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第七章 盛夏の逃げ水
第百七十九話 盛夏の逃げ水(44)
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「迎えがなければ帰らなかったのか?」
ラヴォート殿下はそれでも不貞腐れたような声を出す。
「ある程度のところで国王陛下に遊ばれているような気がしてきて腹が立ちました。いっそのことアルメシエにとどまろうかと。しかし……」
そこでシェイルはまたエリッツを見た。なぜか少し困惑しているような表情である。
「不思議とエリッツの顔を見たら――どうしても帰りたくなりました」
衝動的にシェイルに抱きつこうとしたが、すんでのところでラヴォート殿下に襟首をつかまれてしまう。ついでに小声で「調子にのるなよ」と耳打ちされた。残念だが、後にしよう。
いろんな人に迷惑をかけることになったものの、迎えに行くことができて本当によかった。もしあそこまでたどり着けなかったら二度とシェイルに会えなかったかもしれない。
「今思えば、陛下はあんな提案をしておきながら、わたしが戻ることを確信していたのだと思います。すべて陛下のたくらんだ通りになって癪なので、このことは誰にもいうつもりはなかったんですけど、殿下がしつこいので言ってしまいました」
今度はシェイルの方が不貞腐れたような様子である。
「そういえば陛下はずいぶんと機嫌がよかったが、そういうことか。わざわざ迎えまで出して。生意気なお前が思い通りに動いて、さぞかしおもしろかったんだろうな」
シェイルがぐっと口元を引き結ぶ。ちょっと今のは癇に障ったようだ。エリッツはだんだんシェイルの感情が読み取れるようになってきた。
ラヴォート殿下もわざわざ本人が腹が立ったといっていたことを指摘しなくてもいいような気がするが、殿下は殿下で心配させられた分何かいってやりたいのだろう。
「陛下は普段すました顔をしているラヴォート殿下が弱ってる姿もおもしろかったと思いますよ」
シェイルの言葉にラヴォート殿下がわかりやすいくらいにむっとする。こうなると二人は本当に子供っぽい。一度つかみ合いの喧嘩をしているのを見たことがあるので、手が出ないだけまだマシである。
しかし確かに殿下はかなり弱っていた。もちろんエリッツはおもしろかったなどとは思わないが、陛下は自分の手を下すことなくラヴォート殿下がシェイルの戻るべき場所を確保して波風が立たないようにしてくれるのはおもしろいくらい都合がよかったかもしれない。
今回のことでレジスはアルメシエ王家に恩を売った形になる。さらに噂のロイの王族が本物でシェイルを通してつながりもできた。総長にいわせればライラは娘のようなものという話なので、その方向からもアルメシエ王家に結びつきを得たことになる。ボードゲームでいえば直接ではないにしろ動かせる駒が増えたような状態だ。賭けの要素があったにしろ、今回はレジス国王陛下の一人勝ちということか。機嫌もよくなろうというものだ。ただ誰が負けたということもない。ここにいる二人がちょっとばかりむっとしているくらいのことである。
ぼんやりと考え事をしていたエリッツがはっと我に返ると、またシェイルとラヴォート殿下の間に不穏な沈黙が流れていた。やはりこれは長引くらしい。
「そろそろ折檻ではないですか?」
早く元に戻って欲しくて、ついそんなことをいってしまう。早速ラヴォート殿下ににらまれた。にらんだくせに、殿下はそのままシェイルの肩をとらえて引き寄せる。やっぱり折檻はするらしい。
ところがシェイルはわずかに顔をそらせてそれを拒んだ。シェイルが殿下の折檻を拒んだのは初めて見た。意外だったのは殿下が少し傷ついたような表情を見せたことだ。そういえばシェイルはエリッツが指をなめたり、少しばかりいやらしいことをしても基本的には拒むことをしない。身体的なことに関しては異様なほどにおおらかだ。それがどういうことなのかよくわからないが、エリッツはいろいろとはかどるのでありがたく思っていた。急に拒まれたらと想像するだけで絶望に目の前が暗くなる。
ラヴォート殿下はあっさりとシェイルを突き放すように開放した。
「いつまでもへそを曲げていろ」
そのままシェイルに背を向け、部屋を出ていこうとしたが、今度はシェイルの方がその背中をつかまえる。
「こっちのセリフです。いつまでくだらない嫉妬をしているつもりですか」
「嫉妬だと? お前、何を……」
ラヴォート殿下の振り返りざま、シェイルがその唇をふさぐ。
なんてうらやましい。エリッツは思わず前のめりになる。
「確かにいろいろあったことは認めますが、こうして戻ってきました。それではだめなんですか?」
何とかして仲間に入れてほしい。エリッツはとりあえずシェイルの隣にぴったりと身を寄せてみた。特に反応はない。
「――戻ったところで、また黙って出ていかないという保証がない」
それは確かにそうだ。エリッツが考えていた以上にラヴォート殿下はシェイルを失うのを恐れている。
「それは――国王陛下しだいです。二度とやらないという約束はできません」
ごく自然にシェイルがエリッツの髪をなでてくれる。愛玩動物あつかいでもよい。エリッツはうっとりと目を細めた。
しかしシェイルの言い分もうなずかざるを得ない。今度はどんな無茶な指示をされるのか、予測不可能である。特にロイの人々を盾に取られれば、シェイルはいうことを聞かないわけにはいかなくなるだろう。それがラヴォート殿下の元を離れることになっても。
「そうか。わかった」
ラヴォート殿下はきっぱりといい捨て、シェイルに背を向ける。もはや怒りというよりは諦念がこもっていた。また嫌な感じの沈黙である。
「――これは本当にいうつもりのなかったことなので、ひとりごとだと思って聞いてください」
シェイルは殿下の背中に向かってつぶやいた。
「わたしはここへ戻るべきではなかったんです」
シェイルもラヴォート殿下に背を向けた。
「どうしてですか!」
エリッツは思わず声をあげる。エリッツは迎えがきているのを見て帰りたくなったというシェイルの言葉がとてもうれしかった。それを否定されてしまうと、ぱっと手を離されてしまったような気がしてしまう。
シェイルまたしばらく黙りこむ。それからおもむろに話を続けた。
「申し上げた通り、アルメシエの土地を奪ってロイだけの国をつくるのは不可能と判断しましたが、あの国は元から様々な人種が混在している国です。やりようによっては多くのロイの人々を受け入れてくれる可能性を秘めていました。すでにロイもめずらしくないほどに暮らしています」
それは確かにそうだった。総長は「この国でロイはめずらしくない」と明言していたし、実際にロイらしき人々はレジス城下よりも多く見かけた。それどころかどこの国の人なのかよくわからない人々もたくさん暮らしているようだった。エリッツが見たライラの隊に買われた子供達も皮膚の色、髪の色、目の色もみんなばらばらで、言葉も達者な子から片言の子まで様々だった。王女であるライラ本人もラインデルなまりの言葉を話すのだから、実際に人種に関してはおおらかな国柄なのだろう。
「叔父もアルメシエの国の中枢に発言権があるようでしたし、わたしが本当に責務を果たすつもりなら、かの国に残った方がレジスで何年もかけて体制を整えるよりずっと効率的なはずなんです。でも私は――」
シェイルは少し間をあけてから「自分の感情の方を優先させてしまったんです」と、苦しそうにつぶやいた。
「レジスに――帰りたかったんです」
翌日からは何事もなかったかのように日常が動きはじめた。シェイルもラヴォート殿下も表面上はいつも通りだ。前日にしっかりと引き継ぎや打ち合わせも済ませていたので、業務がとどこおることはない。
いつも通り大量の書類がまわってきて、それを期限や種類ごとに仕分けして、シェイルに指示を仰いで、慎重に承認印を押す。
見積もりと数字が合わなかったり、経緯がわからないようなものは、カーラに聞けばすぐに解決した。一部とはいえ本当にエリッツの仕事を肩代わりしてくれていたのだろう。自分の仕事もあっただろうから、だいぶ無理をしたのかもしれない。
午後からは書記官として城の堀にかかっている橋の修繕に関する会議に同行した。最近は城内の整備や管理に関する案件も増えてきた。ラヴォート殿下に任される仕事がまた増えたのだろう。
ただやはり少しだけシェイルは元気がないような気がしてしまう。気のせいだといわれればそうだと思いこめるくらいのわずかな変化だ。
おそらく気をつかわれたくないだろうし、実際エリッツにはどうすることもできない。
その夜、無性に誰かと話したいような衝動にかられ、アルヴィンに手紙を書くことにした。メインはもちろんヒルトリングのロックに関しての種明かしである。びっくりするだろうか。それともアルヴィンのことだからあれこれ調べたりして近いところまで想像できている可能性もある。遠眼鏡で見えるくらいの距離で指揮官からの指示が届くという最新のヒルトリングをどう思うのかも聞いてみたい。
本当はシェイルのことを書きたかったが、何をどう書いていいのかわからなかった。いいたくないことをいわせてしまった。昨日のシェイルの様子を思い出すと漠然と胸が苦しくなる。
しかし自分の感情を優先することがそんなに悪いことだろうか。優先した結果、レジスに戻ってきてくれたことは素直にうれしいが、苦しそうなシェイルを見てしまった後では純粋によろこぶのもはばかられる。
シェイルがレジスからいなくなったら保護区のロイたちは悲しむだろう。先日の視察でロイの長老たちがシェイルの姿を見て涙を流さんばかりによろこんでいた。あの人たちを置いていってもアルメシエに残るべきだったとシェイルは考えているのだろうか。
いや、そんなことくらいシェイルはわかっているはずだ。だとすればまだ困難の最中にあるロイの民がいる中、居心地のよい場所に身を置くことに罪悪感があるのかもしれない。
ぐるぐると思考がめぐり、一番に相談したかったことは書けなかった。結局手紙は考えていたよりもずっと短くなってしまう。シェイルのことはいつか直接会ったときにアルヴィンに話してみよう。レジス生まれのアルヴィンもきっとエリッツに近い意見を持っているはずだ。
もしアルヴィンがシェイルにずっとレジスにいてほしいといってくれれば、シェイルも楽になるかもしれない。それはすごくいい思いつきに思えた。
直接話したいことがあると書くと気になってしまうだろうから、そのことにはふれず前向きな調子の定型文で手紙をしめた。
アルメシエがどうなってゆくのか、そのうち耳に入ることだろう。また長い休暇がとれたらアルメシエに旅行に行ってもいいかもしれない。可能ならシェイルと。アルメシエで出会った人々と今度こそゆっくりと話をしたい。観光をしたり、お土産を買ったりきっと楽しいだろう。そんな想像をめぐらせているうちに、エリッツは深い眠りへと落ちていった。
ラヴォート殿下はそれでも不貞腐れたような声を出す。
「ある程度のところで国王陛下に遊ばれているような気がしてきて腹が立ちました。いっそのことアルメシエにとどまろうかと。しかし……」
そこでシェイルはまたエリッツを見た。なぜか少し困惑しているような表情である。
「不思議とエリッツの顔を見たら――どうしても帰りたくなりました」
衝動的にシェイルに抱きつこうとしたが、すんでのところでラヴォート殿下に襟首をつかまれてしまう。ついでに小声で「調子にのるなよ」と耳打ちされた。残念だが、後にしよう。
いろんな人に迷惑をかけることになったものの、迎えに行くことができて本当によかった。もしあそこまでたどり着けなかったら二度とシェイルに会えなかったかもしれない。
「今思えば、陛下はあんな提案をしておきながら、わたしが戻ることを確信していたのだと思います。すべて陛下のたくらんだ通りになって癪なので、このことは誰にもいうつもりはなかったんですけど、殿下がしつこいので言ってしまいました」
今度はシェイルの方が不貞腐れたような様子である。
「そういえば陛下はずいぶんと機嫌がよかったが、そういうことか。わざわざ迎えまで出して。生意気なお前が思い通りに動いて、さぞかしおもしろかったんだろうな」
シェイルがぐっと口元を引き結ぶ。ちょっと今のは癇に障ったようだ。エリッツはだんだんシェイルの感情が読み取れるようになってきた。
ラヴォート殿下もわざわざ本人が腹が立ったといっていたことを指摘しなくてもいいような気がするが、殿下は殿下で心配させられた分何かいってやりたいのだろう。
「陛下は普段すました顔をしているラヴォート殿下が弱ってる姿もおもしろかったと思いますよ」
シェイルの言葉にラヴォート殿下がわかりやすいくらいにむっとする。こうなると二人は本当に子供っぽい。一度つかみ合いの喧嘩をしているのを見たことがあるので、手が出ないだけまだマシである。
しかし確かに殿下はかなり弱っていた。もちろんエリッツはおもしろかったなどとは思わないが、陛下は自分の手を下すことなくラヴォート殿下がシェイルの戻るべき場所を確保して波風が立たないようにしてくれるのはおもしろいくらい都合がよかったかもしれない。
今回のことでレジスはアルメシエ王家に恩を売った形になる。さらに噂のロイの王族が本物でシェイルを通してつながりもできた。総長にいわせればライラは娘のようなものという話なので、その方向からもアルメシエ王家に結びつきを得たことになる。ボードゲームでいえば直接ではないにしろ動かせる駒が増えたような状態だ。賭けの要素があったにしろ、今回はレジス国王陛下の一人勝ちということか。機嫌もよくなろうというものだ。ただ誰が負けたということもない。ここにいる二人がちょっとばかりむっとしているくらいのことである。
ぼんやりと考え事をしていたエリッツがはっと我に返ると、またシェイルとラヴォート殿下の間に不穏な沈黙が流れていた。やはりこれは長引くらしい。
「そろそろ折檻ではないですか?」
早く元に戻って欲しくて、ついそんなことをいってしまう。早速ラヴォート殿下ににらまれた。にらんだくせに、殿下はそのままシェイルの肩をとらえて引き寄せる。やっぱり折檻はするらしい。
ところがシェイルはわずかに顔をそらせてそれを拒んだ。シェイルが殿下の折檻を拒んだのは初めて見た。意外だったのは殿下が少し傷ついたような表情を見せたことだ。そういえばシェイルはエリッツが指をなめたり、少しばかりいやらしいことをしても基本的には拒むことをしない。身体的なことに関しては異様なほどにおおらかだ。それがどういうことなのかよくわからないが、エリッツはいろいろとはかどるのでありがたく思っていた。急に拒まれたらと想像するだけで絶望に目の前が暗くなる。
ラヴォート殿下はあっさりとシェイルを突き放すように開放した。
「いつまでもへそを曲げていろ」
そのままシェイルに背を向け、部屋を出ていこうとしたが、今度はシェイルの方がその背中をつかまえる。
「こっちのセリフです。いつまでくだらない嫉妬をしているつもりですか」
「嫉妬だと? お前、何を……」
ラヴォート殿下の振り返りざま、シェイルがその唇をふさぐ。
なんてうらやましい。エリッツは思わず前のめりになる。
「確かにいろいろあったことは認めますが、こうして戻ってきました。それではだめなんですか?」
何とかして仲間に入れてほしい。エリッツはとりあえずシェイルの隣にぴったりと身を寄せてみた。特に反応はない。
「――戻ったところで、また黙って出ていかないという保証がない」
それは確かにそうだ。エリッツが考えていた以上にラヴォート殿下はシェイルを失うのを恐れている。
「それは――国王陛下しだいです。二度とやらないという約束はできません」
ごく自然にシェイルがエリッツの髪をなでてくれる。愛玩動物あつかいでもよい。エリッツはうっとりと目を細めた。
しかしシェイルの言い分もうなずかざるを得ない。今度はどんな無茶な指示をされるのか、予測不可能である。特にロイの人々を盾に取られれば、シェイルはいうことを聞かないわけにはいかなくなるだろう。それがラヴォート殿下の元を離れることになっても。
「そうか。わかった」
ラヴォート殿下はきっぱりといい捨て、シェイルに背を向ける。もはや怒りというよりは諦念がこもっていた。また嫌な感じの沈黙である。
「――これは本当にいうつもりのなかったことなので、ひとりごとだと思って聞いてください」
シェイルは殿下の背中に向かってつぶやいた。
「わたしはここへ戻るべきではなかったんです」
シェイルもラヴォート殿下に背を向けた。
「どうしてですか!」
エリッツは思わず声をあげる。エリッツは迎えがきているのを見て帰りたくなったというシェイルの言葉がとてもうれしかった。それを否定されてしまうと、ぱっと手を離されてしまったような気がしてしまう。
シェイルまたしばらく黙りこむ。それからおもむろに話を続けた。
「申し上げた通り、アルメシエの土地を奪ってロイだけの国をつくるのは不可能と判断しましたが、あの国は元から様々な人種が混在している国です。やりようによっては多くのロイの人々を受け入れてくれる可能性を秘めていました。すでにロイもめずらしくないほどに暮らしています」
それは確かにそうだった。総長は「この国でロイはめずらしくない」と明言していたし、実際にロイらしき人々はレジス城下よりも多く見かけた。それどころかどこの国の人なのかよくわからない人々もたくさん暮らしているようだった。エリッツが見たライラの隊に買われた子供達も皮膚の色、髪の色、目の色もみんなばらばらで、言葉も達者な子から片言の子まで様々だった。王女であるライラ本人もラインデルなまりの言葉を話すのだから、実際に人種に関してはおおらかな国柄なのだろう。
「叔父もアルメシエの国の中枢に発言権があるようでしたし、わたしが本当に責務を果たすつもりなら、かの国に残った方がレジスで何年もかけて体制を整えるよりずっと効率的なはずなんです。でも私は――」
シェイルは少し間をあけてから「自分の感情の方を優先させてしまったんです」と、苦しそうにつぶやいた。
「レジスに――帰りたかったんです」
翌日からは何事もなかったかのように日常が動きはじめた。シェイルもラヴォート殿下も表面上はいつも通りだ。前日にしっかりと引き継ぎや打ち合わせも済ませていたので、業務がとどこおることはない。
いつも通り大量の書類がまわってきて、それを期限や種類ごとに仕分けして、シェイルに指示を仰いで、慎重に承認印を押す。
見積もりと数字が合わなかったり、経緯がわからないようなものは、カーラに聞けばすぐに解決した。一部とはいえ本当にエリッツの仕事を肩代わりしてくれていたのだろう。自分の仕事もあっただろうから、だいぶ無理をしたのかもしれない。
午後からは書記官として城の堀にかかっている橋の修繕に関する会議に同行した。最近は城内の整備や管理に関する案件も増えてきた。ラヴォート殿下に任される仕事がまた増えたのだろう。
ただやはり少しだけシェイルは元気がないような気がしてしまう。気のせいだといわれればそうだと思いこめるくらいのわずかな変化だ。
おそらく気をつかわれたくないだろうし、実際エリッツにはどうすることもできない。
その夜、無性に誰かと話したいような衝動にかられ、アルヴィンに手紙を書くことにした。メインはもちろんヒルトリングのロックに関しての種明かしである。びっくりするだろうか。それともアルヴィンのことだからあれこれ調べたりして近いところまで想像できている可能性もある。遠眼鏡で見えるくらいの距離で指揮官からの指示が届くという最新のヒルトリングをどう思うのかも聞いてみたい。
本当はシェイルのことを書きたかったが、何をどう書いていいのかわからなかった。いいたくないことをいわせてしまった。昨日のシェイルの様子を思い出すと漠然と胸が苦しくなる。
しかし自分の感情を優先することがそんなに悪いことだろうか。優先した結果、レジスに戻ってきてくれたことは素直にうれしいが、苦しそうなシェイルを見てしまった後では純粋によろこぶのもはばかられる。
シェイルがレジスからいなくなったら保護区のロイたちは悲しむだろう。先日の視察でロイの長老たちがシェイルの姿を見て涙を流さんばかりによろこんでいた。あの人たちを置いていってもアルメシエに残るべきだったとシェイルは考えているのだろうか。
いや、そんなことくらいシェイルはわかっているはずだ。だとすればまだ困難の最中にあるロイの民がいる中、居心地のよい場所に身を置くことに罪悪感があるのかもしれない。
ぐるぐると思考がめぐり、一番に相談したかったことは書けなかった。結局手紙は考えていたよりもずっと短くなってしまう。シェイルのことはいつか直接会ったときにアルヴィンに話してみよう。レジス生まれのアルヴィンもきっとエリッツに近い意見を持っているはずだ。
もしアルヴィンがシェイルにずっとレジスにいてほしいといってくれれば、シェイルも楽になるかもしれない。それはすごくいい思いつきに思えた。
直接話したいことがあると書くと気になってしまうだろうから、そのことにはふれず前向きな調子の定型文で手紙をしめた。
アルメシエがどうなってゆくのか、そのうち耳に入ることだろう。また長い休暇がとれたらアルメシエに旅行に行ってもいいかもしれない。可能ならシェイルと。アルメシエで出会った人々と今度こそゆっくりと話をしたい。観光をしたり、お土産を買ったりきっと楽しいだろう。そんな想像をめぐらせているうちに、エリッツは深い眠りへと落ちていった。
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