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第31話
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「裁判になって叔母は焦ったのでしょうね。案の定、証明書を無効にして欲しいと父に縋り付いて来ましたよ。ですが父が動く前に、先日、新聞にその情報が先に掲載された。はっきり言ってスカッとしましたよ。これでもう証明書の存在を無かった事には出来なくなりました。父が例え握り潰したとしても、民達の記憶には残る。それならばと、今更偽物だと唱えたしても新聞が本物だと掲載しているんだ。疑心は残るでしょう…」
殿下は私の方を見て目を細めました。まるで良くやったと褒める様に…。
「勿論、私も父に苦言は呈しましたよ。そんな事をすれば教会との間に軋轢が生じる。この国での教会の役割を侵害する行為だと…ね。ですが父は私の話など聞いてはくれませんでした。私はね、伯爵。父に疎まれた子供だったんですよ。理由は簡単な事です。母は側妃として父に嫁いで直ぐに私を授かりました。そのせいで私は生まれてから暫くの間、本当に父の子かと疑われていたらしいですよ」
「そんな馬鹿な…」
父は言葉を失いました。
「いえ、残念ながら本当の事です。側妃とはいえ王家に嫁ぐのです。母は父に嫁ぐ前、教会で検査を受け、純潔である事が証明されていた。ですがある夜会で偶々ジャックの父と出会した。夜会です。勿論そこには沢山の人が居たし、何より母には護衛もついていました。2人は言葉を交わす事さえ無かったそうですよ。ですがそれにも関わらず、王妃と叔母が騒ぎ出しましてね。2人が密会していた…と大騒ぎしたそうですよ。すると、母が純潔であった事を誰よりも知っているはずの父までもが、2人の話しに乗って母を疑い始めました。だが、幸運な事に私の容姿は父に似ていた。それも歳を追う毎にね。それで疑いは晴れました。ですがね。この時の母の悔しさが分かりますか? 愛する人と引き離され、挙句不貞を疑われた。何処かで聞いた話しではありませんか?」
殿下はそう言って私を真っ直ぐな瞳で見つめました。
「そうですよ。貴方と同じです。私には貴方と母が重なって見えた」
そうか…。だから殿下は私に構い始めたんだ。漸く合点がいきました。
そして我が家に通ううちに、父の考えに気付いた…。
そう言う事なのでしょう。
「それでも母は言いましたよ。王妃様が自分を疎む気持ちは分かると。確かに、彼女は母の懐妊によってその立場を失った。不妊の原因が彼女だったと証明された様なものですからね。同じ女として同情すべき余地はあるとね。だが叔母は違う。叔母が母を虐げ私を偽物だと言った理由は只の野心だ」
「……野心…」
そう殿下の言葉を繰り返して気付きました。
そうか…。殿下の誕生を誰よりも望んでいなかったのは、元義母であるミランダだと言う事に…。
私は父を見上げました。父も私を見て頷きました。
この国では悲しいかな、男子にしか王位継承権は与えられていません。
ですが継承権と言う名の血統は残ります。
もし殿下がその時、出自を疑われ廃嫡されていたら、今頃王太子はミランダの産んだ子である、シグナスだったのです。
私は考えただけでぞっとして背中に汗が流れました。
そう言えば以前ニコラスが教えてくれました。ミランダの夫、前侯爵ガストル様は堅実な方だったと。
『ロザリア様、侯爵家は大奥様が嫁いで来られるまでは、こんな借金だらけの家ではなかったのですよ。大奥様の散財が侯爵家の身代を傾けていきました。大旦那様は分かっていながら元王女である彼女を止める事が出来なかったのです。挙句、金策に明け暮れ、心労のためその寿命を縮められました』
ニコラスはそう言って悔しそうに唇を噛んだのです。
当然の事ですが、ガストル様とミランダは政略結婚です。王家の血を引く公爵家を除けば、侯爵位は臣下として最上位の家柄。そこに偶々、ミランダと年齢の合うガストル様がいた。ただそれだけで王家からのゴリ押しとも言う形で結ばれた縁でした。
「私と母が叔母を嫌うのは間違っていますか? 身内より伯爵を選ぶ私は薄情者ですかね?」
殿下は私達にそう問いかけました。
「復讐して何が悪い…」
私は呟きました。
「えっ?」
殿下が驚いて聞き返します。
「以前私がジャックに言った言葉です。侯爵邸から帰る途中、ジャックは私に言いました。貴方には白い結婚の証明書がある。裁判などしなくても婚姻自体を無効に出来る。いっ時の復讐心で裁判を起こそうとしているのなら、引き返すのは今だ。そうすれば貴方がこれ以上傷付く事はないと。でも私は今、はっきりと思います。あの時、逃げずに裁判と言う選択をして良かった…。戦うと決めて良かったと…」
私はそう言って胸を張りました。
そのお陰で彼らを合法的に追い詰める事が出来るのです。
こうしてまた次の日、新聞の1面を私の離婚裁判の記事が独占しました。
『王太子殿下、伯爵家へ来訪。その目的は如何に』と…。
殿下は私の方を見て目を細めました。まるで良くやったと褒める様に…。
「勿論、私も父に苦言は呈しましたよ。そんな事をすれば教会との間に軋轢が生じる。この国での教会の役割を侵害する行為だと…ね。ですが父は私の話など聞いてはくれませんでした。私はね、伯爵。父に疎まれた子供だったんですよ。理由は簡単な事です。母は側妃として父に嫁いで直ぐに私を授かりました。そのせいで私は生まれてから暫くの間、本当に父の子かと疑われていたらしいですよ」
「そんな馬鹿な…」
父は言葉を失いました。
「いえ、残念ながら本当の事です。側妃とはいえ王家に嫁ぐのです。母は父に嫁ぐ前、教会で検査を受け、純潔である事が証明されていた。ですがある夜会で偶々ジャックの父と出会した。夜会です。勿論そこには沢山の人が居たし、何より母には護衛もついていました。2人は言葉を交わす事さえ無かったそうですよ。ですがそれにも関わらず、王妃と叔母が騒ぎ出しましてね。2人が密会していた…と大騒ぎしたそうですよ。すると、母が純潔であった事を誰よりも知っているはずの父までもが、2人の話しに乗って母を疑い始めました。だが、幸運な事に私の容姿は父に似ていた。それも歳を追う毎にね。それで疑いは晴れました。ですがね。この時の母の悔しさが分かりますか? 愛する人と引き離され、挙句不貞を疑われた。何処かで聞いた話しではありませんか?」
殿下はそう言って私を真っ直ぐな瞳で見つめました。
「そうですよ。貴方と同じです。私には貴方と母が重なって見えた」
そうか…。だから殿下は私に構い始めたんだ。漸く合点がいきました。
そして我が家に通ううちに、父の考えに気付いた…。
そう言う事なのでしょう。
「それでも母は言いましたよ。王妃様が自分を疎む気持ちは分かると。確かに、彼女は母の懐妊によってその立場を失った。不妊の原因が彼女だったと証明された様なものですからね。同じ女として同情すべき余地はあるとね。だが叔母は違う。叔母が母を虐げ私を偽物だと言った理由は只の野心だ」
「……野心…」
そう殿下の言葉を繰り返して気付きました。
そうか…。殿下の誕生を誰よりも望んでいなかったのは、元義母であるミランダだと言う事に…。
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この国では悲しいかな、男子にしか王位継承権は与えられていません。
ですが継承権と言う名の血統は残ります。
もし殿下がその時、出自を疑われ廃嫡されていたら、今頃王太子はミランダの産んだ子である、シグナスだったのです。
私は考えただけでぞっとして背中に汗が流れました。
そう言えば以前ニコラスが教えてくれました。ミランダの夫、前侯爵ガストル様は堅実な方だったと。
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ニコラスはそう言って悔しそうに唇を噛んだのです。
当然の事ですが、ガストル様とミランダは政略結婚です。王家の血を引く公爵家を除けば、侯爵位は臣下として最上位の家柄。そこに偶々、ミランダと年齢の合うガストル様がいた。ただそれだけで王家からのゴリ押しとも言う形で結ばれた縁でした。
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「えっ?」
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私はそう言って胸を張りました。
そのお陰で彼らを合法的に追い詰める事が出来るのです。
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