穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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3年1学期

55話: 春は出会いと波乱を連れて④

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「ル、ルカ……今の話って本当?」
「……何が?」

 エリオ君の衝撃の告白の真相を確かめようと、俺はルカを振り返ったけれど返ってきたのは他意のない、きょとんとした返事だった。

「何がって、エリオ君がルカの弟だって話しかないじゃん!なんで今まで言ってくれなかったの?」
「……言う必要ってあるの?」
「あ……」

 ルカのこれは別に拒絶とかではない。純粋に、ルカは兄弟が入学してペアになったと言うことを俺に伝えるという発想も、その事に思考を割くことも本心から必要としていないだけというのが俺にはわかった。俺の前のルカは割と素直で色々話してくれるから、一緒にいると忘れがちだけど、彼は元々そういう感じではある。自分の強さと、彼にとっての初めての友達である俺に対しては関心があるけど、それ以外には興味がない。でもだからといって、流石に実の弟に対してすらこれって……と言いかけて

 (そっか、ルカの家族って……)

俺は前に聞いた話を思い出していた。竜族の異端、邪竜として両親からも忌み嫌われていたルカが、弟とはいえエリオ君と良好な関係だったとは考えずらい。俺はなんて声をかけていいのか、それともかけるべきでもないのかわからなくて口を閉じるしかなかった。

「……そうやって、僕を見てすらいない、そういうところが昔から……」

 エリオ君が小さく何かを呟いたけど、考え込んでた俺にはよく聞き取れなかった。
 授業が終わったのに動かない俺達に気がついてミチル先生が声をかけにくる。
 それ以上深く話をすることもできずにその日のペア授業は曖昧なまま終わりを迎えた。

 ◇

「お守り授業どうだったよ?」

 疲れ切った俺の顔を見たカイが、机に座って話しかけてくる。話さなくても散々だった事はわかってるだろうけど、話す糸口を提供してくれたのだろう。カイは結構そういうところがあるから、俺は少しそれに甘える事にした。

「は!?あいつ弟いたのかよ……てかそりゃもう授業どころじゃねえだろ、何考えてんだどっちも」
「……だよねぇ、でもさ、なんか俺何もいえなくなっちゃってさ」

 俺が思ってた事を全て代弁してくれる言葉に頷くことしかできない。やっぱり誰が聞いてもそうだよね。俺は、カイには悪いけど、頭痛の種を人に共有できた事で少しだけホッとした。

「まあでもよ、規模はともかく授業はまともにできてたんなら、もう面倒見なくてもいいんじゃねぇか?」
「うーん、それもそうなんだけど」

 カイの言い分はもっともだ。ミチル先生の懸念である、ペア決めの時の様なトラブルが発生しなかった以上これ以上は俺が監督する理由はない。今日の報告の時そう伝えることもできたんだけど――

「ルカの、家族の事はどうにかできないけど、弟のエリオ君との関係くらいは、何かできないかなって思ってさ」
「……お前、なんでそんな地雷原に突っ込むの好きなんだよ。去年で懲りるだろ普通」

 確かに、これは去年のクロードとルカとの関係より、危険も根深さもある問題だ。だけど、高飛車で傲慢だけど構ってほしいエリオ君と、構われたがりなルカに似たところを感じた俺は、根っこの部分では分かり合えるんじゃないかなって少しだけ思ってしまった。家族が全てではないし押し付けるべきでもないけど、それでももし何かが掛け違って今の関係になってるだけなら、先輩としてそれを治す手伝いくらいはしたい。

「……ということで、もう少しだけやってみたいから、休んでる分のフォローよろしく、カイ!後でお礼はするから、ね?」
「っ、お前、……はぁ、仕方ねぇな。その言葉覚えとけよ。」

 人にお願いする時は満点の笑顔でしなくちゃね。にっこりと笑う俺に悪態をつきながらもカイは了承してくれる。お礼に何を要求されるかは不安だけど、とりあえず集中して取り組める環境はできた。明日もペア授業はあるというか、この時期は毎日必ずあるので、お節介かもしれないけど、ルカがより楽しく過ごせる様に俺は明日からの計画を練るのだった。

 ◇

 それから毎日、俺はペア授業の監督として参加した。基本的に一緒に授業に参加して、そしてルカだけじゃなくエリオ君にも必ず声をかけた。隙あらば俺に抱きついてくるルカをかわしながら、俺は挨拶以外に雑談も交えて色々とエリオ君に話しかけたけど結果は総スルー。想定はしてたけど、エリオ君のこの態度はなかなか頑固だ。
 でもそんな事気にしてても仕方ないし、俺が変わらずエリオ君に声をかけていたら

「兄さんだけじゃ飽き足らず、僕にまで媚びて、弱いってそんなに大変なんですね」

と、話の内容にはかすりもしない、純度100%の見下しを込めた返事が返って来た。声色は冷たく、鋭利な言葉だったけど俺はそれに一つ引っ掛かりを覚える。

「俺別に媚びてないけど、そう聞こえた?」
「弱い上に、言い訳までするとは呆れました。僕を持ち上げた言葉をかければ兄さんみたいになるとでも思ってるんですか?」

 授業中に俺がエリオ君にかけた言葉は、挨拶と授業で使った魔法に対する感想だけだ。特におべっかなんて使った覚えはないし、ルカみたいにって言葉の意味もわからない。

「だって、エリオ君が凄いのって本当でしょ?俺あんな正確な詠唱初めて見たよ。術式もいつも綺麗だし……」
「ほらまたこうやって僕の気を引こうとしてっ……考えが浅はかなんですよ」

 受け答えの微妙なズレ、違和感を感じた俺はある可能性に気がつく。

 (もしかして、エリオ君って褒められ慣れてない……?)

 こんなに優秀で、入学時主席だったと聞いてる彼が褒められてないわけないんだけど、そうじゃないとこの反応は説明がつかない。ルカに対する態度も、邪竜を忌み嫌ってるからというだけではない気がしてたけど、なんとなくここにヒントがある気がする。それなら――

「エリオ君を凄いって思うのは俺の自由でしょ?俺は別に気を引きたいわけじゃなくて凄い事はすごいって言いたいだけ、だからこれからも言うね?」
「はぁ!?屁理屈ですか?弱い人って言葉ばっかり達者ですよね。」
「弱くても、自分の言葉を言うくらいはできるよ?」

 俺は、俺の言葉で自分の気持ちを表明した。これが正解な選択肢なのかはわからないけど、俺がこうしたいから。弱い人を嫌うエリオ君のことだから、俺はまた何か強い言葉が飛んでくるかなとは思ったけど

「……、弱かったら、言葉なんて意味ないんですよ」
「え……?」

返ってきたのは、俺には意味がよくわからない小さな呟きだった。いつもの高慢なそれではない、ポツンとした独り言みたいな言葉。聞き返す前に背を向けたエリオ君の足は早くて俺は追いつくこともできずにその場に立ち尽くした。
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