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第一章 (仮)
第十七話 廃屋
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「これがリンゼイ家の人々ですか」
旅人は階段脇にかけられた絵をながめていた。
絵は傷んでいるが描かれている人物ははっきりと見てとれる。がっちりと体格がよく目も口も眉も存在感がある農夫のような男、胸元が大きく開いたあわい黄色のドレスを着たブロンドの女性、そしてその女性にそっくりの愛らしい顔立ちの男の子だ。
「ええ、そうですが。リンゼイ家の縁者の方がいらっしゃるなんて初めて聞いたんですけど、今さら何かありましたかね」
旅人につき従うように案内をしていたのはこの村の村長である。気温が低く乾いたこの土地そのもののような印象をもつ小男だ。
「この子がフェリク・リンゼイですか?」
村長の言葉が聞こえなかったかのように旅人は絵を指さす。
「はい。この絵が描かれたのは領主が代わる少し前だったので四歳、いや、五歳だったか。縁者の方でもお会いしたことがないので?」
村長の目が探るように旅人をのぞきこむ。家の中は薄暗く外套のフードをかぶったままの旅人の表情はまったく見えない。
「無事であれば十四、五くらいということですね」
村長は何かをいいかけ、そしてうつむく。
「はぁ、無事であれば、まぁ、そうなりますか」
言外に無事であるわけがないといっているようだ。旅人は胸元から帳面をとり出すとペンで何かをかき始めた。
「ほう。見事なもんですね」
感嘆の声は心からあげたものらしい。旅人の帳面にはフェリク・リンゼイの肖像画が写されていた。最低限の線で特徴をとらえることに特化した絵だ。あっという間に完成する。
絵を描きあげた旅人は帳面をめくり、荒れ果てた屋敷の中を歩きだす。
屋敷はそこまで広くはない。もちろん村内にある民家に比べれば「邸宅」といってもさしつかえないが、質素な暮らしをよしとしていたという元領主の人柄を表すかのように不要な調度品がない。食事のためのテーブルや椅子、食器棚など必要最低限のものだけだ。
食器もほとんどそのままになっている。砂とほこりでくもった食器棚のガラスを指でぬぐうと来客用らしい紅茶のカップが正面に見えた。華美ではないが美しい形のカップだ。
(カップが一脚しかない)
旅人はさらに袖でガラスをぬぐう。食器はほとんど五セットずつそろっていた。
紅茶のカップはテーブルに出しっぱなしになっているわけでも竈が据えられている調理場に置いてあるわけでもない。床に散らばっているのは砂とほこりばかりで割れたカップらしきものもなかった。
なんらかの事情で処分したのか。
一階を見終わった旅人はそのまま階段をのぼろうとする。それを見た村長が慌てた様子でかけよってきた。
「木材が腐ってます。危ないですよ」
片足がのった踏板はギシと嫌な音を立てる。嘘ではないらしい。旅人は踏板にのせた足に力を入れてみる。しなった踏板の中の方でさらに木材がきしむような音がした。板が二重になっている。補強されているのだろうか。
確かに階段は使わない方が無難だ。
「二階は寝室ですか」
「はい。ただもう何年も誰もはいっていないものですから」
「新しい領主がここを使う話はなかったんですか。もしくは村長であるあなたが代表してここを管理するとか」
「いや、そういう話は、なかったですね」
村長の言葉は歯切れが悪く、旅人はそのフードの奥で小さなため息をついた。
「前の領主が治めていたのはこの村だけだはなかったはずですが、他の村はどうなりました?」
村長は何かいいにくいことでもあるのか、つばを飲みこむと首をふる。
「ほ、他の村のことは知りません。それより今さらここを調べてどうするつもりです。何をお知りになりたいので。さっきからどうもおかしいじゃないですか。リンゼイ家の縁者だというのは嘘ではないですか」
やましいことがある人間は饒舌になる。
「嘘をついているのはそちらでしょう」
旅人が一歩、村長の方へ足を踏み出す。
村長の顔色は薄暗い室内でもそれとわかるほどに蒼白になる。
お互いが黙り込む中、小さく遠雷が聞こえはじめる。
「新しい領主のアイザック・デルゴヴァについて教えてください」
「わ、わ、私は、何も。何も知りません」
「知らないわけがないでしょう」
旅人がまた一歩、足を踏み出す。
「デルゴヴァ卿の一族は古くからここを治めているわけではありません。先代からずいぶんとやり方が変わっているようです。あなたたちに何らかの働きかけがなかったとは思えないのですが」
「難しいことを言われても。村長とは名ばかりで学のない農民です」
旅人はうんざりしたようにため息をつく。
「ダリエスター・リンゼイ氏の殺害に関与していますね」
ようやく旅人が口を開いたとき、村長は言葉にならない声をあげその場にうずくまった。
旅人は階段脇にかけられた絵をながめていた。
絵は傷んでいるが描かれている人物ははっきりと見てとれる。がっちりと体格がよく目も口も眉も存在感がある農夫のような男、胸元が大きく開いたあわい黄色のドレスを着たブロンドの女性、そしてその女性にそっくりの愛らしい顔立ちの男の子だ。
「ええ、そうですが。リンゼイ家の縁者の方がいらっしゃるなんて初めて聞いたんですけど、今さら何かありましたかね」
旅人につき従うように案内をしていたのはこの村の村長である。気温が低く乾いたこの土地そのもののような印象をもつ小男だ。
「この子がフェリク・リンゼイですか?」
村長の言葉が聞こえなかったかのように旅人は絵を指さす。
「はい。この絵が描かれたのは領主が代わる少し前だったので四歳、いや、五歳だったか。縁者の方でもお会いしたことがないので?」
村長の目が探るように旅人をのぞきこむ。家の中は薄暗く外套のフードをかぶったままの旅人の表情はまったく見えない。
「無事であれば十四、五くらいということですね」
村長は何かをいいかけ、そしてうつむく。
「はぁ、無事であれば、まぁ、そうなりますか」
言外に無事であるわけがないといっているようだ。旅人は胸元から帳面をとり出すとペンで何かをかき始めた。
「ほう。見事なもんですね」
感嘆の声は心からあげたものらしい。旅人の帳面にはフェリク・リンゼイの肖像画が写されていた。最低限の線で特徴をとらえることに特化した絵だ。あっという間に完成する。
絵を描きあげた旅人は帳面をめくり、荒れ果てた屋敷の中を歩きだす。
屋敷はそこまで広くはない。もちろん村内にある民家に比べれば「邸宅」といってもさしつかえないが、質素な暮らしをよしとしていたという元領主の人柄を表すかのように不要な調度品がない。食事のためのテーブルや椅子、食器棚など必要最低限のものだけだ。
食器もほとんどそのままになっている。砂とほこりでくもった食器棚のガラスを指でぬぐうと来客用らしい紅茶のカップが正面に見えた。華美ではないが美しい形のカップだ。
(カップが一脚しかない)
旅人はさらに袖でガラスをぬぐう。食器はほとんど五セットずつそろっていた。
紅茶のカップはテーブルに出しっぱなしになっているわけでも竈が据えられている調理場に置いてあるわけでもない。床に散らばっているのは砂とほこりばかりで割れたカップらしきものもなかった。
なんらかの事情で処分したのか。
一階を見終わった旅人はそのまま階段をのぼろうとする。それを見た村長が慌てた様子でかけよってきた。
「木材が腐ってます。危ないですよ」
片足がのった踏板はギシと嫌な音を立てる。嘘ではないらしい。旅人は踏板にのせた足に力を入れてみる。しなった踏板の中の方でさらに木材がきしむような音がした。板が二重になっている。補強されているのだろうか。
確かに階段は使わない方が無難だ。
「二階は寝室ですか」
「はい。ただもう何年も誰もはいっていないものですから」
「新しい領主がここを使う話はなかったんですか。もしくは村長であるあなたが代表してここを管理するとか」
「いや、そういう話は、なかったですね」
村長の言葉は歯切れが悪く、旅人はそのフードの奥で小さなため息をついた。
「前の領主が治めていたのはこの村だけだはなかったはずですが、他の村はどうなりました?」
村長は何かいいにくいことでもあるのか、つばを飲みこむと首をふる。
「ほ、他の村のことは知りません。それより今さらここを調べてどうするつもりです。何をお知りになりたいので。さっきからどうもおかしいじゃないですか。リンゼイ家の縁者だというのは嘘ではないですか」
やましいことがある人間は饒舌になる。
「嘘をついているのはそちらでしょう」
旅人が一歩、村長の方へ足を踏み出す。
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お互いが黙り込む中、小さく遠雷が聞こえはじめる。
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「知らないわけがないでしょう」
旅人がまた一歩、足を踏み出す。
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「難しいことを言われても。村長とは名ばかりで学のない農民です」
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ようやく旅人が口を開いたとき、村長は言葉にならない声をあげその場にうずくまった。
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