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王宮内、ダンケルの寝室。
ワシら4人はグランベルクからこの部屋に空間転移して来た。
「へぇ、これが身代わり人形ですか? まるで本当に陛下がそこで眠っている様だ!」
寝室で横たわるダンケルの姿形をした人形を見たオスカーは感歎の声を上げ、ベッドへと駆け寄った。そうして人形を間近にすると、興味深そうに手を上げたり、顔を触ったりしてその感触を確かめている。
いやはや、オスカーは人形に夢中で気付いてはおらん様だが、それを見つめるダンケルの目は冷ややかだ。
まぁ、魔力で作られた物とは言え、自分そっくりの人形がまるで玩具の様に目の前で扱われているのだ。良い気分な訳はないな。
「この人形が動いて喋る。これでは確かにどちらが本物の陛下かなんて見分けはつかないでしょうね」
オスカーはそんな事を言いながら、仕切りに感心し人形の手足を動かし続けている。
「其方、その人形がそれ程気にいったか?」
そろそろダンケルが怒り出しそうなタイミングで、仕方なく助け船を出した。
「気にいったなんて物ではありませんよ。魔道士の宿命でしょうか? 初めて見る魔法には興味が尽きません」
オスカーはそう言って笑顔を見せた。その顔は新たな玩具を手にした子供の様だ。
此奴、本当に魔法が好きなんだな。もしや単なる魔法馬鹿か?
先程、オスカーに抱いた底知れぬ恐れの様な感情は、ワシの思い過ごしだったか……。オスカーのその笑顔を見たワシはこの時そう思って安堵した。
だがその思いはまた直ぐに覆えされる。
「では、そろそろ参るぞ。私達は人形を愛でに来た訳ではないだろう?」
痺れを切らせたダンケルが苦言を呈した。これは相当怒っている。
考えてみれば、自分の息子を容疑者として捉えなければならないのだ。ダンケルが苛つくのも無理はなかった。
ワシはダンケルのその言葉を合図に指を弾いた。
途端に人形が跡形もなくベッドから消えた。
「うわっ!」
側にいたオスカーが驚きの声を上げ、ベッドから飛び退いた。
「当たり前だ。それはワシの魔力で作った謂わば魔力の塊。ワシが魔力を回収すれば何もなくなるわ!」
「……そうなんですか。とても便利な魔法ですね。使い勝手が良さそうだ。でもそう言われれば確かに閣下の魔力量が急激に上昇しましたね」
オスカーは何でもない事の様にそう言った。
「……其方、人の持つ魔力の量が分かるのか?」
ワシは驚いて問い返した。
「ええ、何となくですが……」
……何となくだと……? それがどれ程価値のある事か分からぬのか?
魔力を感じ取る事が出来るのとは訳が違う。魔力量が分かるという事は、その魔道士の限界が分かると言う事だ。
魔力がなくなれば当然、魔法を発動する事など出来なくなる。だから此奴の言う様に、本当に相手の魔力量が分かるのだとすれば、何らかの方法を使ってその極限まで魔力を使い果たさせれば良いのだ。そうすればその相手は自滅するしか道はなくなる。
ならば此奴にはワシの限界も見えていると言う事か……。
「では行くぞ!」
ダンケルがそう言ってドアノブに手をかけた。
ワシら4人はそのままダンケルに従い寝室から廊下へと出た。
途端に廊下を歩く役人や使用人達が目を見開き声を上げる。
「陛下! もう大丈夫なのですか!?」
「ああ、見ての通りすっかり良くなった。皆、心配をかけたな」
ダンケルは自分の健在を王宮中に示すため、すれ違う1人1人に手を上げながら言葉を返していく。
そうこうしているうちに、ワシらの周りには人集りが出来た。
その人々の反応は歓喜の声を上げる者、安心したかの様にほっと胸を撫で下ろす者、様々だ。
すると、この騒ぎを聞きつけた宰相がやって来た。
「陛下! 陛下、大丈夫なのですか?」
そう言ってダンケルに駆け寄ろうとした宰相は、奴の後ろに立つワシとアルテミスに気付くと徐に足を止めた。
「……辺境伯……」
宰相が決まり悪そうにワシらから視線を外す。その様子を見咎めたダンケルが声を上げ宰相を叱責した。
「ジグムントは国に戻ってくれる様、私が頭を下げた。何より此奴が見つけてくれなければ、私は既にこの世の者では無かったであろう……。宰相、もし私に何かあった時、私に代わり国務を取り仕切るのが宰相たる其方の務めではないのか? 其方もこの国におけるグランベルクの果たす役割は充分に理解しているはず。それを例えどんな理由があるにせよ、みすみす国から出ていかせるとは……空いた口が塞がらん!!」
ダンケルに鋭い眼光で睨みつけられた宰相は身を縮めながら頭を下げた。
「申し訳ございません」
「馬鹿者! 頭を下げる相手が違っておろうが!」
再度ダンケルに叱責された宰相は、今度はワシとアルテミスに向かって頭を下げた。
「辺境伯、アルテミス嬢。あの折の事は私の力不足だった。申し訳無かった」と……。
国王が宰相に向かって皆の見守る前で辺境伯家の重要性を説き、宰相が頭を下げた。これであの日王太子にお荷物だと馬鹿にされたグランベルクの面目を保つ事が出来た。
「ふん。ダンケルが謝るから仕方なく許してやるのだぞ!」
ワシが宰相に向かってふんぞり返ると、アルテミスに袖を引かれ耳元で囁かれた。
「大人気ない」
「えっ!?」
ワシは息を飲む。
そうか? 何か1言位、言い返してやらんと気が収まらんではないか……。
ワシは腹の中ではそう思いながらも、ふんぞり返っていた姿勢を正した。
決してアルテミスに囁かれたからではないぞ……。
そんなワシとアルテミスのやり取りを横目で見ながら、ダンケルは宰相に命じた。
「エドガーは何処だ!? エドガーを連れて来い!!」
ワシら4人はグランベルクからこの部屋に空間転移して来た。
「へぇ、これが身代わり人形ですか? まるで本当に陛下がそこで眠っている様だ!」
寝室で横たわるダンケルの姿形をした人形を見たオスカーは感歎の声を上げ、ベッドへと駆け寄った。そうして人形を間近にすると、興味深そうに手を上げたり、顔を触ったりしてその感触を確かめている。
いやはや、オスカーは人形に夢中で気付いてはおらん様だが、それを見つめるダンケルの目は冷ややかだ。
まぁ、魔力で作られた物とは言え、自分そっくりの人形がまるで玩具の様に目の前で扱われているのだ。良い気分な訳はないな。
「この人形が動いて喋る。これでは確かにどちらが本物の陛下かなんて見分けはつかないでしょうね」
オスカーはそんな事を言いながら、仕切りに感心し人形の手足を動かし続けている。
「其方、その人形がそれ程気にいったか?」
そろそろダンケルが怒り出しそうなタイミングで、仕方なく助け船を出した。
「気にいったなんて物ではありませんよ。魔道士の宿命でしょうか? 初めて見る魔法には興味が尽きません」
オスカーはそう言って笑顔を見せた。その顔は新たな玩具を手にした子供の様だ。
此奴、本当に魔法が好きなんだな。もしや単なる魔法馬鹿か?
先程、オスカーに抱いた底知れぬ恐れの様な感情は、ワシの思い過ごしだったか……。オスカーのその笑顔を見たワシはこの時そう思って安堵した。
だがその思いはまた直ぐに覆えされる。
「では、そろそろ参るぞ。私達は人形を愛でに来た訳ではないだろう?」
痺れを切らせたダンケルが苦言を呈した。これは相当怒っている。
考えてみれば、自分の息子を容疑者として捉えなければならないのだ。ダンケルが苛つくのも無理はなかった。
ワシはダンケルのその言葉を合図に指を弾いた。
途端に人形が跡形もなくベッドから消えた。
「うわっ!」
側にいたオスカーが驚きの声を上げ、ベッドから飛び退いた。
「当たり前だ。それはワシの魔力で作った謂わば魔力の塊。ワシが魔力を回収すれば何もなくなるわ!」
「……そうなんですか。とても便利な魔法ですね。使い勝手が良さそうだ。でもそう言われれば確かに閣下の魔力量が急激に上昇しましたね」
オスカーは何でもない事の様にそう言った。
「……其方、人の持つ魔力の量が分かるのか?」
ワシは驚いて問い返した。
「ええ、何となくですが……」
……何となくだと……? それがどれ程価値のある事か分からぬのか?
魔力を感じ取る事が出来るのとは訳が違う。魔力量が分かるという事は、その魔道士の限界が分かると言う事だ。
魔力がなくなれば当然、魔法を発動する事など出来なくなる。だから此奴の言う様に、本当に相手の魔力量が分かるのだとすれば、何らかの方法を使ってその極限まで魔力を使い果たさせれば良いのだ。そうすればその相手は自滅するしか道はなくなる。
ならば此奴にはワシの限界も見えていると言う事か……。
「では行くぞ!」
ダンケルがそう言ってドアノブに手をかけた。
ワシら4人はそのままダンケルに従い寝室から廊下へと出た。
途端に廊下を歩く役人や使用人達が目を見開き声を上げる。
「陛下! もう大丈夫なのですか!?」
「ああ、見ての通りすっかり良くなった。皆、心配をかけたな」
ダンケルは自分の健在を王宮中に示すため、すれ違う1人1人に手を上げながら言葉を返していく。
そうこうしているうちに、ワシらの周りには人集りが出来た。
その人々の反応は歓喜の声を上げる者、安心したかの様にほっと胸を撫で下ろす者、様々だ。
すると、この騒ぎを聞きつけた宰相がやって来た。
「陛下! 陛下、大丈夫なのですか?」
そう言ってダンケルに駆け寄ろうとした宰相は、奴の後ろに立つワシとアルテミスに気付くと徐に足を止めた。
「……辺境伯……」
宰相が決まり悪そうにワシらから視線を外す。その様子を見咎めたダンケルが声を上げ宰相を叱責した。
「ジグムントは国に戻ってくれる様、私が頭を下げた。何より此奴が見つけてくれなければ、私は既にこの世の者では無かったであろう……。宰相、もし私に何かあった時、私に代わり国務を取り仕切るのが宰相たる其方の務めではないのか? 其方もこの国におけるグランベルクの果たす役割は充分に理解しているはず。それを例えどんな理由があるにせよ、みすみす国から出ていかせるとは……空いた口が塞がらん!!」
ダンケルに鋭い眼光で睨みつけられた宰相は身を縮めながら頭を下げた。
「申し訳ございません」
「馬鹿者! 頭を下げる相手が違っておろうが!」
再度ダンケルに叱責された宰相は、今度はワシとアルテミスに向かって頭を下げた。
「辺境伯、アルテミス嬢。あの折の事は私の力不足だった。申し訳無かった」と……。
国王が宰相に向かって皆の見守る前で辺境伯家の重要性を説き、宰相が頭を下げた。これであの日王太子にお荷物だと馬鹿にされたグランベルクの面目を保つ事が出来た。
「ふん。ダンケルが謝るから仕方なく許してやるのだぞ!」
ワシが宰相に向かってふんぞり返ると、アルテミスに袖を引かれ耳元で囁かれた。
「大人気ない」
「えっ!?」
ワシは息を飲む。
そうか? 何か1言位、言い返してやらんと気が収まらんではないか……。
ワシは腹の中ではそう思いながらも、ふんぞり返っていた姿勢を正した。
決してアルテミスに囁かれたからではないぞ……。
そんなワシとアルテミスのやり取りを横目で見ながら、ダンケルは宰相に命じた。
「エドガーは何処だ!? エドガーを連れて来い!!」
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