悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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 自らの喉元に突き付けられた剣に目を見開いたオスカーは、軈て全てを諦めたかの様に両手を上にあげ降参の姿勢を見せた。

「あ~あ。失敗しましたね。やはり貴方なんて助けなければ良かった。でも貴方の寝室であの人形を見た時、私は考えてしまったのですよ。上手くいけばあの人形を使って貴方に成り代われるのではないかとね」

 オスカーは目の前のダンケルにそう言って息を吐いた。

「ですが完敗ですよ。まさか貴方がこれ程に強いとは……。さっきまで死にかけていたと言うのにね」

 彼は自嘲した様な笑みを浮かべる。

 なる程、そう言う事か。あの卒業パーティーの日、王宮に忍び込んだワシがダンケルと人形を入れ替えた事をこの男は知っていた。

 だからダンケルを治癒し、その健在ぶりを王宮中に示した。人形を利用して自分がダンケルに成り変わるためには、そうする必要があったのだ。

 だが……。

「そうだな。だが、お主ではダンケルに成り変わる事など到底無理だ。お主の言う通り、つい数時間前まで此奴は死にかけておった。長い間眠っておったのだ。筋力も弱っておる。年を重ね若い頃の様な俊敏さももうない。それでも此奴が強いとお主が感じたのなら、それはオスカー、其方がからに他ならない……」

「弱い……私が……?」

 今まで考えた事も、言われた事も無かったのだろう。

 オスカーが信じられないと言った表情で、呆然と呟いた。

「ああ、弱いな。今の其方にあるのは魔力量だけだ。だが、全くもってそれが使い熟せてはおらん。未熟も未熟。正に宝の持ち腐れと言うやつだな」

 ワシはまたそう言ってオスカーを煽った。

「宝の持ち腐れだと? 貴様! 私を愚弄する気か!?」

 するとオスカーがまた、感情を露わにし怒気を含んだ声を上げた。

「それそれ。少し煽られれば直ぐに感情を乱し、冷静な判断が出来なくなる。それもお主の悪い癖だ。こんな状況に追い込まれておきながら、まだワシらに逆らおうとするその態度。ワシにはさっぱり理解出来ん。お主、分かっておるのか? 今、ダンケルの刃は、お主の喉元を捉えておるのだぞ。もしお主がこれ以上ダンケルを怒らせ、此奴がその刃を横に真っ直ぐに引けば、お主はそれだけでその命を失うのだ。この場面、もしワシがお主の立場なら、真っ先に命乞いをするわ」

「は? 命乞い……? そんな事をして何になります? 私は国王に毒を盛ったんだ。許される筈がないでしょう? それにもし許されたとして、貴方は私に生き恥を晒せと言うのですか!」

 オスカーのこの言葉を聞いた瞬間、ワシは怒りのあまり奴を怒鳴り付けた。

「生き恥だと? 生きる事は恥ではないわ! この愚か者が!!」

 ワシの怒声に、オスカーが驚きの余り目を見開く。ワシはそんなオスカーに語りかけた。

「ワシは戦場で沢山の人の死をこの目で見て来た。皆、生きたいと願った者達だった。生きる為に国を守ろうとした者達だった。だが、例えその者がどんな人生を歩んで、どんな願いを持っていたとしても、死んでしまえば皆、同じ物言わぬむくろだ。もはやこれ以上、何かをなす事も、愛する者を抱きしめる事さえも出来ぬ。だが、其方はまだ生きているではないか? 例えその身が奴隷となったとしても、それだけの才能があるのだ。生きてさえいればいつかまた、再帰の道が開かれるかも知れぬではないか」

 そう言って奴の目の前に小さな水球を作った。

 ワシはその水球を左右に曲がらせて見せた。

「其方の放った火球はワシら目掛け真っ直ぐに飛んで来た。動きが単調なのだ。だかな、真っ直ぐ飛ぶ物など除けるのは簡単だ。もしこの水球の様に其方の放った火球が左右に曲がれば、ワシらはあれ程簡単に火球を避ける事は出来なかった」

 オスカーはワシのその話を興味深かそうに黙って聞いていた。

「ランスルの話では、其方、1度見た魔法は再現出来るそうではないか?」

「……いえ。全てではありません。あの人形を作る様な高度な魔法は1度では出来ませんでした」

「そうか……。だから先程、熱心に人形を触って見ていたのか?」

「はい……」

 オスカーは素直に頷いた。あの時この男は楽しそうに身代わり人形を見ていた。魔法が本当に好きなのだと思った……。

「お主のその天から与えられた才能を此処で失うのは惜しい……。これはワシ個人の意見だがな……」

 この男にこの言葉を掛けて良かったのかどうかは分からない。

 だが、気が付けば口をついて出ていた。

「貴方にもっと早くお会いしたかった……。貴方に魔法を教わりたかった……。ランスルやアルテミス嬢が羨ましい……」

 オスカーはそう言って悔しそうに俯いた。

 すると今まで黙ってワシとオスカーの話を聞いていたダンケルが、ここで漸く口を開いた。

「ならばお前の知っている事を包み隠さず全て話せ。お前を生かすか殺すか決めるのはそれからだ」












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