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第八章 とある一日
第百八十三話 とある一日(4)
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いいものを見た。
ジェフとザグリーと別れ、パーシーは満足感にひたりながら街を歩いていた。少しだけ夕刻の街でも散歩しようと思っていたが、先ほど見たゲームの内容を反芻しているうちに随分と長いこと歩いてしまっていた。市街警備軍の司令塔ダグラス・グーデンバルドは強いというレベルではなかった。素人のパーシーは正直完全には理解できないゲーム展開だったが、以前とは違ってすごいことが明確にわかる。相手をしていた人物が何者なのかは結局わからずじまいだったが、ハンデもなしに互角にやり合っていたのだからこちらも相当な腕前だ。結局のところ勝負はつかない状態で二人は店を出て行ってしまったが、また続きをやるために会おうと約束をしているようだった。是非、パーシーの非番の時にこの店でやってほしい。
すっかり日が暮れてしまった。さすがに戻ろうとしたところで異様な集団が歩いているのを見かける。全員が城の事務官の制服姿で、ぞろぞろと大移動している。こちらでも何らかの式典があったのだろうか。
「あっ!」
パーシーは思わず声をあげた。
集団の中にいるのは座敷犬、いや、確かエリッツだったか。パーシーがずっと探していた人物がいる。あの目立つプラチナブロンドの美形は見間違いようがない。城の事務官だったのか。
しかし何だかもめているようだ。そのエリッツの周りには同じく制服を着た二人の青年がいる。年のころはパーシーとさほど変わらない。
「それはまずいんじゃないですか」
困ったようなエリッツの声が聞こえる。
「いや、でもこっちもまずいんだよな」
一緒にいた青年の一人がもう一人の青年とエリッツを見比べるようにして頭をかいた。
「おい、ギル、早くしてくれよ。今日中に見つけないと本当にまずいって」
話しかけられるような雰囲気ではないが、この偶然を逃すのは惜しい。パーシーは立ち去りがたくて様子を見守っていた。
「じゃあ、バルグ、誰か身代わりを……」
「身代わりって、急にそんな……事務室に戻って呼びに行く時間なんて……」
そのときなぜかふっとパーシーはエリッツと目が合った。
「あっ!」
エリッツが声をあげ、二人が驚いたようにパーシーを見る。
「え?」
ギル、バルグと呼ばれていた青年たちが再度ちらりとパーシーを見て、エリッツに何ごとかを聞いている。ちらちらとした視線が痛い。「役人……?」「なんで……」「それは……どうかな」「……なら、いけるだろ」という、何ごとかを相談しているような声が途切れ途切れに聞こえてきた。
最終的に三人はそろそろとパーシーのところへやってくる。そしてギルと呼ばれていた青年がパーシーの手を取った。
「エリッツの友達なんだって? ちょっと頼みがあるんだけど」
エリッツがパーシーのことを「友達」と説明したらしいことにわずかに心が躍る。
「それは……僕にできることでしょうか」
パーシーもギルの手をぎゅっと握り返した。
「この集団についていって、飯を食って帰るだけの簡単な仕事だ」
説明された事情によると、エリッツとギルは今日の昼頃から城の事務官たちの交流会に参加し、これから会食というところだったらしい。どうやらこの交流会は各部署で何人参加するという決まりがあるらしく、エリッツとギルはそのメンバーに指定されていたらしい。
ところが、ギルの職場でギル自身が処理した書類がどこかへ消えてしまっていた。半日探したが見つからない。それで同僚のバルグがギルを呼びに来たという経緯らしい。参加メンバーが途中退場するのはその部署としての体裁が悪く、困っていたということだ。
「引き受けるのは構わないんですけど、急に人が変わっても大丈夫なんですか?」
おもしろそうなので八割方のる気であったパーシーだったが、とりあえず聞いてみる。
「大丈夫だ」
根拠があるのか不明だがギルは自信満々で断言する。それから自身が着ていた事務官の制服の上着をパーシーに着せかけた。上着が変わっただけで何だかそれっぽい感じにはなる。
「似合います」
エリッツがふわりと雑な感想をもらした。
「とにかく新人がたくさんいるから、どこの誰が何なのか、みんなさっぱりわかってない。堂々と飯を食って帰ればいい。受付では王命執行主席補佐事務室のギルと名乗ってくれ。そのうち酒が入ってみんな何が何だかわからなくなるはずだ。何かあっても後で適当に取りつくろうから何も心配することはない」
無茶苦茶である。
しかし王命執行主席補佐事務室というのは、何だかすごそうな部署である。パーシーのような見回り役人には想像も及ばない。
しかしこれはまたとないチャンスでもある。ようやく見つけたエリッツとゆっくり話ができるかもしれない。
「わかりました!」
「助かるよ。必ず礼はするから……えっと……」
再びパーシーの手をとったギルがエリッツを見る。
「パーシーさんです」
すかさずエリッツが口を開いた。きちんと覚えていてくれた。パーシーは少なからず感動する。つい先ほどまで「座敷犬さん」と呼んでいたことを心の中で詫びた。
パーシーは気後れというものをしない。おしゃべりは大好きだ。おそらく周りはパーシーが普段なら話すこともかなわないような人たちなのだろう。だが、こうなってしまったからには楽しまないと損である。
ただひとつ困ったのはテーブルマナーだ。よくわからないが、食事がひとつずつ順番に出てくる。とりあえず食べたいものを全部頼んでテーブルに並べてしまえという感じのイゴルデとはまるで勝手が違った。
「パーシーさん、それで手を拭いてはダメですよ」
エリッツが横からパーシーの肩をつつく。
「え? そうなの?」
周りからくすくすと笑い声が聞こえる。パーシーはあまり気にしない。「へへっ」と笑いながら頭をかいた。正面に座っているかわいらしい女性が、パーシーに微笑みかけてくれるので、さらに笑顔になってしまう。調子にのって皿の下に敷くものらしき布でまた手を拭いて見せると、耐えかねたようにその隣の女性もふき出した。何だかとても楽しい。
「パーシーさんが来てくれてよかったです。おれ、ちょっと緊張してたんですよ」
エリッツも楽しそうにしてくれている。見るからに育ちが良さそうだと思っていたが、やはりどこかのお坊ちゃんなのだろう。順番に出てくる謎の料理も迷いのない優雅な手つきで片付けている。パーシーは横でひたすらエリッツの真似をしていた。たまに間違えると女の子たちが笑ってくれるので、わざと間違える。
住む世界が違う人たちなので話が合うかわからなかったが、役所での仕事中のできごとをそれとわからないように少しだけ変えて話すと、思いの外みんな共感してくれた。どこの職場でもうるさい上司や困った同僚はいるし、結局なんだったのか最後までわからないような妙な出来事も起こる。
謎の立派な建物の中に入り、入口で「王命執行主席補佐事務室のギル」と名乗るのはさすがに少しばかり緊張したが、話に聞いていた通り、誰一人としてパーシーに不審な目を向けてこない。新人が多いという話だったが、確かに若い人が多い。参加者同士も少し遠慮がちな初々しい雰囲気である。後で聞いたところ、この手のイベント参加は面倒なので諸先輩方が部署の若手に頼んで行っていただく風潮があるようだった。要するに立場の弱い新人に押しつけるのである。
何やらよくわからない長い話を聞いて、食べたこともない料理を食べる。これも悪くない経験だ。
「そうだ。大事なことを忘れてた。エリッツ、ダウレを教えて欲しいんだけど」
「それはかまわないんだけど、その……おれは専門家じゃないし、あまりたくさんの人を一度には教えられないよ?」
「全然いいよ。僕に教えてくれたら僕が他の人にも教えてまわるから。今日、すごいゲームを見たんだ。それで少し強くなった気がするし」
そういえば、ここにいるみんなは今日、交流会だったはずだ。どこでダウレのゲームを見たんだとあやしまれるかと思ったが、誰も何もいわない。さりげなく周りを見ると、みんなそこそこお酒が進んでいる。
「イゴルデにすごい人が来てたんですよ」
エリッツの耳元にこっそりと伝えた。興味深そうな顔をしていたが、周りに気をつかってか「おれも見たかったな」と、つぶやくにとどめていた。後で教えてあげよう。
とにかくこれでもう一度エリッツに会える。パーシーの昇進記念日はとても素晴らしい一日になった。
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「あっ!」
パーシーは思わず声をあげた。
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しかし何だかもめているようだ。そのエリッツの周りには同じく制服を着た二人の青年がいる。年のころはパーシーとさほど変わらない。
「それはまずいんじゃないですか」
困ったようなエリッツの声が聞こえる。
「いや、でもこっちもまずいんだよな」
一緒にいた青年の一人がもう一人の青年とエリッツを見比べるようにして頭をかいた。
「おい、ギル、早くしてくれよ。今日中に見つけないと本当にまずいって」
話しかけられるような雰囲気ではないが、この偶然を逃すのは惜しい。パーシーは立ち去りがたくて様子を見守っていた。
「じゃあ、バルグ、誰か身代わりを……」
「身代わりって、急にそんな……事務室に戻って呼びに行く時間なんて……」
そのときなぜかふっとパーシーはエリッツと目が合った。
「あっ!」
エリッツが声をあげ、二人が驚いたようにパーシーを見る。
「え?」
ギル、バルグと呼ばれていた青年たちが再度ちらりとパーシーを見て、エリッツに何ごとかを聞いている。ちらちらとした視線が痛い。「役人……?」「なんで……」「それは……どうかな」「……なら、いけるだろ」という、何ごとかを相談しているような声が途切れ途切れに聞こえてきた。
最終的に三人はそろそろとパーシーのところへやってくる。そしてギルと呼ばれていた青年がパーシーの手を取った。
「エリッツの友達なんだって? ちょっと頼みがあるんだけど」
エリッツがパーシーのことを「友達」と説明したらしいことにわずかに心が躍る。
「それは……僕にできることでしょうか」
パーシーもギルの手をぎゅっと握り返した。
「この集団についていって、飯を食って帰るだけの簡単な仕事だ」
説明された事情によると、エリッツとギルは今日の昼頃から城の事務官たちの交流会に参加し、これから会食というところだったらしい。どうやらこの交流会は各部署で何人参加するという決まりがあるらしく、エリッツとギルはそのメンバーに指定されていたらしい。
ところが、ギルの職場でギル自身が処理した書類がどこかへ消えてしまっていた。半日探したが見つからない。それで同僚のバルグがギルを呼びに来たという経緯らしい。参加メンバーが途中退場するのはその部署としての体裁が悪く、困っていたということだ。
「引き受けるのは構わないんですけど、急に人が変わっても大丈夫なんですか?」
おもしろそうなので八割方のる気であったパーシーだったが、とりあえず聞いてみる。
「大丈夫だ」
根拠があるのか不明だがギルは自信満々で断言する。それから自身が着ていた事務官の制服の上着をパーシーに着せかけた。上着が変わっただけで何だかそれっぽい感じにはなる。
「似合います」
エリッツがふわりと雑な感想をもらした。
「とにかく新人がたくさんいるから、どこの誰が何なのか、みんなさっぱりわかってない。堂々と飯を食って帰ればいい。受付では王命執行主席補佐事務室のギルと名乗ってくれ。そのうち酒が入ってみんな何が何だかわからなくなるはずだ。何かあっても後で適当に取りつくろうから何も心配することはない」
無茶苦茶である。
しかし王命執行主席補佐事務室というのは、何だかすごそうな部署である。パーシーのような見回り役人には想像も及ばない。
しかしこれはまたとないチャンスでもある。ようやく見つけたエリッツとゆっくり話ができるかもしれない。
「わかりました!」
「助かるよ。必ず礼はするから……えっと……」
再びパーシーの手をとったギルがエリッツを見る。
「パーシーさんです」
すかさずエリッツが口を開いた。きちんと覚えていてくれた。パーシーは少なからず感動する。つい先ほどまで「座敷犬さん」と呼んでいたことを心の中で詫びた。
パーシーは気後れというものをしない。おしゃべりは大好きだ。おそらく周りはパーシーが普段なら話すこともかなわないような人たちなのだろう。だが、こうなってしまったからには楽しまないと損である。
ただひとつ困ったのはテーブルマナーだ。よくわからないが、食事がひとつずつ順番に出てくる。とりあえず食べたいものを全部頼んでテーブルに並べてしまえという感じのイゴルデとはまるで勝手が違った。
「パーシーさん、それで手を拭いてはダメですよ」
エリッツが横からパーシーの肩をつつく。
「え? そうなの?」
周りからくすくすと笑い声が聞こえる。パーシーはあまり気にしない。「へへっ」と笑いながら頭をかいた。正面に座っているかわいらしい女性が、パーシーに微笑みかけてくれるので、さらに笑顔になってしまう。調子にのって皿の下に敷くものらしき布でまた手を拭いて見せると、耐えかねたようにその隣の女性もふき出した。何だかとても楽しい。
「パーシーさんが来てくれてよかったです。おれ、ちょっと緊張してたんですよ」
エリッツも楽しそうにしてくれている。見るからに育ちが良さそうだと思っていたが、やはりどこかのお坊ちゃんなのだろう。順番に出てくる謎の料理も迷いのない優雅な手つきで片付けている。パーシーは横でひたすらエリッツの真似をしていた。たまに間違えると女の子たちが笑ってくれるので、わざと間違える。
住む世界が違う人たちなので話が合うかわからなかったが、役所での仕事中のできごとをそれとわからないように少しだけ変えて話すと、思いの外みんな共感してくれた。どこの職場でもうるさい上司や困った同僚はいるし、結局なんだったのか最後までわからないような妙な出来事も起こる。
謎の立派な建物の中に入り、入口で「王命執行主席補佐事務室のギル」と名乗るのはさすがに少しばかり緊張したが、話に聞いていた通り、誰一人としてパーシーに不審な目を向けてこない。新人が多いという話だったが、確かに若い人が多い。参加者同士も少し遠慮がちな初々しい雰囲気である。後で聞いたところ、この手のイベント参加は面倒なので諸先輩方が部署の若手に頼んで行っていただく風潮があるようだった。要するに立場の弱い新人に押しつけるのである。
何やらよくわからない長い話を聞いて、食べたこともない料理を食べる。これも悪くない経験だ。
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「全然いいよ。僕に教えてくれたら僕が他の人にも教えてまわるから。今日、すごいゲームを見たんだ。それで少し強くなった気がするし」
そういえば、ここにいるみんなは今日、交流会だったはずだ。どこでダウレのゲームを見たんだとあやしまれるかと思ったが、誰も何もいわない。さりげなく周りを見ると、みんなそこそこお酒が進んでいる。
「イゴルデにすごい人が来てたんですよ」
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