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「そんな……馬鹿な……」
「あり得んの次は馬鹿な……か? 息子が息子なら親も親だな。これは先程、今お主の隣で治癒魔法をかけている男に聞いた話だかな…」
ワシがそう言うと、ダンケルはオスカーに目をやった。
「ああ、オスカーか」
「知っておったのか?」
「当たり前だ。母上の大甥だぞ。知っているに決まっておろうが」
ダンケルはオスカーが掛け続けている治癒魔法のおかげか、だんだん体調が戻ってきた様だ。これなら、こちらも遠慮する必要はない。
「ほう。だったら話が早い。教えてやる。お主に治癒魔法をかけ、目覚めさせてくれたのはこの男だ。本人の前で言いたくはないが、ワシの見たところ稀有な魔導士だ。其方、何故これ程有能な男をエドガーの側近に選ばなかった? こうゆう男が側についておったなら、お主の息子もあれ程馬鹿な行いはしなかったのではないのか!?」
「人の息子を馬鹿馬鹿言うな!」
売り言葉に買い言葉。ダンケルも言い返して来るが、怒りで腑が煮えたぎっておるワシは、もはや何とも思わん。
「馬鹿は馬鹿だ。反対にワシはお主に聞きたいわ。エドガーの側近達は何故あの者達なのだ? 彼奴《あやつ》らはアルテミスが目の前で婚約破棄されるのを嘲笑って見ておったのだぞ。たった1人の女子を取り囲んで大勢でな。主人の愚行を止めるのも側近の役目ではないのか? あんな奴ら側にいても何の足しにもならんだろうが!」
「それは……。知らん。全て息子を思って王妃が決めた事だ」
息子を思って? 息子を思う母親が自分の息子の側近にあんな奴らを選んだなどと、この男は本気でそう思っていると言うのか?
「また王妃か? かつて英雄と謳われた男が女子の尻に敷かれおって! 全く情けない事この上ないわ! あ! そうだ。先程の話の続きだがな、イスタルの王はお主と同じ赤い髪の女を夜伽に呼んで言ったそうだぞ。英雄王と同じ髪色を持った娘を、自分の思い通りに服従させてやりたいとな。それは即ち心の奥底では、お主を服従させてやりたいと思っておるのではないのか? なぁ、そうは……思わんか……?」
この時ワシは、自分の発した言葉に違和感を覚えた。
もしイスタルの王がダンケルを服従させるためにこの様な謀をしたのだとしたら、どうしてダンケルに毒を盛った?
死なれては服従させられぬではないか……?
もし王妃が父であるイスタル王の指示で動いているのだとしたら……。
ダンケルに毒を盛ったのは王妃ではないのか……?
だが、そうだとしたら、ダンケルは何故これ程までに犯人を庇う?
「おい! どうした?」
急にワシが黙り込んだ事を不安に感じたのか、ダンケルが問いかけた。
「……エドガーか?」
ダンケルがハッと息を飲んだのが分かった。
「やはりか……」
するとダンケルが諦めたか、溜め息を吐いて目を閉じた。奴のこの態度にいち早く反応したのはアルテミスだった。
「そんな……まさか……エドガー様がそんな事を……? 陛下、嘘ですよね?」
アルテミスが体を震わせながら、目の前のダンケルに尋ねた。エドガーは先日まで自分の婚約者だったのだ。血の繋がった実の父に毒を盛る……。いくら何でもそんな愚かな事をしでかすとは思いもよらなかっただろう。娘が信じられないのも無理のない事だった。
オスカーは何も言わず、ただダンケルに憐れむ様な目を向けながら治癒魔法をかけていた。
「なぁ、ジグムント。私とてただ黙って見ていた訳ではないのだ」
軈てダンケルは諦めたかの様に、その重い口を開いた。
「お前はエドガーの事を馬鹿だ馬鹿だと申すが、息子に王としての能力がない事くらい、親である私が1番よく分かっている。だからこそ、私は其方にアルテミスを嫁に欲しいと頭を下げたのだ。だがエドガーは、アルテミスではなく、よりにもよってあのララとか言う得体の知れぬ娘と結婚したいと言い出した」
そう言ってダンケルは、今度はアルテミスに目をやった。
「すまぬ、アルテミス。私は其方の努力を無駄にした。親として息子を導いてはやれなかった。エドガーがいつから私に毒を盛っていたのかは分からない。だが私が毒に倒れた時、彼は私が既に意識を失っていると思ったのだろう。『父上が私を廃嫡などしようとするからだ』そう言ったよ」
ダンケルのこの言葉を聞いた時、ワシも胸が詰まった。ランスルの事を思い出したのだ。
「子供と言うのは、親の思う通りには行かぬものだな」
ワシはダンケルにそう声を掛けた。
「だがな、それを庇い隠す事が親の愛か? 甘やかすのではなく、叱り、時には突き放し現実を見せるのも親の愛ではないのか?」
「あり得んの次は馬鹿な……か? 息子が息子なら親も親だな。これは先程、今お主の隣で治癒魔法をかけている男に聞いた話だかな…」
ワシがそう言うと、ダンケルはオスカーに目をやった。
「ああ、オスカーか」
「知っておったのか?」
「当たり前だ。母上の大甥だぞ。知っているに決まっておろうが」
ダンケルはオスカーが掛け続けている治癒魔法のおかげか、だんだん体調が戻ってきた様だ。これなら、こちらも遠慮する必要はない。
「ほう。だったら話が早い。教えてやる。お主に治癒魔法をかけ、目覚めさせてくれたのはこの男だ。本人の前で言いたくはないが、ワシの見たところ稀有な魔導士だ。其方、何故これ程有能な男をエドガーの側近に選ばなかった? こうゆう男が側についておったなら、お主の息子もあれ程馬鹿な行いはしなかったのではないのか!?」
「人の息子を馬鹿馬鹿言うな!」
売り言葉に買い言葉。ダンケルも言い返して来るが、怒りで腑が煮えたぎっておるワシは、もはや何とも思わん。
「馬鹿は馬鹿だ。反対にワシはお主に聞きたいわ。エドガーの側近達は何故あの者達なのだ? 彼奴《あやつ》らはアルテミスが目の前で婚約破棄されるのを嘲笑って見ておったのだぞ。たった1人の女子を取り囲んで大勢でな。主人の愚行を止めるのも側近の役目ではないのか? あんな奴ら側にいても何の足しにもならんだろうが!」
「それは……。知らん。全て息子を思って王妃が決めた事だ」
息子を思って? 息子を思う母親が自分の息子の側近にあんな奴らを選んだなどと、この男は本気でそう思っていると言うのか?
「また王妃か? かつて英雄と謳われた男が女子の尻に敷かれおって! 全く情けない事この上ないわ! あ! そうだ。先程の話の続きだがな、イスタルの王はお主と同じ赤い髪の女を夜伽に呼んで言ったそうだぞ。英雄王と同じ髪色を持った娘を、自分の思い通りに服従させてやりたいとな。それは即ち心の奥底では、お主を服従させてやりたいと思っておるのではないのか? なぁ、そうは……思わんか……?」
この時ワシは、自分の発した言葉に違和感を覚えた。
もしイスタルの王がダンケルを服従させるためにこの様な謀をしたのだとしたら、どうしてダンケルに毒を盛った?
死なれては服従させられぬではないか……?
もし王妃が父であるイスタル王の指示で動いているのだとしたら……。
ダンケルに毒を盛ったのは王妃ではないのか……?
だが、そうだとしたら、ダンケルは何故これ程までに犯人を庇う?
「おい! どうした?」
急にワシが黙り込んだ事を不安に感じたのか、ダンケルが問いかけた。
「……エドガーか?」
ダンケルがハッと息を飲んだのが分かった。
「やはりか……」
するとダンケルが諦めたか、溜め息を吐いて目を閉じた。奴のこの態度にいち早く反応したのはアルテミスだった。
「そんな……まさか……エドガー様がそんな事を……? 陛下、嘘ですよね?」
アルテミスが体を震わせながら、目の前のダンケルに尋ねた。エドガーは先日まで自分の婚約者だったのだ。血の繋がった実の父に毒を盛る……。いくら何でもそんな愚かな事をしでかすとは思いもよらなかっただろう。娘が信じられないのも無理のない事だった。
オスカーは何も言わず、ただダンケルに憐れむ様な目を向けながら治癒魔法をかけていた。
「なぁ、ジグムント。私とてただ黙って見ていた訳ではないのだ」
軈てダンケルは諦めたかの様に、その重い口を開いた。
「お前はエドガーの事を馬鹿だ馬鹿だと申すが、息子に王としての能力がない事くらい、親である私が1番よく分かっている。だからこそ、私は其方にアルテミスを嫁に欲しいと頭を下げたのだ。だがエドガーは、アルテミスではなく、よりにもよってあのララとか言う得体の知れぬ娘と結婚したいと言い出した」
そう言ってダンケルは、今度はアルテミスに目をやった。
「すまぬ、アルテミス。私は其方の努力を無駄にした。親として息子を導いてはやれなかった。エドガーがいつから私に毒を盛っていたのかは分からない。だが私が毒に倒れた時、彼は私が既に意識を失っていると思ったのだろう。『父上が私を廃嫡などしようとするからだ』そう言ったよ」
ダンケルのこの言葉を聞いた時、ワシも胸が詰まった。ランスルの事を思い出したのだ。
「子供と言うのは、親の思う通りには行かぬものだな」
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「だがな、それを庇い隠す事が親の愛か? 甘やかすのではなく、叱り、時には突き放し現実を見せるのも親の愛ではないのか?」
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