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3 賭けに出た
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私は今日、最後の賭けに出ることに決めた。
彼女達に奪われた全てを取り戻す事に決めたのだ。
私はまず、ラデッシュに罠を仕掛ける事にした。
彼女がこの家に来てから5年。私は既に彼女の性格を知り尽くしていた。
最後の誕生日会である今日、祖父母は私がデビュタントで身につける物一式の他にも、ドレスやアクセサリーなど沢山のプレゼントを用意してくれた。
誕生日会に先立ち、祖父母はそれらを先に私に届ける様に指示してくれたらしい。次々とプレゼントの入った箱が私の部屋に運び込まれていく。
誕生日会で私が新しいドレスを着る事が出来る様にとの二人からの配慮だったが、どうやらラデッシュはそれが羨ましくて仕方がないらしい。
彼女は私が誕生日に祖父母から何を貰ったのかが余程気になるらしく、態々エントランスに出て、プレゼントが私の部屋に運び込まれる様子をずっと見ていた。
彼女のことだ。侯爵家からの遣いが帰ったあと、必ず私の部屋にプレゼントの確認に現れるはず。何故なら彼女の考えでは、私の物は全て彼女の物。去年までの私が祖父母から貰った誕生日プレゼントは、全て祖父母が帰ったあと彼女に奪い取られていたからだ。
私はこれを利用する事にした。
そう……。これが私の賭け。
私は、今日の為にと祖父母が届けてくれたピンク色のドレスを身に着けると、ドレスに合わせて送られた同じピンク色のネックレスを、分かり易くテーブルの上に置いて部屋を出た。
それから私は柱の影に身を潜めながら、ラデッシュが来るのを待った。
案の定、薄い水色のドレスを身に纏ったラデッシュが私の目の前を通り過ぎる。水色は彼女の好き色だった。だから私はドレスの色が彼女と被らない様に、態とピンク色のドレスを祖父にねだったのだ。
ラデッシュが私の部屋の扉を叩く。
当然、今ここにいる私がそれに応える事はない。
彼女はキョロキョロと周りを見回すと、ドアを開け誰もいない私の部屋に入った。そして暫くすると部屋から慌てて出て来た。
私は待ち構えていたかの様に、ラデッシュの前に歩み出る。
「ラデッシュ? こんな所で何をしていたの? この先には私の部屋しかないわよね?」
私はそう言ってラデッシュを睨みつけると、彼女は分かりやすく視線を彷徨わせた。
ラデッシュのその様子を見た私は、彼女の胸元を確認する。
やっぱり。
どうやら私は賭けに勝った様だ。
ラデッシュの胸には、今日私が誕生日会で付けるはずだったあのピンク色のネックレスが揺れていた。彼女の性格から考えて、私が部屋にいなければ、きっとこうするだろうと予測していたのだ。
それを見た私は、態と騒ぎを起こす様に大声で屋敷中に聞こえるように叫んだ。
「そのネックレス! それは今日、私が贈られた物じゃない? 貴方、私の部屋に勝手に入って盗んだのね! 泥棒! 返しなさい!!」
するとラデッシュは私を馬鹿にした様に鼻を鳴らしながら答えた。
「ふん! このネックレスが義姉様のもの? そんな証拠が何処にあるの? 宝石に名前でも書いてあるのかしら? これは私のよ! だいたい、義姉様の言うことがもし事実だったとしても、誰も義姉様の言うことなんて信じたりしないわ! それにこれもどうせ直ぐに私の物になるんだもの。今貰っても何の問題もないわ!」
盗人猛々しいとはこの事だ。彼女はそう言って開き直った。
いやいや、問題は大アリだろう。私は心の中でそう呟いた。
この後、祖父母が来るのだ。流石に私がそのネックレスをつけていなければ、祖父母は怪訝に思うはずだ。
でも、ラデッシュは私の言葉などどこ吹く風。全く動じる様子さえ見られない。それもそのはず、実は彼女がさっき言った言葉は、母メラニアの全くの受け売り。メラニアもまた、いつもそう言って私から母の遺品の宝石を奪い尽くしていった。
本当に母娘揃ってそっくりだ。私は苦笑いを浮かべながら、もう一度大声で叫ぶ。
「それは私のものよ! 泥棒! 返して! 返してよ!!」
私は彼女に掴み掛かりネックレスの紐が切れない様に気を配りながら引っ張った。
「きゃー! 痛い! 痛い! 義姉様、やめて!!」
ラデッシュが大袈裟に騒ぎながら泣き叫ぶ。
彼女は何時もそう。こうやって私を態と陥れるのだ。
案の定、この騒ぎを聞きつけて侍女達が集まって来た。
「お嬢様! 大丈夫ですか? なんて酷い事を!!」
私達の様子を見た侍女達が直ぐにラデッシュに駆け寄り、私を彼女から無理やり引き剥がすとこちらを睨みつけた。
「お嬢様? 貴方達、メラニアの連れ子がお嬢様なの? その子は父とは血の繋がりなんて全くない赤の他人、この家の居候なのよ!」
使用人達からの視線を受けた私は、反対に咎めるように彼女達にそう言い放った。
私のこの言葉を聞いた侍女達が戸惑いを見せる。
そこにやっと父とメラニアが現れた。
そのメラニアの姿を一目見てまた怒りがわいた。
今日メラニアが身に纏っている紫のドレスに合わせたネックレスとイヤリング。
それは、母の遺品だった。
そのネックレスとイヤリングは生前、母がとても大切にしていた物だった。今日は祖父母も我が家に訪れるのだ。彼女が亡くなった母が私に残してくれたはずの物を身につけている事に対し、祖父母がどんな感情を抱くのか……。
父はもうそんな事にさえ気付かないのか……?
それとも父は、それが母の物だった事にさえ最早気付いてもいないのか……?
どちらにせよ、私にとって許せる事ではなかった……。
彼女達に奪われた全てを取り戻す事に決めたのだ。
私はまず、ラデッシュに罠を仕掛ける事にした。
彼女がこの家に来てから5年。私は既に彼女の性格を知り尽くしていた。
最後の誕生日会である今日、祖父母は私がデビュタントで身につける物一式の他にも、ドレスやアクセサリーなど沢山のプレゼントを用意してくれた。
誕生日会に先立ち、祖父母はそれらを先に私に届ける様に指示してくれたらしい。次々とプレゼントの入った箱が私の部屋に運び込まれていく。
誕生日会で私が新しいドレスを着る事が出来る様にとの二人からの配慮だったが、どうやらラデッシュはそれが羨ましくて仕方がないらしい。
彼女は私が誕生日に祖父母から何を貰ったのかが余程気になるらしく、態々エントランスに出て、プレゼントが私の部屋に運び込まれる様子をずっと見ていた。
彼女のことだ。侯爵家からの遣いが帰ったあと、必ず私の部屋にプレゼントの確認に現れるはず。何故なら彼女の考えでは、私の物は全て彼女の物。去年までの私が祖父母から貰った誕生日プレゼントは、全て祖父母が帰ったあと彼女に奪い取られていたからだ。
私はこれを利用する事にした。
そう……。これが私の賭け。
私は、今日の為にと祖父母が届けてくれたピンク色のドレスを身に着けると、ドレスに合わせて送られた同じピンク色のネックレスを、分かり易くテーブルの上に置いて部屋を出た。
それから私は柱の影に身を潜めながら、ラデッシュが来るのを待った。
案の定、薄い水色のドレスを身に纏ったラデッシュが私の目の前を通り過ぎる。水色は彼女の好き色だった。だから私はドレスの色が彼女と被らない様に、態とピンク色のドレスを祖父にねだったのだ。
ラデッシュが私の部屋の扉を叩く。
当然、今ここにいる私がそれに応える事はない。
彼女はキョロキョロと周りを見回すと、ドアを開け誰もいない私の部屋に入った。そして暫くすると部屋から慌てて出て来た。
私は待ち構えていたかの様に、ラデッシュの前に歩み出る。
「ラデッシュ? こんな所で何をしていたの? この先には私の部屋しかないわよね?」
私はそう言ってラデッシュを睨みつけると、彼女は分かりやすく視線を彷徨わせた。
ラデッシュのその様子を見た私は、彼女の胸元を確認する。
やっぱり。
どうやら私は賭けに勝った様だ。
ラデッシュの胸には、今日私が誕生日会で付けるはずだったあのピンク色のネックレスが揺れていた。彼女の性格から考えて、私が部屋にいなければ、きっとこうするだろうと予測していたのだ。
それを見た私は、態と騒ぎを起こす様に大声で屋敷中に聞こえるように叫んだ。
「そのネックレス! それは今日、私が贈られた物じゃない? 貴方、私の部屋に勝手に入って盗んだのね! 泥棒! 返しなさい!!」
するとラデッシュは私を馬鹿にした様に鼻を鳴らしながら答えた。
「ふん! このネックレスが義姉様のもの? そんな証拠が何処にあるの? 宝石に名前でも書いてあるのかしら? これは私のよ! だいたい、義姉様の言うことがもし事実だったとしても、誰も義姉様の言うことなんて信じたりしないわ! それにこれもどうせ直ぐに私の物になるんだもの。今貰っても何の問題もないわ!」
盗人猛々しいとはこの事だ。彼女はそう言って開き直った。
いやいや、問題は大アリだろう。私は心の中でそう呟いた。
この後、祖父母が来るのだ。流石に私がそのネックレスをつけていなければ、祖父母は怪訝に思うはずだ。
でも、ラデッシュは私の言葉などどこ吹く風。全く動じる様子さえ見られない。それもそのはず、実は彼女がさっき言った言葉は、母メラニアの全くの受け売り。メラニアもまた、いつもそう言って私から母の遺品の宝石を奪い尽くしていった。
本当に母娘揃ってそっくりだ。私は苦笑いを浮かべながら、もう一度大声で叫ぶ。
「それは私のものよ! 泥棒! 返して! 返してよ!!」
私は彼女に掴み掛かりネックレスの紐が切れない様に気を配りながら引っ張った。
「きゃー! 痛い! 痛い! 義姉様、やめて!!」
ラデッシュが大袈裟に騒ぎながら泣き叫ぶ。
彼女は何時もそう。こうやって私を態と陥れるのだ。
案の定、この騒ぎを聞きつけて侍女達が集まって来た。
「お嬢様! 大丈夫ですか? なんて酷い事を!!」
私達の様子を見た侍女達が直ぐにラデッシュに駆け寄り、私を彼女から無理やり引き剥がすとこちらを睨みつけた。
「お嬢様? 貴方達、メラニアの連れ子がお嬢様なの? その子は父とは血の繋がりなんて全くない赤の他人、この家の居候なのよ!」
使用人達からの視線を受けた私は、反対に咎めるように彼女達にそう言い放った。
私のこの言葉を聞いた侍女達が戸惑いを見せる。
そこにやっと父とメラニアが現れた。
そのメラニアの姿を一目見てまた怒りがわいた。
今日メラニアが身に纏っている紫のドレスに合わせたネックレスとイヤリング。
それは、母の遺品だった。
そのネックレスとイヤリングは生前、母がとても大切にしていた物だった。今日は祖父母も我が家に訪れるのだ。彼女が亡くなった母が私に残してくれたはずの物を身につけている事に対し、祖父母がどんな感情を抱くのか……。
父はもうそんな事にさえ気付かないのか……?
それとも父は、それが母の物だった事にさえ最早気付いてもいないのか……?
どちらにせよ、私にとって許せる事ではなかった……。
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