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「ちょっと待て! 奴はワシらを殺そうとした男だぞ!」
ワシが反論すると、アルテミスに反対に言い返された。
「緊急事態です。仕方がないではありませんか! それとも、これ以外に方法はありますか? その時考えられる最善の方法を選ぶ。普段のお父様なら間違いなくそうしているでしょう?」
仕方がないだと? くそ! 王太后と同じ事を言いおって……。
ドォーーン!!
だが、そんな言い合いをしている間にも、また次の爆音が鳴り響く。
今度の揺れは先程より激しく、王太后は体のバランスを崩し前へ倒れ込んだ。
「大丈夫か? 婆さん」
「ええ、大丈夫よ」
婆さんはそう言ってワシに向かって手で合図するが、このままではまずい事だけは分かった。
音が明らかに此方に向かって来ていたのだ。
「お父様! 王宮内でもこちら側は王族の皆様の居住スペースになっています!」
アルテミスが声を上げワシに教える。
娘もワシと同じく、敵が此方に近付いて来ている事を感じ取ったのだろう。
ならば、敵の狙いは王族の中の誰かか!?
すると今度は爆音が立て続けに数度鳴った。
恐らく騎士団が到着し、敵と応戦しているのだろうが、いかんせん此処にいては状況が全く分からない。
「大丈夫か? 婆さん。立てるか?」
ワシは王太后に手を差し伸べた。
「ええ」
王太后は頷きながらワシの手を取り立ち上がる。
「いいか? 婆さんよく聞け。音の大きさから判断して、敵は真っ直ぐにこちら側に向かって来ている。敵の狙いが何なのか今は全く分からんが、もしかしたらアンタの命が狙われている可能性もゼロではない。ワシはこれから敵の元へと急ぐ。いざとなってもアンタを守ってやる事は出来んかも知れん。だから婆さん、アンタは何処かに隠れ、ワシが迎えに来るまでは何があっても絶対に出て来てはならん。それは例え、敵がアンタの名を呼んでもだ。分かったか?」
ワシは王太后に諭すように告げた。
この婆さんが、いざとなったら簡単に自分の命を差し出す人間だと分かっているからだ。
ワシは念の為、廊下に控える王太后の侍女達にも言って聞かせた。
「王太后を絶対に表に出すなよ」
「「はい!」」
侍女達はワシの言葉に声を揃わせ頷いた。
その間にも騎士団が押されているのか、爆音はどんどん此方に向かって近付いて来る。
「時間がないようだ。早く王太后を安全な場所へ連れて行け!」
ここまで来ればもう思い過ごしではなかった。
間違いなく敵の狙いは王族の誰か。
ワシは侍女達に連れられ去って行く王太后に背中越しに尋ねた。
「婆さん。オスカーが今、どこに囚われているか知っているか?」
王太后は即座に答える。
「貴族牢よ。あの子は今、私とマリエッタの代わりに捕らえられているの。当たり前じゃない!」
私とマリエッタの代わりに……。
態度には表さなくても、その言葉で分かった。
オスカーは侯爵家の人間ではあるが嫡男ではない。今回、罪を犯した彼を侯爵家がどう扱うかによって、オスカーが牢に入るか貴族牢に入るか判断が分かれるところだっただろう。
結果、彼は貴族牢に入れられた。
やはり王太后は、彼女なりにオスカーに対し罪悪感を抱いていたのだ。
「アルテミス、其方、貴族牢の場所も分かるか?」
「ええ、もちろんよ。お父様、オスカー様に助けを求めるのね?」
アルテミスが確認するように問い掛けた。
「ああ、背に腹は変えられん。それしか突破口はないからな。其方はどんな事をしてもオスカーを此処に連れて来い。だがな、ワシは其方と共には行けん。敵が近付いているからな。ワシは何とかして敵の足止めをして時間を稼ぐ!」
「……ですがお父様、お一人で大丈夫ですか?」
アルテミスが困惑の表情を浮かべた。
確かにワシはついさっきまで魔力切れを起こし倒れていた。
だが他に方法はなかった。アルテミスにもそれは分かっているようだ。
彼女は今までとは違い、絶対にワシの側にいるとは言わなかった。
音はどんどん此方に近付いて来ていた。
ワシはアルテミスを安心させようと笑いかけた。
「其方、ワシを誰だと思っておる? ワシは魔王と呼ばれた男だぞ。つまりワシは誰よりも強いのだ」
「……分かりました。直ぐにオスカー様を連れて参ります」
アルテミスは決意を固めたかのように、ワシの言葉に力強く頷いた。
「何処に敵がいるとも限らん。安全のためだ。空間転移を使え!」
ワシはアルテミスにそう命じた。
「……ですがお父様。私は空間転移魔法を使った事がありません」
アルテミスが戸惑いを見せる。
「なに、結界も治癒も最初は初めてだったであろう? だがな、それを乗り越えて初めてその魔法を自分のものにできるのだ。それに其方は昨日、今日と何度もワシと共に転移したではないか? あの感覚通りに魔法を使えば良いだけだ。大丈夫。其方なら絶対に出来る!」
とは言え、この局面で初めての魔法を使うのだ。アルテミスが戸惑うのも無理はない。
だが彼女はワシの言葉に頷いた。
「……分かりました。やります!」
アルテミスにもう迷いはなかった。
やってみますではなく、やりますと彼女は言ったのだ。
ワシはそこに娘の成長を実感した。
「目的地へ向かう為の行程を思い浮かべ、それを一足飛びするイメージだ」
ワシがそう声を掛けると、アルテミスは目を瞑って軽く頷いた。
アルテミスの体を光が包んでいく。ワシは娘の体が完全に消え去るのを確認してから、音のする方に向かって走った。
ワシが反論すると、アルテミスに反対に言い返された。
「緊急事態です。仕方がないではありませんか! それとも、これ以外に方法はありますか? その時考えられる最善の方法を選ぶ。普段のお父様なら間違いなくそうしているでしょう?」
仕方がないだと? くそ! 王太后と同じ事を言いおって……。
ドォーーン!!
だが、そんな言い合いをしている間にも、また次の爆音が鳴り響く。
今度の揺れは先程より激しく、王太后は体のバランスを崩し前へ倒れ込んだ。
「大丈夫か? 婆さん」
「ええ、大丈夫よ」
婆さんはそう言ってワシに向かって手で合図するが、このままではまずい事だけは分かった。
音が明らかに此方に向かって来ていたのだ。
「お父様! 王宮内でもこちら側は王族の皆様の居住スペースになっています!」
アルテミスが声を上げワシに教える。
娘もワシと同じく、敵が此方に近付いて来ている事を感じ取ったのだろう。
ならば、敵の狙いは王族の中の誰かか!?
すると今度は爆音が立て続けに数度鳴った。
恐らく騎士団が到着し、敵と応戦しているのだろうが、いかんせん此処にいては状況が全く分からない。
「大丈夫か? 婆さん。立てるか?」
ワシは王太后に手を差し伸べた。
「ええ」
王太后は頷きながらワシの手を取り立ち上がる。
「いいか? 婆さんよく聞け。音の大きさから判断して、敵は真っ直ぐにこちら側に向かって来ている。敵の狙いが何なのか今は全く分からんが、もしかしたらアンタの命が狙われている可能性もゼロではない。ワシはこれから敵の元へと急ぐ。いざとなってもアンタを守ってやる事は出来んかも知れん。だから婆さん、アンタは何処かに隠れ、ワシが迎えに来るまでは何があっても絶対に出て来てはならん。それは例え、敵がアンタの名を呼んでもだ。分かったか?」
ワシは王太后に諭すように告げた。
この婆さんが、いざとなったら簡単に自分の命を差し出す人間だと分かっているからだ。
ワシは念の為、廊下に控える王太后の侍女達にも言って聞かせた。
「王太后を絶対に表に出すなよ」
「「はい!」」
侍女達はワシの言葉に声を揃わせ頷いた。
その間にも騎士団が押されているのか、爆音はどんどん此方に向かって近付いて来る。
「時間がないようだ。早く王太后を安全な場所へ連れて行け!」
ここまで来ればもう思い過ごしではなかった。
間違いなく敵の狙いは王族の誰か。
ワシは侍女達に連れられ去って行く王太后に背中越しに尋ねた。
「婆さん。オスカーが今、どこに囚われているか知っているか?」
王太后は即座に答える。
「貴族牢よ。あの子は今、私とマリエッタの代わりに捕らえられているの。当たり前じゃない!」
私とマリエッタの代わりに……。
態度には表さなくても、その言葉で分かった。
オスカーは侯爵家の人間ではあるが嫡男ではない。今回、罪を犯した彼を侯爵家がどう扱うかによって、オスカーが牢に入るか貴族牢に入るか判断が分かれるところだっただろう。
結果、彼は貴族牢に入れられた。
やはり王太后は、彼女なりにオスカーに対し罪悪感を抱いていたのだ。
「アルテミス、其方、貴族牢の場所も分かるか?」
「ええ、もちろんよ。お父様、オスカー様に助けを求めるのね?」
アルテミスが確認するように問い掛けた。
「ああ、背に腹は変えられん。それしか突破口はないからな。其方はどんな事をしてもオスカーを此処に連れて来い。だがな、ワシは其方と共には行けん。敵が近付いているからな。ワシは何とかして敵の足止めをして時間を稼ぐ!」
「……ですがお父様、お一人で大丈夫ですか?」
アルテミスが困惑の表情を浮かべた。
確かにワシはついさっきまで魔力切れを起こし倒れていた。
だが他に方法はなかった。アルテミスにもそれは分かっているようだ。
彼女は今までとは違い、絶対にワシの側にいるとは言わなかった。
音はどんどん此方に近付いて来ていた。
ワシはアルテミスを安心させようと笑いかけた。
「其方、ワシを誰だと思っておる? ワシは魔王と呼ばれた男だぞ。つまりワシは誰よりも強いのだ」
「……分かりました。直ぐにオスカー様を連れて参ります」
アルテミスは決意を固めたかのように、ワシの言葉に力強く頷いた。
「何処に敵がいるとも限らん。安全のためだ。空間転移を使え!」
ワシはアルテミスにそう命じた。
「……ですがお父様。私は空間転移魔法を使った事がありません」
アルテミスが戸惑いを見せる。
「なに、結界も治癒も最初は初めてだったであろう? だがな、それを乗り越えて初めてその魔法を自分のものにできるのだ。それに其方は昨日、今日と何度もワシと共に転移したではないか? あの感覚通りに魔法を使えば良いだけだ。大丈夫。其方なら絶対に出来る!」
とは言え、この局面で初めての魔法を使うのだ。アルテミスが戸惑うのも無理はない。
だが彼女はワシの言葉に頷いた。
「……分かりました。やります!」
アルテミスにもう迷いはなかった。
やってみますではなく、やりますと彼女は言ったのだ。
ワシはそこに娘の成長を実感した。
「目的地へ向かう為の行程を思い浮かべ、それを一足飛びするイメージだ」
ワシがそう声を掛けると、アルテミスは目を瞑って軽く頷いた。
アルテミスの体を光が包んでいく。ワシは娘の体が完全に消え去るのを確認してから、音のする方に向かって走った。
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