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2年1学期
12話: 夏星祭、夏夜の願いと大騒動③
しおりを挟む「クロード、気をつけてね」
「ああ、大丈夫だ。すぐ戻ってくるよ」
魔獣討伐に向かうクロードに、無理しないようにだけ伝えて俺とルカ、そしてカイは避難所の広場に到着する。
避難所では一般客の中から集められた魔法が使える十数人の魔術師たちがシールドを張っていた。だけど広場の大きさに全く人数が足りてなくて穴だらけの状態だった。これは悲惨だ。いくらルカでもこの広さのシールドを張るなんて本当にできるのかな……とルカを見上げるとルカは手のひらを軽く上下させ
「……これでいい?」
「え……?」
と首を傾げて俺を見つめ返す。俺が半信半疑で辺りを見回して確認したところ、完全な無詠唱、なんの下準備もなかったのに最高レベルのシールドが広場を完全に覆っていた。
「う、うん。すごいねルカ」
「……ん」
俺の感想を聞いて、まるでいつものペア授業の最中みたいにルカが頭を差し出してくるので、そんな場合かなと思いつつも俺はルカの頭を撫でる。
それが落ち着いた頃、俺は避難所の主導責任者の人にルカを紹介するため避難所の中央へ向かった。
疲れた様子の主導責任者さんに声をかけ、今の状況を伝えシールドを確認してもらう。
「本当に……これを1人で……?」
彼が驚くのも無理はないと思う。十数人がかりでも穴だらけのシールドを敷くのに精一杯だったのにたった1人がこれほどのシールドを作ったなんて聞いたら普通は状況を疑うよね。
ただ、これでひと段落かと思いきや、俺の想定していた最悪がおきてしまった。結界を張る避難所の中心には、協力者として魔法を使えるうちの学校の生徒も数多くいた。彼らはルカを見た途端
「邪竜だ!」
「魔獣だけでもやばいのになんでこいつまでいるんだよ」
と騒ぎ出し、怯え出す人が続出して瞬く間にパニックが広がった。
「……っ」
邪竜という言葉を聞くたびに、暴走まではいかなくてもルカの魔力圧が膨らむのを感じて俺は心が砕けそうな気持ちになる。だけど頑張ってくれてるルカにこれ以上酷い言葉を浴びせたくなくて俺は前に出て声を張り上げる。
「皆!ちゃんと見て!ここ一帯を囲んで皆を守ってるシールドはルカが作ってくれたものだよ!」
俺の言葉が届いた数人は魔力探知から先ほどまでと違い完璧なシールドが広場を覆ってることに気がつき、驚きからか罵声を止める。
「ルカは、怖い子じゃないよ!こうやって自分の力でみんなを守ってくれる優しい子だから、噂だけでそんな酷い事を言うのはやめて!」
ただの演説なら、こんな混乱した状態で一個人が群衆の気持ちを変えることなんて不可能だろう。だけど、ルカが矢面に立って人を守ってくれてる手前俺だけが楽をするわけにはいかない。俺は手袋を外した手をさりげなく前に掲げ、夢魔の能力器官が集中してる指先に魔力を伝える。
俺が、夢魔が得意な精神魔法の応用の鎮静魔法。人の心の荒立ってるところだけを少し弄って大人しくさせるそれは、加減を間違えたら俺が夢魔だってことがバレてしまう。だけどこうやってうまくやれば興奮を落ち着かせて言葉を届けることができるものだ。
俺の指先から伝わるほんのり甘い香りが周囲を満たしていくのにつれて、次第に彼らの声が変わっていく。
「確かに……あの子が何かしたのは見たことはないかも」
「伝説の邪竜は怖いけど、あの人はシールド張ってくれてるし……」
緊急事態の不安の中、誰が見ても完全に安全なシールドはそれだけで人々の心の拠り所になる。その安心感が後押しとなったのか避難所内のパニックも徐々に収まり、次第にルカの魔力圧も下がっていった。
それを確認した後、俺は手袋をはめ直しルカの顔を覗き込む。ルカはまだ自分に向けられる様々な視線が具合悪いと言った表情ではあったけどさっきまでの張り詰めた表情ではなくなっていてホッとする。
「我慢してくれてありがとう。ルカは偉いね」
そういって優しく前髪に触れるとルカはいつもみたいに頭を下げて撫でやすい位置に持ってきてくれる。
「……あいつらはどうでもいいけど、フレンとの、思い出、守りたかったから」
(言ったこと覚えててくれたんだ……)
いつか他の人の事もルカが大切に思えるといいな。でも今は、きっとこれでいい。俺の選択に巻き込んで傷つけてしまった、可愛い後輩の気が少しでも紛れる様に、俺は精一杯心を込めて労った。
◇
「魔獣は10体、いずれも凶暴で中でも大型の4体は危険種……だとよ」
シールド騒動の間、姿を消してたカイが帰ってきて伝えてくれた情報は中々の衝撃だった。
「10体も……?それも大型もいるなんて、クロード、大丈夫かな」
クロードが強いのは分かってるけどそれでも心配は消えない。
「まあ、魔獣討伐課も動いてるだろうし、あいつならそんなにヤバいことにはなってねぇだろ」
そう言って俺の背中を叩くカイの手はいつもより優しくて、少しだけ心が落ち着いた。
俺がお礼を言おうか迷って口を開きかけた時
「……っ!おいここから離れろ」
急にカイが叫んで、それに返事をする前に俺はカイに横抱きにされて後ろに飛んでいた。さっきまで俺たちがいた場所を見下ろすと地面から大きなモグラのような魔獣が這い出ている。
モグラと違うところはその鉤爪が舗装された地面もチーズみたいに簡単に引き裂くところだけど。そんな解説してる場合じゃない位、避難所は一気にパニックに飲まれた。
「おい!シールド張ってたんじゃねぇのかよ」
ちっと舌打ちしてルカを睨むカイに
「……下は、忘れてた」
と悪びれもせず答えるルカ。実際俺も避難所の主導責任者さんもみんな地下のことは考えてなかったからこれはルカの責任でもない。
「……叩き潰せば問題ない」
「あ、ルカ待ってそれはだめ!」
ルカの言葉を聞いて、俺は咄嗟に叫んだ。
「……フレンがそう言うなら……わかった」
魔力を手のひらに集めていたルカの動きが止まり俺は胸を撫で下ろす。
俺がルカとペアを組んでから一つわかったことがある。それはルカは手加減がとても苦手だということだ。ルカはどんな魔法でも使えるという点では天才と言っても過言じゃないけど、その威力の調整に関しては滅茶苦茶な不器用を発揮する。ペア授業の時も俺はいつも手加減をお願いしてるのに、ルカの攻撃で死にそうになってるくらいだ。
だだっぴろい草原とかならルカの攻撃で問題ないけど、ここは人が密集する避難所だ。ルカの大ぶりな攻撃が人に当たって怪我でもさせたらそれだけで彼の悪評が広まってしまう。それはなんとしても避けたかった。
「ルカはシールドの維持に専念して!ここは俺とカイでなんとかする」
「おい!勝手に決めんな……ったく、仕方ねえなぁ、後でなんか奢れよ」
魔獣から距離をとりつつ、俺はカイと並んで様子を伺う。
「あれ多分大型だよね?あの大きさの魔獣を捕縛する術式、ここにいる人だけでできるかな?」
「無理だろうな、せいぜい足止めってとこだ。だがまあそれができりゃ、なんとかはできる」
ちなみにルカに捕縛術式をかけてもらう案もあったんだけど、ルカの魔力は強過ぎるから敏感な魔獣には罠だって気付かれる可能性の方が高いので今回は見送ることにした。
そんな検討を経て最終的に決まった作戦、まずは魔術を使える生徒を集めて作った捕縛術式を展開し、その場所までカイが魔獣を扇動。
そして魔獣が術式内に入り身動きが取れなくなったところを……
「捕縛術式完成!カイ!いつでもいいよ!」
「これ使うと次の日怠いから嫌なんだけどなっ」
夜なのが幸いして、カイの肉体強化術式が強力に発動する。ワーウルフの月の加護だ。
カイは軽い助走をつけると、家くらいの高さにあるモグラ魔獣の頭部付近まで跳躍する。そのまま全身をしならせ魔獣の頭に強力な蹴りをお見舞いする。
大きな鉤爪で周りを破壊していた巨獣はその衝撃でぐらりとバランスを崩しよろめく。
「やった!すごい!」
俺は捕縛術式を維持しながら思わず呟いた。が、魔獣側もそのまま倒れてはくれない。捕縛術式が自身の邪魔をしていることに気がつき術者の方に攻撃を仕掛けようと踵を返す。
「やば……っ」
その、石壁も砕くその鉤爪が俺たちに届く寸前――
「大人しく寝とけ」
再度跳躍していたカイが、先ほどより回転の勢いをつけた蹴りを魔獣の顎付近にお見舞いする。
骨の折れる様な嫌な音と共に地面に叩きつけられた魔獣はピクピクと痙攣したのち動かなくなり、その隙にルカが固定式の捕縛術式をかけてくれた。脳震盪も起こしているだろうしきっともうしばらくは起きてこないだろう。
「あー、今の時点で怠いし、これ以上は働かねえからな」
強化魔術は元々の身体能力に依存してバフをかけるものだ。さっきの威力からカイの高い身体能力を底上げした反動がきているのは想像に難くない。
「かっこよかったじゃん!いつもあんなに真面目ならカイってもっとモテそうだよね」
「なんでお前はいつも一言多いんだよ。まあでも、俺なりにやれることはやったわ」
俺はカイに駆け寄って労いの言葉をかけつつ、シールドの外、鬱蒼とした夜闇に目を向ける。
今の捕縛劇で歓声に沸く避難所の中、俺はたった1人でこんな危ない相手と戦っているであろう幼馴染の姿を思い浮かべ、その無事を静かに祈った。
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