしても結び付けて考えてしまう。ララ嬢がその少女ではないかとね」

「だからオスカー様はララ様が危険だと?」

「まぁ、もしそうだとしたら、彼女は王妃の妹。見た目通りの女性ではないのかも知れないな」

 馬鹿か? 何処までおめでたい? 思い過ごしに違いないだろう。そもそも迎えに来たと言う話すら怪しいではないか? 年輪も行かぬ少女だぞ。普通に考えれば売られたか、とっくの昔に死んでおるわ。

「だがな……」

 あ! つい口を開いてしまった。

「閣下、何でしょうか?」

 すると、オスカーがワシの話を促すように此方に視線を向ける。

 帰れと怒鳴りつけた手前、何とも気まずい。

「胸糞の悪い話だが、百歩譲って其方の言う通り、あのピンク頭が本当に王妃の妹だったとしよう。それで何故あの娘イスタルの陰謀に手を貸す? ピンク頭はイスタルの国王を恨みこそすれ、国王の陰謀に手を貸す理由などないはずだ。然も話を聞く限り、イスタルの国王と言うのは碌でもないクズではないか。寧ろその娘はイスタルに復讐し滅ぼす為にこの国を利用している……そう考える方がしっくり来る位ではないのか!?」

 自分で言ってハッとした。

 オスカーとアルテミスも此方を見ている。考えられない話ではないと我ながら思った。

 だが……。

「まさかな」

 自分で自分を自嘲した。

「それでは王妃が我が国の戦力を削ぐ理由に説明が付かん」

 だが、何かが引っかかる。

 もし、彼女を迎えに来た人物が本当にいたのだとしたら……。

 万が一ララが本当に生き延びたそのイスタルの王女だったのだとしたら、そんな出自の娘が、男爵令嬢と称して何故この国に居る? 男爵は何故娘だと偽って彼女に手を貸す。そんな事をして男爵にどんな徳がある? そんな話が露見すれば男爵とてその立場を失うと言うのに……。

 とはいえ、ララがこの国の人間ではないとしたら、間違いなく彼女に手を貸し、男爵令嬢の地位を与えることに手を貸した者がいるはず。

 宰相が王太后の指示で動いていたと分かった今、そんな事に手を貸した可能性のある人間はどれだけ考えても王妃しか思い浮かばなかった。

「まぁ、念のため男爵家も調べてみるか」

 馬鹿馬鹿しい……。そう思いながらもワシはアルテミスにそう伝えた。











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