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第一章 (仮)
第三十九話 公園
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「どこからその自信がくるの」
嫌味のつもりはなくエリッツは心底そう思った。これくらい自信をもてたら成功するかどうかはともかくとして何だってできるだろう。その自信が少しうらやましい。
「いっとくけど警備を正面突破するつもりなんてないからね」
そういうと一瞬大きく笑顔を作ってからさっとエリッツの脇をすりぬけるようにして走りだす。
「あ、ちょっと」
油断した。
「アルマさーん、先にお城の方にいってるよー」
アルヴィンは走りながら大きく手をふる。お城が見たくてしかたないという子供の笑顔だ。誰が北の王の居場所に潜入しようとたくらんでいると考えるだろうか。あの顔で周りを油断させてきたんだな。エリッツはアルヴィンのあざとさに今さら気づく。
「おう。悪いな。またなー」
アルマもまた笑顔で手をふりかえす。簡単にだまされてと、エリッツはため息をついたが人のことはいえない。
数人の役人たちが突然走りだした少年にいぶかしげな視線を送るが、アルマが「あの子はいいんだ」と、とりなしている。
一瞬躊躇したがエリッツもアルヴィンを追って走りだす。
「転ぶなよ」
アルマはやはり鷹揚な笑顔で送りだしてくれる。やはりすごい能力をもった軍人には見えない。体格もいいし強そうではあるけれど、術士だときいても大きな犬のようなイメージは変わらなかった。
エリッツは石畳に足をとられながらもなんとかアルヴィンに追いつく。
「で、どうするつもりなの」
追ってくるのがわかっていたのか、エリッツが並走するまでの間アルヴィンはスピードを落としてくれる。
「なにが」
ようやく隣について走るエリッツにチラリと視線をむけた。
「だからどうやって正面突破せずに北の王のところへいくの」
「まあ、それはこれから考える。門の様子を見てからね。うまくいくはずだよ。僕、いつもすごく運がいいんだ」
エリッツは思わず足がとまりそうになった。そんなことでどうしてあんなに自信満々でいられるのか。運がいい?
絶句するエリッツに気づいているのかいないのか、アルヴィンは「正門はダメそうだったからこっちいってみよう」と、元気よく方向転換をする。確かに正門はダメそうだった。しかしだからこっちという根拠はどこからくるのか。またも首をかしげたくなる。高い塀を確認しながら城の敷地ぞいに移動すればどこかに別の門はあるのだろう。アルマのいい方もそういう感じだった。
塀ぞいにはときおり警邏の兵がいたが誰もエリッツたちが駆けていくのを見とがめなかった。
「あ、ほら、あそこ、あそこ」
アルヴィンがはしゃいだ声をあげた。エリッツも思わず「わぁ、すごい」と叫んでいた。
塀はなだらかに低くなり、薔薇のつるがびっしりとはわせてある。薄いピンク色の野性的な形の薔薇が塀をいろどっていた。城の敷地と大通りが一体化し、公園の入り口になっている。
「なにこれ、どういうこと」
アルヴィンは公園にむかってスピードをあげながらときおり小さくジャンプする。エリッツも気持ちが踊りだしそうになるのをおさえきれない。
きれいな公園だった。
付近には花壇がつくられ薔薇をはじめとした花々が咲き乱れている。入口は開放的で誰でも入れるようだ。昼過ぎとあって散歩にきていると思われる人々が自由に出入りしている。先日の大通りほどではないが、屋台のようなものもあった。
公園の入口には大きな柱が二本たっており上には翼のはえた馬が後ろ足で立っている像がある。その足元まで薔薇がはわせてあり玉のような白い薔薇がびっしりと咲きほこっていた。
エリッツの実家や兄の家の庭も広い方だったがスケールが全然違う。人が大勢出入りすることが想定されているため、いたるところに座れる場所があり、彫刻などの美術品も惜しげなく飾られていた。
やはり兵士が立ってはいるが正門にくらべれば驚くほど親しみやすい場所だ。
「広いな」
アルヴィンは子犬のようにやわらかい草の上を走りまわっている。豆粒のように小さく見えるところまで駆けてゆき、また戻ってくることを繰り返している。ここまで走ってきたのにまだ走るのかと、エリッツはあきれながら近くの大理石でできた腰かけに座って辺りを見わたす。
きっと名のある庭師が毎日手を入れているのだろう。あえてあまり整いすぎないようにデザインしているようだ。なんだか森の中にいるような安心感がある。一般的な庭園はシンメトリーにきっちりとデザインされ樹木も乱れなく刈りこまれているものだがここは違う。自然な形の樹木がのびのびと枝を伸ばし、蔦や薔薇のつるが柱や塀を覆いつくしているところもあるがそのつるが描く自然な模様がまた美しい。そういえば同じような印象の庭をさっきも見たような気がする。
「ああ、疲れた」
何が楽しいのか草のうえをごろごろと転がっていたアルヴィンが息を切らしながらエリッツの隣に腰かけた。
「気がすんだ?」
「まだ! あっちも見たい」
公園の奥は森のような茂みがつくってある。さらにその奥にどうやらまた門があるようだった。高い鉄柵のようなものの一部が見える。そこまでどのくらいの距離があるのか目算ではよくわからない。この広大な公園をアルヴィンが満足するまでつきあっていては夕食の時間に間に合わないだろう。
アルヴィンは目的を忘れているのかと思うくらいに公園で遊ぶことに夢中になっていた。エリッツはアルヴィンがなにかしでかすのではないかと心配でついてきただけだ。本当に北の王に会えるなら会ってみたかったが、無茶をするほどではない。遠くに見える鉄柵の上部は空を突きさす槍のようにそびえたっている。
「どうして北の王に会いたいの」
このまま帰ることになるのかもしれない予感を胸にエリッツは問いかけた。
アルヴィンはめずらしく少し黙る。
「僕、エリッツに嘘をついていたよ」
「嘘?」
「いや、嘘じゃないな。黙っていたことがある」
なんだかどっちつかずのようで頭を大きくかしげてはうなっている。
「僕は確かにこの間コルトニエスから来たんだけど、わりと最近までレジスに住んでた」
そういわれてもすぐにエリッツはピンとこない。
「きみと一緒だよ。レジスの街中にいたわけじゃなくて、スサリオ山の麓の森にあるロイの難民たちが暮らす保護区に住んでいたんだ。でも街に出てきたのは北の王に会ったときと今回の二回だけ。これは本当」
そういわれてもまだピンとこない。つまりご近所さんだったということか。エリッツは何度もまばたきをしてから、首をかしげた。
「あれ? おれのこと知ってた?」
「知らないよ。スサリオ山の麓の森は広いんだ。それにエリッツがそこに来たのはつい最近だよね。たぶんその頃僕はコルトニエスにいた」
エリッツはまたまばたきをする。
「なるほど。すれ違っていたんだね。それで――」
それがなんだというのか、話が見えない。
「僕は今レジスの軍にゆるーく指名手配されてる。軍に入る直前にコルトニエスに逃げだしたからね」
アルヴィンはおどけて両手をあげる。
「へ?」
「ゆるーくだよ。僕、子供だもの。ほら、アルマさんも兵士たちも役人たちすら気づかない。顔をおぼえられているわけでもないし。ゆるーい手配なんだよ。でも街中で術士と気づかれたら危ないかな」
まるで弁解するようにアルヴィンはいいつのる。かなり遅れてエリッツは事態を理解した。
「ええー!」
「声が大きいよ、エリッツ」
アルヴィンはやれやれと肩をすくめる。
「話はここから」
指名手配はおまけだったような口ぶりでアルヴィンは人差し指をエリッツにむける。
エリッツは軽くめまいを感じた。指名手配されている術士が城の敷地内に今いるのだ。アルヴィンのいうとおりそんなに本格的に手配されている様子ではないが、それにしたって大胆すぎる。エリッツは思わず両手で耳をおおった。これ以上聞いたらまずい。
「エリッツ、聞いてる?」
アルヴィンはおもしろがってエリッツの両手をぐいぐいひっぱる。
「大人は信用できないんだよ」
「おれは大人だよ」
「なんだよ、ごはんもよそえないくせに」
「やろうと思えばできるよ」
「全部聞こえてるんじゃないか」
耳をふさいだところで音がくぐもるくらいで近くにいるアルヴィンの声は聞こえてしまう。
「話しちゃうよ」
「やめてよ」
嫌味のつもりはなくエリッツは心底そう思った。これくらい自信をもてたら成功するかどうかはともかくとして何だってできるだろう。その自信が少しうらやましい。
「いっとくけど警備を正面突破するつもりなんてないからね」
そういうと一瞬大きく笑顔を作ってからさっとエリッツの脇をすりぬけるようにして走りだす。
「あ、ちょっと」
油断した。
「アルマさーん、先にお城の方にいってるよー」
アルヴィンは走りながら大きく手をふる。お城が見たくてしかたないという子供の笑顔だ。誰が北の王の居場所に潜入しようとたくらんでいると考えるだろうか。あの顔で周りを油断させてきたんだな。エリッツはアルヴィンのあざとさに今さら気づく。
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数人の役人たちが突然走りだした少年にいぶかしげな視線を送るが、アルマが「あの子はいいんだ」と、とりなしている。
一瞬躊躇したがエリッツもアルヴィンを追って走りだす。
「転ぶなよ」
アルマはやはり鷹揚な笑顔で送りだしてくれる。やはりすごい能力をもった軍人には見えない。体格もいいし強そうではあるけれど、術士だときいても大きな犬のようなイメージは変わらなかった。
エリッツは石畳に足をとられながらもなんとかアルヴィンに追いつく。
「で、どうするつもりなの」
追ってくるのがわかっていたのか、エリッツが並走するまでの間アルヴィンはスピードを落としてくれる。
「なにが」
ようやく隣について走るエリッツにチラリと視線をむけた。
「だからどうやって正面突破せずに北の王のところへいくの」
「まあ、それはこれから考える。門の様子を見てからね。うまくいくはずだよ。僕、いつもすごく運がいいんだ」
エリッツは思わず足がとまりそうになった。そんなことでどうしてあんなに自信満々でいられるのか。運がいい?
絶句するエリッツに気づいているのかいないのか、アルヴィンは「正門はダメそうだったからこっちいってみよう」と、元気よく方向転換をする。確かに正門はダメそうだった。しかしだからこっちという根拠はどこからくるのか。またも首をかしげたくなる。高い塀を確認しながら城の敷地ぞいに移動すればどこかに別の門はあるのだろう。アルマのいい方もそういう感じだった。
塀ぞいにはときおり警邏の兵がいたが誰もエリッツたちが駆けていくのを見とがめなかった。
「あ、ほら、あそこ、あそこ」
アルヴィンがはしゃいだ声をあげた。エリッツも思わず「わぁ、すごい」と叫んでいた。
塀はなだらかに低くなり、薔薇のつるがびっしりとはわせてある。薄いピンク色の野性的な形の薔薇が塀をいろどっていた。城の敷地と大通りが一体化し、公園の入り口になっている。
「なにこれ、どういうこと」
アルヴィンは公園にむかってスピードをあげながらときおり小さくジャンプする。エリッツも気持ちが踊りだしそうになるのをおさえきれない。
きれいな公園だった。
付近には花壇がつくられ薔薇をはじめとした花々が咲き乱れている。入口は開放的で誰でも入れるようだ。昼過ぎとあって散歩にきていると思われる人々が自由に出入りしている。先日の大通りほどではないが、屋台のようなものもあった。
公園の入口には大きな柱が二本たっており上には翼のはえた馬が後ろ足で立っている像がある。その足元まで薔薇がはわせてあり玉のような白い薔薇がびっしりと咲きほこっていた。
エリッツの実家や兄の家の庭も広い方だったがスケールが全然違う。人が大勢出入りすることが想定されているため、いたるところに座れる場所があり、彫刻などの美術品も惜しげなく飾られていた。
やはり兵士が立ってはいるが正門にくらべれば驚くほど親しみやすい場所だ。
「広いな」
アルヴィンは子犬のようにやわらかい草の上を走りまわっている。豆粒のように小さく見えるところまで駆けてゆき、また戻ってくることを繰り返している。ここまで走ってきたのにまだ走るのかと、エリッツはあきれながら近くの大理石でできた腰かけに座って辺りを見わたす。
きっと名のある庭師が毎日手を入れているのだろう。あえてあまり整いすぎないようにデザインしているようだ。なんだか森の中にいるような安心感がある。一般的な庭園はシンメトリーにきっちりとデザインされ樹木も乱れなく刈りこまれているものだがここは違う。自然な形の樹木がのびのびと枝を伸ばし、蔦や薔薇のつるが柱や塀を覆いつくしているところもあるがそのつるが描く自然な模様がまた美しい。そういえば同じような印象の庭をさっきも見たような気がする。
「ああ、疲れた」
何が楽しいのか草のうえをごろごろと転がっていたアルヴィンが息を切らしながらエリッツの隣に腰かけた。
「気がすんだ?」
「まだ! あっちも見たい」
公園の奥は森のような茂みがつくってある。さらにその奥にどうやらまた門があるようだった。高い鉄柵のようなものの一部が見える。そこまでどのくらいの距離があるのか目算ではよくわからない。この広大な公園をアルヴィンが満足するまでつきあっていては夕食の時間に間に合わないだろう。
アルヴィンは目的を忘れているのかと思うくらいに公園で遊ぶことに夢中になっていた。エリッツはアルヴィンがなにかしでかすのではないかと心配でついてきただけだ。本当に北の王に会えるなら会ってみたかったが、無茶をするほどではない。遠くに見える鉄柵の上部は空を突きさす槍のようにそびえたっている。
「どうして北の王に会いたいの」
このまま帰ることになるのかもしれない予感を胸にエリッツは問いかけた。
アルヴィンはめずらしく少し黙る。
「僕、エリッツに嘘をついていたよ」
「嘘?」
「いや、嘘じゃないな。黙っていたことがある」
なんだかどっちつかずのようで頭を大きくかしげてはうなっている。
「僕は確かにこの間コルトニエスから来たんだけど、わりと最近までレジスに住んでた」
そういわれてもすぐにエリッツはピンとこない。
「きみと一緒だよ。レジスの街中にいたわけじゃなくて、スサリオ山の麓の森にあるロイの難民たちが暮らす保護区に住んでいたんだ。でも街に出てきたのは北の王に会ったときと今回の二回だけ。これは本当」
そういわれてもまだピンとこない。つまりご近所さんだったということか。エリッツは何度もまばたきをしてから、首をかしげた。
「あれ? おれのこと知ってた?」
「知らないよ。スサリオ山の麓の森は広いんだ。それにエリッツがそこに来たのはつい最近だよね。たぶんその頃僕はコルトニエスにいた」
エリッツはまたまばたきをする。
「なるほど。すれ違っていたんだね。それで――」
それがなんだというのか、話が見えない。
「僕は今レジスの軍にゆるーく指名手配されてる。軍に入る直前にコルトニエスに逃げだしたからね」
アルヴィンはおどけて両手をあげる。
「へ?」
「ゆるーくだよ。僕、子供だもの。ほら、アルマさんも兵士たちも役人たちすら気づかない。顔をおぼえられているわけでもないし。ゆるーい手配なんだよ。でも街中で術士と気づかれたら危ないかな」
まるで弁解するようにアルヴィンはいいつのる。かなり遅れてエリッツは事態を理解した。
「ええー!」
「声が大きいよ、エリッツ」
アルヴィンはやれやれと肩をすくめる。
「話はここから」
指名手配はおまけだったような口ぶりでアルヴィンは人差し指をエリッツにむける。
エリッツは軽くめまいを感じた。指名手配されている術士が城の敷地内に今いるのだ。アルヴィンのいうとおりそんなに本格的に手配されている様子ではないが、それにしたって大胆すぎる。エリッツは思わず両手で耳をおおった。これ以上聞いたらまずい。
「エリッツ、聞いてる?」
アルヴィンはおもしろがってエリッツの両手をぐいぐいひっぱる。
「大人は信用できないんだよ」
「おれは大人だよ」
「なんだよ、ごはんもよそえないくせに」
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