王命って何ですか?

まるまる⭐️

文字の大きさ
31 / 61

第31話

しおりを挟む
「裁判になって叔母は焦ったのでしょうね。案の定、証明書を無効にして欲しいと父に縋り付いて来ましたよ。ですが父が動く前に、先日、新聞にその情報が先に掲載された。はっきり言ってスカッとしましたよ。これでもう証明書の存在を無かった事には出来なくなりました。父が例え握り潰したとしても、民達の記憶には残る。それならばと、今更偽物だと唱えたしても新聞が本物だと掲載しているんだ。疑心は残るでしょう…」

 殿下は私の方を見て目を細めました。まるで良くやったと褒める様に…。

「勿論、私も父に苦言は呈しましたよ。そんな事をすれば教会との間に軋轢が生じる。この国での教会の役割を侵害する行為だと…ね。ですが父は私の話など聞いてはくれませんでした。私はね、伯爵。父に疎まれた子供だったんですよ。理由は簡単な事です。母は側妃として父に嫁いで直ぐに私を授かりました。そのせいで私は生まれてから暫くの間、本当に父の子かと疑われていたらしいですよ」

「そんな馬鹿な…」

 父は言葉を失いました。

「いえ、残念ながら本当の事です。側妃とはいえ王家に嫁ぐのです。母は父に嫁ぐ前、教会で検査を受け、純潔である事が証明されていた。ですがある夜会で偶々ジャックの父と出会でくわした。夜会です。勿論そこには沢山の人が居たし、何より母には護衛もついていました。2人は言葉を交わす事さえ無かったそうですよ。ですがそれにも関わらず、王妃と叔母が騒ぎ出しましてね。2人が密会していた…と大騒ぎしたそうですよ。すると、母が純潔であった事を誰よりも知っているはずの父までもが、2人の話しに乗って母を疑い始めました。だが、幸運な事に私の容姿は父に似ていた。それも歳を追う毎にね。それで疑いは晴れました。ですがね。この時の母の悔しさが分かりますか? 愛する人と引き離され、挙句不貞を疑われた。何処かで聞いた話しではありませんか?」

 殿下はそう言って私を真っ直ぐな瞳で見つめました。

「そうですよ。貴方と同じです。私には貴方と母が重なって見えた」

 そうか…。だから殿下は私に構い始めたんだ。漸く合点がいきました。

 そして我が家に通ううちに、父の考えに気付いた…。

 そう言う事なのでしょう。

「それでも母は言いましたよ。王妃様が自分を疎む気持ちは分かると。確かに、彼女は母の懐妊によってその立場を失った。不妊の原因が彼女だったと証明された様なものですからね。同じ女として同情すべき余地はあるとね。だが叔母は違う。叔母が母を虐げ私を偽物だと言った理由は只の野心だ」

「……野心…」

 そう殿下の言葉を繰り返して気付きました。

 そうか…。殿下の誕生を誰よりも望んでいなかったのは、元義母であるミランダだと言う事に…。

 私は父を見上げました。父も私を見て頷きました。

 この国では悲しいかな、男子にしか王位継承権は与えられていません。

 ですが継承権と言う名の血統は残ります。

 もし殿下がその時、出自を疑われ廃嫡されていたら、今頃王太子はミランダの産んだ子である、シグナスだったのです。

 私は考えただけでぞっとして背中に汗が流れました。

 そう言えば以前ニコラスが教えてくれました。ミランダの夫、前侯爵ガストル様は堅実な方だったと。

『ロザリア様、侯爵家は大奥様が嫁いで来られるまでは、こんな借金だらけの家ではなかったのですよ。大奥様の散財が侯爵家の身代を傾けていきました。大旦那様は分かっていながら元王女である彼女を止める事が出来なかったのです。挙句、金策に明け暮れ、心労のためその寿命を縮められました』

 ニコラスはそう言って悔しそうに唇を噛んだのです。

 当然の事ですが、ガストル様とミランダは政略結婚です。王家の血を引く公爵家を除けば、侯爵位は臣下として最上位の家柄。そこに偶々、ミランダと年齢の合うガストル様がいた。ただそれだけで王家からのゴリ押しとも言う形で結ばれた縁でした。

「私と母が叔母を嫌うのは間違っていますか? 身内より伯爵を選ぶ私は薄情者ですかね?」

 殿下は私達にそう問いかけました。

「復讐して何が悪い…」

 私は呟きました。

「えっ?」

 殿下が驚いて聞き返します。

「以前私がジャックに言った言葉です。侯爵邸から帰る途中、ジャックは私に言いました。貴方には白い結婚の証明書がある。裁判などしなくても婚姻自体を無効に出来る。いっ時の復讐心で裁判を起こそうとしているのなら、引き返すのは今だ。そうすれば貴方がこれ以上傷付く事はないと。でも私は今、はっきりと思います。あの時、逃げずに裁判と言う選択をして良かった…。戦うと決めて良かったと…」

 私はそう言って胸を張りました。

 そのお陰で彼らを合法的に追い詰める事が出来るのです。

 こうしてまた次の日、新聞の1面を私の離婚裁判の記事が独占しました。

『王太子殿下、伯爵家へ来訪。その目的は如何に』と…。

 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。

まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」 お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。 ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!? ☆★ 全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...