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2年2学期
26話: 文化祭、騎士と邪竜の共同演目 ⑧
しおりを挟む『隠さなきゃいけない種族……例えば……"夢魔"、なんじゃない?』
その単語が耳に入った瞬間俺は思わず手を振りかぶって、ジンの頬を引っ叩いていた。
「いたた……、あはっ、もしかしてとは思ってたけどやっぱりそうなんだ?フレンのこと、また一つ知れて嬉しいな」
やってしまってから、俺は最大の失敗を犯した事に気がついた。そう、1番知られてはいけない相手に、秘密を知られてしまったということに。じんじんと痺れる手のひらの熱を感じながら後悔するけどもう遅い事は自分自身が一番よくわかっていた。
「そ、そんなこと知って……どうするつもり……?」
鏡を見なくてもわかる、今俺の顔は真っ青だろう。
「どうすると思う?フレンはどうして欲しい?」
まるで掌の上の鼠を見る猫の様な瞳でジンは俺に笑いかける。
「あんたの……ジンの、望みは……何?」
俺が1番恐れていることは、俺が夢魔の血を引いてることが周りに知られること。勝手なイメージでレッテルを貼られ、俺という個人を誰も見ずに気色悪い理想を押し付けられる生活。俺が幼い頃からずっと漠然と感じていた恐怖……それが現実味を持って目の前にある今、絶望感に眩暈がする様だった。
「えー?フレン、俺のお願い聞いてくれるの?嬉しいなぁ……俺もっとフレンと仲良くなりたいから……」
そう言ってジンは心底楽しそうに続ける。
「連絡先交換して欲しいな?」
まるでお願い事のような口調で告げられたそれには、言葉の軽さと反比例した重みがある。俺に断る選択肢なんてないのを知った上で俺から了承の言葉を引き出そうとするやり方にジンの性格の悪さを感じた。
俺は震える声で連絡先を告げ、目を伏せる。ジンの細長い指が背筋をなぞる感覚がゾワゾワして落ち着かないけれど、抵抗する気も起きなくてそのままにしていたその時――
「……フレンに触れるな」
押しつぶされそうな魔力圧と共に物凄い力で引っ張られ、気がついたら俺はルカの腕の中にいた。その横にはクロードも立っている。
「……知り合いか?」
いつもより低い声でクロードが俺に尋ねる。
「……ルナソールの監督」
名前も言いたくなくて、端的に答えた言葉だったけれどクロードは俺の言いたいことを理解したようで
「あいつが……例の……」
とジンを睨みながら呟く。その横でルカが特大の不機嫌を隠さずジンに向けて口を開く。
「……今度こそ……消す」
そのままルカが魔力を掌に集めるのに合わせ、俺は周囲の空気が歪むのを感じた。
「わぁ!怖いなぁ……でもいいの?他校交流の生徒と暴力沙汰なんて……」
ジンの言葉で俺はハッとする。そうだ、これは学校行事で相手は客という立場だ。ここで問題を起こしたら一気にルカの立場が悪くなる。いくら相手に非があったとしても、最悪の場合退学の可能性もある。
「ルカ!だめ!やめて!」
咄嗟に俺はルカが魔力を集めてる手のひらを握りしめて止める。反動でルカの魔力のかけらが手首を掠めてうっすらと血が滲んだ。
「……あ」
それをみた瞬間、誰が見てもわかるほど動揺して、ルカの魔力圧が一気に萎む。
「……フレン、俺、怪我させるつもりじゃなくて……」
さっきまでの威圧感が嘘のようになくなり、血の気の引いた顔でオロオロとするルカに
「そんなに痛くないから大丈夫!ほら、そろそろ時間だし会場戻ろ?」
俺は安心させるように笑いかけ、これ以上のトラブルが起きる前にこの場を後にしようと提案する。
「うーん、今日はここまで、かな?魔法演舞楽しみにしてるよ……またね、フレン」
一瞬近くで歌うような軽い声が聞こえ、俺がそれを振り返った時にはもうジンはいなかった。
「フレン、腕を出してくれ」
クロードが俺の手を取り小さく詠唱すると傷口は跡も残さず消えた。
「ありがと……本番前だから助かる」
「あいつと何かあったのか?」
海色の瞳が俺を真っ直ぐ見つめる。幼馴染だからかクロードは俺の様子が変だとすぐ気がつくみたいだ。だけど、こんな本番の直前に余計な心配をかけたくなくて俺は
「ちょっとね。ストーカー的なナンパされて疲れちゃった」
とだけ返す。夢魔の件についてはまた今度落ち着いた時に相談しよう。
ジンとは思ったより長く話してしまったらしく、気がつけば演舞の開幕時間が迫っていた。俺は薄暗い渡り廊下を振り返らず二人と会場に向かった。
◇
色々とトラブルはあったけれど、魔法演舞は予定通り開始する事ができた。
俺は舞台端でルカとクロードの演舞を眺める。客席は満席どころか立ち見までいて、この時点でかなりの評判だっていう事がわかる。ただあの人混みの中にジンも紛れてるんだろうかと思うと気が重い。去り際の言葉から、彼もきっとこれをどこかから眺めているんだろう。
「考えても仕方ない、今は目の前のことに集中!」
俺の出番はラスト数分、ただ立ってるだけだけど、それでもこの演目に協力してくれたみんなの努力が身を結ぶように俺も全力で姫役をやるだけだ。
舞台の上ではクロード扮する騎士が魔術師役のルカの魔法攻撃を流麗な動きで捌いている。ルカの攻撃が昨日より火力が高くなってる気がするのは、さっきのジンとの遭遇で感情が昂ってるからかもしれない。対するクロードの動きも普段より力強くて演技だとは分かっていても目が離せなかった。
本番前のイレギュラーな出来事による鬱憤を晴らすかのようなルカの動きに合わせられるのはきっとクロードくらいだろう。観客席はその迫力のある両者の激突に歓声を上げている。ジンのちょっかいは良くないことだったけど、結果としてルカのやる気に火がついたことだけは良かったのかもしれない。
たくさんの練習の成果あることは大前提だけど、今目の前で行われてる演舞は、2人の息がぴったりあってると思う。今日までの間全く2人の関係は良くならなかったけど、ここまでのものが作れるようになったことに俺は一種の達成感を覚えた。
ルカとクロードの演舞が最高潮を迎え、ガネマルから俺に合図が来る。俺は立ち位置に陣取り、深く息を吸い込んだ。補助術師の魔法で宙に浮かんで見下ろした会場は練習と全然違って、その熱気に吸い込まれそうになる。
激突する騎士と魔術師をその美しさで鎮める姫。頭の中のイメージをできるだけなぞりながら俺はルカの頬を撫で、クロードの腕に手を絡める。シナリオ通りに大人しくなった2人と共に、最後の演出である魔法でできた階段をゆっくりと降りた。
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