亡国の草笛

うらたきよひこ

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第一章 (仮)

第四十三話 昔話

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「太陽神の司祭のふりなんかしてつかまらなかったんですか」
「大丈夫だよ。外国だったからね。みんな全然気づかなかったよ」
 老人は人のよさそうな笑顔のままものすごいことをいう。
「偽物でも多少は救える人がいるかもしれないと思ったけれど全然ダメだったね。かといって本物の司祭だったら救えたのかというとそれもまた疑問だ」
 老人はさみしそうにそういうと、再度ベンチに腰かけた。
「おじいさんはどこの国にいたの」
 アルヴィンがめずらしく緊張したような面持ちになっている。
「すまないね、公園で話をしていたのが少し聞こえてしまったんだよ。きみたち、北の王のところへいきたいんだろう」
 そういって大きく息をはき、すがるように祭壇の白い円環を見あげた。その目は祭壇よりもっと遠くを見ているようだ。
「帝国とロイの国境あたりに長く住んでいた。太陽神の教えを説くためにね。ロイの少年、この老いぼれはきみの祖国からレジスに逃げ帰ってきたんだ。布教のかたわら多くの親のない子供たちをあずかっていたが、その中の誰一人無事にこの国に連れてくることはかなわなかったよ。自力で生きのびた子はいたがね」
 老人は罪を告白する罪人のように苦しげだ。アルヴィンは少し困ったような表情をする。生まれる前の知らない子供たちの話をされてもどう反応していいのかとまどっているようだった。その白くふんわりとした頰に一片の光の破片がはりついている。
「僕は――祖国のことを誇りに思っているんだ。おじいさんがそこで見たことを教えてくれないかな」
 老人は祭壇を見つめたまましばらく黙っていた。
「事情があって話せないこともある。小さな嘘が混ざることになってもいいだろうか」
 アルヴィンは真剣な面持ちでこくんとうなずいた。礼拝堂に満ちている光の色が先ほどとは少し違うように思える。夕刻がせまっているようだ。
「帝国とロイの国境に小さな小屋を建てて住み始めたのは今から二十七、八年前になるかな。司祭ではなかったけれど太陽神の教えを世界に広めたかった――

 ロイの人々は宗教に関してとても寛容だった。国で決められた宗教はなく祖霊、つまりご先祖様を大事にしていた。それに加え大地や風、水、火、植物、動物などのすべてに魂が宿ると信じそれらに敬意を払って暮らすことが美徳とされる国だ。もともと土地から土地に流れ、流れ着いた土地を「しばらく借りる」という精神で暮らしていた民族だからね。そのため太陽神の教えもすんなりと肌になじんだようで迫害されるようなことは一度もなかった。むしろ多くの収穫をえられるようにと積極的に太陽神に祈りをささげる人々が多かったよ。
 対して帝国の人々はいきなり国境に住みついた自称司祭にさして関心を示さなかった。ロイに比べ国土が広大だったためかかわっている暇がなかったのかもしれない。むろん多少は素性を調べたのかもしれないが、帝国と他国の国境線はその頃から緊張状態になっていたからね。とにかく太陽神の司祭に関心を示したのはロイ側の人々だけだった。
 やがて自称司祭のもとに孤児がやってきた。はじまりはどうだったのかもう記憶にないが、一人、二人と親を亡くした子が太陽神の加護をもとめて小屋に集まってきたのだ。もしかしたら中には帝国側の子もいたのかもしれないが神の前では誰もが平等だ。いちいちどこから来たのか確認はしなかった。神からあずかった子供たちだ。
 小屋を増やし、畑を広げ、寄付を求めてなんとか暮らしていけるように工夫した。ありがたいことにその頃にはすっかり周りの人々にも受けいれられて、食べ物や着るものをわけてもらえるまでになっていた。けっして豊かではなかったけれど、生きていくのに不自由はなくなっていたよ。
 子供たちも太陽神の教えをよく理解し、惜しみなく学び働いた。その様子をみた人々があばら家のような礼拝小屋に通って祈りを捧げ、子供たちのために寄付をしてくれる。偽物とはいえ司祭として充実した日々だった。
 そんなある日、一人の男が小屋をおとずれた。
 身ぎれいだが華美ではなく、歳は四十過ぎに見えた。精悍な顔つきな偉丈夫でどことなく品がある。
 太陽神の教えを請いたいということだったので、隙間風で冷え込む礼拝小屋に案内し神話から話して聞かせた。長い話になったが男はじっと熱心に聞いていた。一通り話し終えたころは夜も更けていっそう小屋の中の冷え込みは耐えがたいものになっていた。しかし男は太陽神の教えに深く感銘をうけたようで、様々な角度から質問をくりかえした。
「なるほど。太陽神は地上のすべてのものを愛しておられるということだな。しかし諍いを好むものたちも神は等しく愛するのだろうか。神が愛するものたちを傷つけるものたちだ」
「はい。神はすべてを等しく愛しておられます。どこにでも光が降りそそぐのと同じことです」
 男はあごに手をやり黙考する。
「あげ足をとるつもりはない。知りたいのだ。太陽の光はこの国では弱いように思う。南のレジスの方はずいぶんと暖かい国で農作物も多くとれると聞いた。これは不平等ではないのか」
「おっしゃる通りです。ただこの国にレジスと同じように光が降りそそいだらどうなるとお思いですか。この国だからこそ生きていられる動物、植物の多くが死に絶え、そしてその恵みをうけていた人々も無事ではすみますまい。この土地だけでとれる作物もある。この土地だけにいる獣を狩って食べている。そうではありませんか。レジスのさらに南では光が多く降りそそぐため水が干あがり砂だけになっている国があります。しかしそこだからこそ生きているものたちもいるのです」
 男はまた考えこんだ。
「神は必要なものを必要なだけお与えになるという点で平等ということか」
 ときおり強い隙間風で男の上着のすそがゆれ動く。子供たちはとうに寝静まってしまったが、この強風だ。寒さで眠れない子もいるのではないかと心配になる。
「その考え方は我々の祖にも通じるものがある。与えられたものを十分にいかし、不足を嘆くことは不遜である」
 男はひとりうなずくと「ありがとう。またぜひ教えを請いたい」と満足げに帰っていった。のちに知ったことだがその男がロイ国王アルサフィア・フィル・ロイットその人だった。
 王はその後も何度となく礼拝小屋をおとずれては太陽神について、もしかしたらそちらが目的だった可能性もあるが、レジスの国交情勢や文化なども詳しく知りたがった。
 何度目か王がおとずれたときはすでに太陽神信仰やレジスについて精通しきっていた。
「いろいろと学ばせてもらった。ありがとう。やはりあなたに頼むしかないようだ」
 何度となく問答をくりかえすうち、アルサフィア王とは友のような感覚をいだいていた。それほど気さくな方だった。
「なにをです」
「わたしの子をあずかってくれ」
 何かの聞き間違いではないかと思ったが何度確認しても、うまれる予定の子をあずかって欲しいとくりかえす。
「事情は簡単だ。この土地は危ない。近い将来帝国に奪われるだろう。帝国相手に長く争うつもりはない。そんなことをすれば多くの民が死ぬ。もともと土地などなくとも生きてゆけるのが我が民だ。みな強い。わたしをはじめフィル・ロイットを名乗るものは皆殺しにされるだろう。それはそれでかまわぬが、先頭を行きみなの盾になるものが残るに越したことはない。次にうまれるのはそのための子だ。帝国側は妃が子を宿しているのを知らぬ」
 怒りなのか悲しみなのかわからない感情につきうごかされこともあろうか、一国の王をなぐってしまった。国王はその場に倒れ伏し、それから唖然としてこちらを見あげる。
「勝手をいうんじゃない。盾となることを押しつけられた子はどうなる。今『死ぬのはかまわぬ』といわれたあなたの家族は。今までどのように太陽神の教えを聞いてこられたのか。神の愛するものたちの運命をあなたが勝手に決めることはできない。それこそ不遜」
 言い切ってしまってから、処刑されるかもしれないと本気で思った。いくら気さくでも王は王である。そうならなくとも噂が広まればこれまで信頼関係をきずいてきた人々も離れてしまうかもしれない。つまり子供たちも飢える。血の気がひいた。
 しばし王は動かない。何事かを考えるような顔をしている。それから一つうなずくと、服の汚れをはたきながら起きあがるなり、今度は殴りかかってきた。
「あなたのいうことはもっともだ。今よく考えたがやはりあなたが正しい。だが、わたしは王だ。家族よりも民のことを考えねばならない。あなたは神のことには詳しいが王のことはわかるまい。子はやはりあずかってもらう。フィル・ロイットの一族は帝国のものたちに一人残らず記録されてしまっている。どこまでも追いかけられる。これから生まれる子だけは民の盾とならずとも命をおびやかされることなく生きて欲しい」
 殴られた頰がいたむ。確かに王のことはわからないが、親の気持ちはよくわかる。
「それは命令ですか」
「――いや、友としてお願いしたい。言いなおそう。わたしの子にあなたの知恵をさずけてほしい。ひとりでも生き残れるように」

「そのときにあずかった子がきみたちが会いたがっている『北の王』だ。無事レジスに落ちのびた後、お会いしたことがあるが本物のロイの王の血筋に間違いない」
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