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8 貴方が許さなくても構わない
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「アイリス、じゃあ……」
セフィール殿下が私の目を見て問い掛けた。
「ええ、漸く決心がつきました。私はお祖父様の養女になって、今日限りでこの屋敷を出て行きます」
そう……。既に私の置かれている現状に気付いていた祖父母は、私に自分達の養女にならないかと誘ってくれていた。
でも、私はずっと迷っていた。
母がまだ元気だった頃、私達家族は本当に幸せだった。そして母が亡くなってからの3年、私と父は二人で寄り添う様に生きてきた。
私にはその頃の記憶がずっと忘れられなかったのだ。
今はこんな風でも、いつか必ず父は目を覚ましてくれる……以前の優しかった父に戻ってくれる……今日はダメでも明日は……。明日はダメでも明後日は……。私はそう信じて待ち続けていた。
でも結局父が昔の父に戻ってくれる事はなかった。
だから成人を迎えた今日、最後にもう一度だけ、私は父を試す事にしたのだ。
でも、私の願いは断ち切れた。
私はもうとっくに父から切り捨てられていた。
今日父がとった言動は、私がそれを思い知るのには充分だった。
父は私のあげた最後のチャンスを掴まなかったのだ。
「そうか……。漸く決心がついたんだな。だったら善は急げだ。侯爵家に行って早速手続きを終えよう。今ならまだ、侯爵夫妻は屋敷を出ていないだろう」
セフィール殿下はそう言って笑顔を見せた。
「は? この子が侯爵家の養女になる!?冗談じゃないわ! そんなこと認められる訳がないじゃない!」
流石に文官採用試験に受かっただけはある。メラニアは私が屋敷を出て行く意味をちゃんと分かっていたようだ。
私と殿下の話を聞いていたメラニアが、眉間に皺を寄せながら心底忌々しそうに叫んだ。
「そうだ! アイリスは私の娘だ! そんな勝手な真似は絶対にさせん! 私は絶対に認めんからな!」
メラニアに続いて父も声を上げる。
今更、私の娘?
父のその言葉を聞いて失笑した。
父とメラニアが私を手放したくない理由なんて分かっている。母の亡き今、母の唯一の娘である私がこの家からいなくなれば、ゾールマン伯爵家は侯爵家との縁を失ってしまう。もしそうなれば、父は侯爵家と言う巨大な後ろ盾を失ってしまうのだ。
でもだからと言って父はまだ、この状況で私をこの家に縛りつけるつもりなのか……。
そう考えて気付く。
そうか……。この人は私の幸せなんて少しも考えてはいないのだと……。
私は拳を握り締めた。
「いつも私の事なんて知らないふり。私は何度も自分の置かれた現状を貴方に訴えようとした。でも貴方は私が何を言っても聞いてはくれなかった。疲れているんだ。手間をかけさせるな。後にしてくれ。貴方は私が何か言おうとするたび、何時もそう言って私を退けた。これでやっと貴方を煩わせる邪魔な存在がいなくなるのです。良かったではありませんか? 貴方にとってはいっそ清々するでしょう!?」
あまりにも腹が立って、私は父にありったけの嫌味を込めてそう叫んだ。
こうでも言わなければ、私の気が収まらなかった。
でも私の最後の叫びも父には届かなかった。
「煩い! つべこべ言うなと何時も言っているだろう!? 兎に角、許さんと言ったら許さん!!」
父はまた、まるでセフィール殿下が見えていないかのように、顔を真っ赤に染めながら大声で私を怒鳴りつけたのだ。
でも……。
「もう貴方に許して頂かなくても構いませんよ」
父の言葉を遮るように、私は静かに告げた。
「……お前……」
やっと気付いたのか、父が戸惑いながら私を見つめる。私はもう父をお父様ではなく貴方と呼んでいた。
私の言葉がやっと届いたのか、父の目が虚ろに揺れる。
これが本当の最後だ。
私は父に微笑んだ。
「お忘れですか? 私は今日、成人を迎えたのです。もう誰の許可も要りません。これからは誰に干渉されることもなく、自分の生き方は自分で決める事が出来るのです。ですから私はこれからの人生を、貴方ではなく、私を心から愛してくれている祖父母と共に生きることに決めました。ただそれだけのことです。私の人生に、もう貴方は必要ありません!!」
「………っ!」
漸く私の言葉の意味に気付いた父は、私を見て息を飲んだ。
セフィール殿下が私の目を見て問い掛けた。
「ええ、漸く決心がつきました。私はお祖父様の養女になって、今日限りでこの屋敷を出て行きます」
そう……。既に私の置かれている現状に気付いていた祖父母は、私に自分達の養女にならないかと誘ってくれていた。
でも、私はずっと迷っていた。
母がまだ元気だった頃、私達家族は本当に幸せだった。そして母が亡くなってからの3年、私と父は二人で寄り添う様に生きてきた。
私にはその頃の記憶がずっと忘れられなかったのだ。
今はこんな風でも、いつか必ず父は目を覚ましてくれる……以前の優しかった父に戻ってくれる……今日はダメでも明日は……。明日はダメでも明後日は……。私はそう信じて待ち続けていた。
でも結局父が昔の父に戻ってくれる事はなかった。
だから成人を迎えた今日、最後にもう一度だけ、私は父を試す事にしたのだ。
でも、私の願いは断ち切れた。
私はもうとっくに父から切り捨てられていた。
今日父がとった言動は、私がそれを思い知るのには充分だった。
父は私のあげた最後のチャンスを掴まなかったのだ。
「そうか……。漸く決心がついたんだな。だったら善は急げだ。侯爵家に行って早速手続きを終えよう。今ならまだ、侯爵夫妻は屋敷を出ていないだろう」
セフィール殿下はそう言って笑顔を見せた。
「は? この子が侯爵家の養女になる!?冗談じゃないわ! そんなこと認められる訳がないじゃない!」
流石に文官採用試験に受かっただけはある。メラニアは私が屋敷を出て行く意味をちゃんと分かっていたようだ。
私と殿下の話を聞いていたメラニアが、眉間に皺を寄せながら心底忌々しそうに叫んだ。
「そうだ! アイリスは私の娘だ! そんな勝手な真似は絶対にさせん! 私は絶対に認めんからな!」
メラニアに続いて父も声を上げる。
今更、私の娘?
父のその言葉を聞いて失笑した。
父とメラニアが私を手放したくない理由なんて分かっている。母の亡き今、母の唯一の娘である私がこの家からいなくなれば、ゾールマン伯爵家は侯爵家との縁を失ってしまう。もしそうなれば、父は侯爵家と言う巨大な後ろ盾を失ってしまうのだ。
でもだからと言って父はまだ、この状況で私をこの家に縛りつけるつもりなのか……。
そう考えて気付く。
そうか……。この人は私の幸せなんて少しも考えてはいないのだと……。
私は拳を握り締めた。
「いつも私の事なんて知らないふり。私は何度も自分の置かれた現状を貴方に訴えようとした。でも貴方は私が何を言っても聞いてはくれなかった。疲れているんだ。手間をかけさせるな。後にしてくれ。貴方は私が何か言おうとするたび、何時もそう言って私を退けた。これでやっと貴方を煩わせる邪魔な存在がいなくなるのです。良かったではありませんか? 貴方にとってはいっそ清々するでしょう!?」
あまりにも腹が立って、私は父にありったけの嫌味を込めてそう叫んだ。
こうでも言わなければ、私の気が収まらなかった。
でも私の最後の叫びも父には届かなかった。
「煩い! つべこべ言うなと何時も言っているだろう!? 兎に角、許さんと言ったら許さん!!」
父はまた、まるでセフィール殿下が見えていないかのように、顔を真っ赤に染めながら大声で私を怒鳴りつけたのだ。
でも……。
「もう貴方に許して頂かなくても構いませんよ」
父の言葉を遮るように、私は静かに告げた。
「……お前……」
やっと気付いたのか、父が戸惑いながら私を見つめる。私はもう父をお父様ではなく貴方と呼んでいた。
私の言葉がやっと届いたのか、父の目が虚ろに揺れる。
これが本当の最後だ。
私は父に微笑んだ。
「お忘れですか? 私は今日、成人を迎えたのです。もう誰の許可も要りません。これからは誰に干渉されることもなく、自分の生き方は自分で決める事が出来るのです。ですから私はこれからの人生を、貴方ではなく、私を心から愛してくれている祖父母と共に生きることに決めました。ただそれだけのことです。私の人生に、もう貴方は必要ありません!!」
「………っ!」
漸く私の言葉の意味に気付いた父は、私を見て息を飲んだ。
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