穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

文字の大きさ
34 / 131
2年2学期

34話:完璧優等生騎士の独白③ sideクロード

しおりを挟む
 カイと話をしたその足で、俺はフレンの部屋の扉をノックして声をかけた。

「この間のこと、話がしたくて……少しいいか?」

 フレンは少し驚いた顔をした後、そのまま俺を自室に案内しようとしたが俺はそれを断りフレンを寮の庭に連れ出した。
 誰かに聞かれたい話ではないけれど、部屋という密室ではフレンに逃げ場がない。俺はフレンに何かするつもりは全くないが、それでもフレンに危害が及ぶ可能性を限りなく排除したかった。俺は俺を一番信用していないから。まあ、俺の方がフレンより足も早く力も強いからこの場所の設定も気休めでしかないのかもしれない。それでも俺はフレンと対等に話をしたかった。

 フレンと俺は庭に置いてあるベンチに少し離れて腰掛け、そして

「この間はすまなかった」
「この間はごめん」

 と同時に言葉を口にした。一瞬間が空いて俺達は顔を見合わせ今度は無言が続く。

「その、あの時……フレンを否定するような事を言ってすまない。」

 何度目かの言葉のお見合いの末、やっと俺は言いたかった事を言葉にする。

「きっとあの時だけじゃなく、今まで俺はずっとそういう事を繰り返してフレンを傷つけていたよな。それも含めて謝りたい。」

 カイから言われて、俺はあの日のフレンの発言はきっと昔からフレンが思っていた事だと気がついた。でもきっと、フレンは優しさからずっと我慢していたんだろう。

「俺の方こそごめん。あの日は凄くイライラして、悔しくて、クロードのせいじゃないのに八つ当たりした」

 俺の言葉に応えて、フレンが申し訳なさそうに俺を見上げる。確かに言葉自体はショックだったけれど、あれはフレンが悪いわけじゃない。

「あのね、俺、何かあった時に逃げることしかできない弱い自分が嫌……だけど弱い自分も多分本当の俺で」

 "本当のフレン"。フレンは昔からその事を重要視してるようだった。俺にとってはフレンは全てフレンでそれに本当も嘘もないけれど、きっとフレンが言いたいのはそういうことではないんだろう。

「俺、弱い自分も受け入れたい。好きになれるように頑張りたい……だから」

 フレンの手が俺の手に重なる。柔らかな掌から伝わる体温が俺の背筋をゾワゾワと刺激するが、俺は表情を崩さずフレンの言葉を待つ。

「いつも、クロードが俺の事助けてくれるのは、ありがたいし凄く感謝してる。でも」

 フレンの言葉に、手から伝わる生理的な刺激が一気に冷え込み心が固まる。俺はフレンが言いたい事を正面から受け止めるつもりでこの場に来ている。だが、そうであってもまた否定されるんじゃないかという恐怖が頭を覆う。フレンの淡い紅色の唇の動きが何よりも怖かった。

「それだけじゃなくて、俺、1人でもなんとかできるようになりたい。困った時助けて欲しいのは変わらないけど、守られるだけじゃなくなりたい。だからクロードが全部やるんじゃなくて、見守って欲しい」

 ちょっと甘えたような声色で口に出されたその言葉は、フレンの自立したい心と、俺とこの後も一緒にいたいという気持ちが込められていて、最後まで聞いてやっと俺は生きた心地がした。

「わかった。協力する。でもフレンが困っている時は俺が、いや俺を頼ってくれると嬉しい」

 守りたい……前までならきっとそう言っていたが、それでは今までと変わらない。口に出そうになったそれを押し込めて俺はフレンに笑いかける。

「ありがとうクロード……大好き」

 そう言って俺に抱きついてくるフレンからは、いつもと変わらない全幅の信頼が伝わってくる。片腕で簡単に包みこめるその小さな体を、決して壊してしまわないよう気をつけ、俺は震える手でそっと抱きしめ返した。

 ◇

「今日はクロードと一緒に寝たい」

 話し合いが終わった寮の庭からの帰り道、フレンが発したその言葉はどんな攻撃より重く俺に響いた。

「……だめ?」

 咄嗟の事に言葉が返せず無言になった俺を見上げ、フレンがこてんと首を傾げる。長いまつ毛に彩られた薄灰色の瞳が甘えるように潤んでキラキラとこちらを見つめてくるその破壊力は言葉で表せるものではない。

「………………、いいぞ」

 好きな相手からの、そんな言葉をうまくかわせるほど俺は大人でもないし、人間ができてもいない。俺にできることは、精一杯の理性を動員しフレンを安心させるように笑いかけ、なんでもないことのように返事をする事だけだった。俺の回答に心の底から嬉しそうにしているフレンの中に一切の他意がないのはわかっている。それでもこの誘いは思春期の男にとっては恐ろしい程の激情を誘うもので、それに気づかず無邪気に笑うフレンの愛らしさとその無垢故の残酷さに眩暈がした。

 ◇

「クロードの部屋久しぶり!いつ見ても片付いてて凄い……ねえこれ何?新しいトレーニング用具?」

 ぴょこぴょこと跳ね回るように俺の部屋を見回し話しかけてくるフレンに

「この間先生に勧められて、使ってみたらなかなか良くて気に入ったんだ」

なんて、脳の表面で処理できる返事を反射で返すが、俺の内心はそれどころではなかった。

 庭から帰った後俺達は一旦別れて自室に戻った。そうして部屋着に着替えて俺の部屋にきたフレンはいつにも増して無防備だった。フレンの体質を考慮して露出が極力減らされたデザインのそれは、上着は大きめでもこもことしているのに、下半身は短い丈の生地と脚のラインがわかるタイツのような素材に覆われていて、目に毒と言う他ない。

「クロード!早くー」

 早速寝る準備に入ったのかなんの抵抗もなく俺のベッドに潜り込んでパタパタと脚を揺らしながら俺を呼ぶフレンに他意はない。しかし、だからこそその純粋な姿が俺の生理的な欲求を掻き乱す。俺が絶対に何もしないという、いや、そんな発想すらない無垢な信頼。それを裏切る事は即ち死を意味するほど重い。

 正直返事がうまくできたかもわからないが、俺はフレンの言葉に従って、怪しまれないように横になる。当然のことだが、フレンの方は見れない。これが俺のできる最大限の抵抗だった。だけどじんわりと背中の方から伝わる俺より高い体温が、かえってフレンの存在感を際立たせて、肉体的にも刺激してくるのでそれも気休めでしかない。

「俺ね、ここ最近クロードと話せなかったの寂しかったんだ……だから今日はたくさん話そ?」

 フレンからのその言葉は、勿論嬉しく、俺にとっても完全同意ではある内容なんだが、それは日中ではダメだったんだろうか?幼い頃にたまにこうやって一緒に寝て過ごしたことがあるからきっとフレンにとっては今夜もその延長線上に過ぎないのだろう。俺にとっては限りなく精神力を試される機会ではあるが、これがフレンからの信頼の証だと思うと甘んじて受け入れる他ない。フレンの話に耳を傾けながら俺は心の中で自分にそう言い聞かせた。

 ◇

 一時間程話しているうちにフレンは眠ってしまったらしい。いつもはキラキラと輝いている大きな瞳は閉じられ、すぅすぅと小さな寝息が聞こえる。俺はフレンにバレないように距離を取り、衝動を抑えつつ目を閉じた。考えるのは文化祭の夜のあの言葉のこと。

『俺はクロードに守って欲しいわけじゃない……っ』

 頭の片隅ではわかっている。フレンが俺に向けたこの言葉は、俺が踏み込むべきじゃない場所への警告だったのだろうと。だが、謝罪が受け入れられ、フレンの許しを得た今もどこかでこの言葉を拒絶したいと思っている自分がいる。何故ならフレンは俺の全てで、フレンを守ることは俺の存在理由だから。それがフレンの望みとずれている、間違いだとわかっていても、心がそれを手放す準備は、まだできていない。

 背中に伝わるフレンの体温は蠱惑的で心地がいい。だけど今の俺にとっては地獄の業火にも感じられる。今夜は新月だ。光のささない暗闇の中で俺はどんな顔をしているだろう。それは俺自身にもわからなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。 ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。 最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。 乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。 見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。 **** 三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。 ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...