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第一章 (仮)
第三十七話 襲撃
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「きみがグーデンバルド家の子なんて知らなかったよ。オルティス家は母方か。それであれか、デルゴヴァさんとこの護衛で王子の側近の弟子」
アルマはナイフを宙にさまよわせ、そこに文字でも書かれているかのように一点、一点を指しつつ首をかしげたりうなったりする。
「しかしデルゴヴァさんもあいかわらずの『子供好き』だな」
そういってエリッツとアルヴィンを交互に見やる。アルマのいう「子供好き」はエリッツにとっておなじみの人種のことである。
「どちらのデルゴヴァさんのことですか」
オグデリス氏にきまっているとエリッツは思いこんでいたが、アルヴィンはアイザック氏の護衛である。
「両方だよ、両方。こんな話エリッツたちにはしたくないけど、弟の方はわかりやすい『子供好き』で兄の方は完全なむっつりだな」
するとアルヴィンが久しぶりに肉から目をはなしアルマの方を見る。
「知ってるよ。リークのことが大好きなんだ。でもめちゃくちゃ強いからどうにもできない。この際いっておいてあげるけどエリッツのことは全然好みじゃないと思うよ。もっと野生動物みたいな子供を手なずけるのが好きなんだ」
アルヴィンがあっけらかんと変態趣味的なことをいってくる。そういえばアイザック氏はエリッツとは全然目を合わせようとしなかった。食指が動かなかったというだけの話か。見方を変えればそういう視点でしかエリッツのことをみていなかったということだ。お尻を触られる心配はなさそうだが不愉快な気分だった。
アルマが所在なさそうに二人を見るのでエリッツはリークがアイザック氏の護衛であることを説明した。
「子供を二人も連れてきてるのか。趣味もここまでくると異様だな。で、三人目か」
アルマなにか申し訳なさそうな顔をしてエリッツをチラリと見る。
「子供、子供っていうのやめてくださいよ」
アルヴィンはともかくとしてエリッツとリークは世間的には大人扱いされる歳である。
「アイザック氏は子供ならいいなりになりやすいし寝首をかかれる可能性も少ない――と、思いこんでる。だから身近におくのは子供なんだよ。趣味もかねて」
アルヴィンはときどきいい方に含みがある。これではリークもアルヴィンも何らかのたくらみを抱いてアイザック氏についているようではないか。アルマも同じように感じたらしくまじまじとアルヴィンを見る。
「アルマさん、おかわり」
二人の視線をことさら子供っぽい笑顔で返し、とうの昔に空になった皿をアルマに差し出す。「お、おう」と、反射的にアルマは皿を受けとってしまい、そのままカウンターに肉の追加を頼みにいくはめにおちいる。やはりアルヴィンはただ者ではなさそうだ。
昼食を終えてからはアルヴィンの強い希望で城を見にいくことになった。さらにアルヴィンはローズガーデンの会場になっている薔薇の庭が見たいと駄々をこねたがさすがに一般市民は入れないそうだ。関係者でも今は権限のある限られた者しか入ることは許可されていないらしい。警備上の都合だろう。
城にいくならとエリッツはしっかりと外套のフードで顔を隠した。背中についているうさぎのアップリケが気になったが、このままでも大丈夫だろう。もし仮にシェイルが城にいてエリッツのうさぎを見つけたとしても都合が悪ければ話しかけてこないはずだ。
天気はよくて食後の散歩にはぴったりである。ずっと窮屈な生活をしていたのでエリッツはひさしぶりにのびのびと歩いている気がしていた。ぐんとのびをすると指先に春先の風がそっとからむ。気温は高くなっているが風はまだひやりとしていて心地よい。
イゴルデのあった辺りは同じような食堂や大衆的な店が軒をつられていて人通りも多かったが、やはり城に近づくにつれて店は格式ばった雰囲気を出しはじめ、人通りも減ってくる。
そのとき、のんびりと歩く三人の隣を数人の男たちが騒がしく走りすぎていった。大声で「急げ」とか「こっちだ」とかやりとりをしている。腰には各自得物ををたずさえており物々しい雰囲気だ。
「わかりやすいならず者たちだな」
アルマが大きくため息をついた。
「何ですか、あの人たち」
「これから悪いことをしにいくんだろうな」
確かにいい人たちには見えなかった。
「放っておいていいんですか」
「大丈夫でしょ。すっごい弱そうだったよ。逆に見たいよ」
アルヴィンが一緒に走り出したそうにうずうずとしているので、エリッツはアルヴィンの服をしっかりとつかむ。
アルマは腕を組んでしばし考えると「一応様子を見にいくか」と、やはり急ぐ様子もなく歩き出すのでアルヴィンはもどかしげに足踏みをした。アルマの立場上、悪そうなならず者をみかけながら放っておいたとなると面倒なことになるかもしれないからという程度の「一応」なのだろう。
しかしさして慌てる必要もなくすぐにそのならず者たちに追いついてしまう。
彼らは二台の馬車をとり囲み何かを大声で叫んでいる。一台目の馬車はどうやら要人が乗っているらしくところどころ金色の金具が陽光を照り返し、扉にはきれいな房飾りがついていた。後ろには使用人が乗っているのか乗合馬車のような質素な馬車がついている。馬たちが不安げにいななくのが聞こえた。
「なんだ城じゃないのか」
アルマは面倒くさそうにそうつぶやいた。確かに城を目指していたのであれば警備兵が捕らえて終わりであるが、ここで何か悪いことをするのであれば居合わせた者がどうにかしなければならない。
「襲われてるの、うちの雇い主だよ」
アルヴィンがアルマの袖をひく。
「なんだって。アイザック氏か」
「間違いないよ。あの御者を知ってる」
見ると御者台にいる若い御者は恐怖の表情を浮かべながら興奮しはじめた馬たちをなだめようと必死だ。
「助けないと」
エリッツはアルヴィンの背中をたたく。術者の力が見られるチャンスとエリッツはわくわくしたが「僕、今日はオフだから」と、動こうとしない。
「心配しなくても――あ、ほら、出てきた。リークだよ」
後ろの馬車からリークがぴょんととび出てくる。やはりただの細身の少年で強そうにはみえない。そう感じたのは馬車に群がっている男たちも同様らしく誰一人リークに気をとめる者はいなかった。「出てこい」だの「覚悟しろ」だのといかにも悪人らしい文言で騒ぎつづけている。リークも馬車を降りたものの何をするでもなく男たちの様子をじっとみていた。
「先に手を出したほうが処罰される」
アルマが静かにエリッツに耳打ちをする。完全にただの野次馬である。
ならず者たちはそこまで頭がまわっているとは考えにくいが、リークの方はあきらかにそれを理解している。男たちの手元から目を離さない。
「抜いた」
アルヴィンが妙にうれしそうな声をあげる。
馬車の横手にいた男が怒鳴りながらとうとう剣を抜いたのだ。たいした得物ではない。それは遠目にもわかったが、リークは容赦しなかった。男に体当たりをすると短剣の柄でみぞおちを打つ。動作はシンプルで無駄がない。他の男たちが気づいたのは打たれた男が地面に転がった後のことだった。
それでも男たちは状況を完全に理解するのに時間がかかったようだ。倒れた男とリークを見比べてしばし不思議そうな顔をする。この細身の少年が仲間の大男を地面に転がしたとはにわかに信じられないようだ。
「このガキ」
ようやく状況を理解したらしき男たちが各々得物をかまえてリークにとびかかる。リークの方は慌てることなく十分に相手をひきつけてから確実に短剣の柄で急所を打ち、足払いをくらわせる。ときに動きが早すぎて何をしたのかまったくわからない状況で相手が地面に転がった。見事としかいいようがない。
思わず拍手をしそうになってエリッツは慌てて手をひっこめた。
アルマはナイフを宙にさまよわせ、そこに文字でも書かれているかのように一点、一点を指しつつ首をかしげたりうなったりする。
「しかしデルゴヴァさんもあいかわらずの『子供好き』だな」
そういってエリッツとアルヴィンを交互に見やる。アルマのいう「子供好き」はエリッツにとっておなじみの人種のことである。
「どちらのデルゴヴァさんのことですか」
オグデリス氏にきまっているとエリッツは思いこんでいたが、アルヴィンはアイザック氏の護衛である。
「両方だよ、両方。こんな話エリッツたちにはしたくないけど、弟の方はわかりやすい『子供好き』で兄の方は完全なむっつりだな」
するとアルヴィンが久しぶりに肉から目をはなしアルマの方を見る。
「知ってるよ。リークのことが大好きなんだ。でもめちゃくちゃ強いからどうにもできない。この際いっておいてあげるけどエリッツのことは全然好みじゃないと思うよ。もっと野生動物みたいな子供を手なずけるのが好きなんだ」
アルヴィンがあっけらかんと変態趣味的なことをいってくる。そういえばアイザック氏はエリッツとは全然目を合わせようとしなかった。食指が動かなかったというだけの話か。見方を変えればそういう視点でしかエリッツのことをみていなかったということだ。お尻を触られる心配はなさそうだが不愉快な気分だった。
アルマが所在なさそうに二人を見るのでエリッツはリークがアイザック氏の護衛であることを説明した。
「子供を二人も連れてきてるのか。趣味もここまでくると異様だな。で、三人目か」
アルマなにか申し訳なさそうな顔をしてエリッツをチラリと見る。
「子供、子供っていうのやめてくださいよ」
アルヴィンはともかくとしてエリッツとリークは世間的には大人扱いされる歳である。
「アイザック氏は子供ならいいなりになりやすいし寝首をかかれる可能性も少ない――と、思いこんでる。だから身近におくのは子供なんだよ。趣味もかねて」
アルヴィンはときどきいい方に含みがある。これではリークもアルヴィンも何らかのたくらみを抱いてアイザック氏についているようではないか。アルマも同じように感じたらしくまじまじとアルヴィンを見る。
「アルマさん、おかわり」
二人の視線をことさら子供っぽい笑顔で返し、とうの昔に空になった皿をアルマに差し出す。「お、おう」と、反射的にアルマは皿を受けとってしまい、そのままカウンターに肉の追加を頼みにいくはめにおちいる。やはりアルヴィンはただ者ではなさそうだ。
昼食を終えてからはアルヴィンの強い希望で城を見にいくことになった。さらにアルヴィンはローズガーデンの会場になっている薔薇の庭が見たいと駄々をこねたがさすがに一般市民は入れないそうだ。関係者でも今は権限のある限られた者しか入ることは許可されていないらしい。警備上の都合だろう。
城にいくならとエリッツはしっかりと外套のフードで顔を隠した。背中についているうさぎのアップリケが気になったが、このままでも大丈夫だろう。もし仮にシェイルが城にいてエリッツのうさぎを見つけたとしても都合が悪ければ話しかけてこないはずだ。
天気はよくて食後の散歩にはぴったりである。ずっと窮屈な生活をしていたのでエリッツはひさしぶりにのびのびと歩いている気がしていた。ぐんとのびをすると指先に春先の風がそっとからむ。気温は高くなっているが風はまだひやりとしていて心地よい。
イゴルデのあった辺りは同じような食堂や大衆的な店が軒をつられていて人通りも多かったが、やはり城に近づくにつれて店は格式ばった雰囲気を出しはじめ、人通りも減ってくる。
そのとき、のんびりと歩く三人の隣を数人の男たちが騒がしく走りすぎていった。大声で「急げ」とか「こっちだ」とかやりとりをしている。腰には各自得物ををたずさえており物々しい雰囲気だ。
「わかりやすいならず者たちだな」
アルマが大きくため息をついた。
「何ですか、あの人たち」
「これから悪いことをしにいくんだろうな」
確かにいい人たちには見えなかった。
「放っておいていいんですか」
「大丈夫でしょ。すっごい弱そうだったよ。逆に見たいよ」
アルヴィンが一緒に走り出したそうにうずうずとしているので、エリッツはアルヴィンの服をしっかりとつかむ。
アルマは腕を組んでしばし考えると「一応様子を見にいくか」と、やはり急ぐ様子もなく歩き出すのでアルヴィンはもどかしげに足踏みをした。アルマの立場上、悪そうなならず者をみかけながら放っておいたとなると面倒なことになるかもしれないからという程度の「一応」なのだろう。
しかしさして慌てる必要もなくすぐにそのならず者たちに追いついてしまう。
彼らは二台の馬車をとり囲み何かを大声で叫んでいる。一台目の馬車はどうやら要人が乗っているらしくところどころ金色の金具が陽光を照り返し、扉にはきれいな房飾りがついていた。後ろには使用人が乗っているのか乗合馬車のような質素な馬車がついている。馬たちが不安げにいななくのが聞こえた。
「なんだ城じゃないのか」
アルマは面倒くさそうにそうつぶやいた。確かに城を目指していたのであれば警備兵が捕らえて終わりであるが、ここで何か悪いことをするのであれば居合わせた者がどうにかしなければならない。
「襲われてるの、うちの雇い主だよ」
アルヴィンがアルマの袖をひく。
「なんだって。アイザック氏か」
「間違いないよ。あの御者を知ってる」
見ると御者台にいる若い御者は恐怖の表情を浮かべながら興奮しはじめた馬たちをなだめようと必死だ。
「助けないと」
エリッツはアルヴィンの背中をたたく。術者の力が見られるチャンスとエリッツはわくわくしたが「僕、今日はオフだから」と、動こうとしない。
「心配しなくても――あ、ほら、出てきた。リークだよ」
後ろの馬車からリークがぴょんととび出てくる。やはりただの細身の少年で強そうにはみえない。そう感じたのは馬車に群がっている男たちも同様らしく誰一人リークに気をとめる者はいなかった。「出てこい」だの「覚悟しろ」だのといかにも悪人らしい文言で騒ぎつづけている。リークも馬車を降りたものの何をするでもなく男たちの様子をじっとみていた。
「先に手を出したほうが処罰される」
アルマが静かにエリッツに耳打ちをする。完全にただの野次馬である。
ならず者たちはそこまで頭がまわっているとは考えにくいが、リークの方はあきらかにそれを理解している。男たちの手元から目を離さない。
「抜いた」
アルヴィンが妙にうれしそうな声をあげる。
馬車の横手にいた男が怒鳴りながらとうとう剣を抜いたのだ。たいした得物ではない。それは遠目にもわかったが、リークは容赦しなかった。男に体当たりをすると短剣の柄でみぞおちを打つ。動作はシンプルで無駄がない。他の男たちが気づいたのは打たれた男が地面に転がった後のことだった。
それでも男たちは状況を完全に理解するのに時間がかかったようだ。倒れた男とリークを見比べてしばし不思議そうな顔をする。この細身の少年が仲間の大男を地面に転がしたとはにわかに信じられないようだ。
「このガキ」
ようやく状況を理解したらしき男たちが各々得物をかまえてリークにとびかかる。リークの方は慌てることなく十分に相手をひきつけてから確実に短剣の柄で急所を打ち、足払いをくらわせる。ときに動きが早すぎて何をしたのかまったくわからない状況で相手が地面に転がった。見事としかいいようがない。
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