穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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3年1学期

75話:体育祭、種族混在大波乱の行方は ⑤sideエリオ

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 「……っ!?」

 全てを押しつぶすような魔力圧に、本能が警告したけれど遅かった。

 教室に入ると同時に兄さんは無詠唱で僕を壁に叩きつけた。咄嗟のことに受け身が取れず僕は地面に転がる事しかできない。今の衝撃で翼の顕現も解けてしまった。

「エリオ君っ!?」

 僕に駆け寄ろうと立ち上がった先輩の姿が後ろ向きにぐらついてその場に留まる。なぜなら、兄さんが先輩の腕を引いてそれを邪魔したから。

「ルカ!なんでこんな事……離して!!」
「フレン、すごく綺麗」

 いつもはゆっくりとした話し方の兄さんが、酩酊したような滑らかさで言葉を発する。そのまま先輩の背中に広がる羽を、この表現でいいのかわからないけれど……、愛おしむように撫で始めた。
 最初は抵抗していた先輩も兄さんの異様さに気がついて大人しくなる。

「ね、ねぇ、ルカ……何してるの?どうしてここに……?」
「……フレンがいないって言われたから」
「誰が?俺を探してたって事……?」
「……フレンと同じ服着てた」

 きっと、騒ぎの中帰ってこない先輩を探して、チア仲間の人が先輩の去年のペアである兄さんを頼ったのだろう。

「みんなに心配かけちゃった……。ルカ、俺は体調不良で戻れないからって連絡お願い」
「なんで?」
「え……?」

 先輩の申し出は当然の内容で、僕もさっきの流れでそうなると思っていた言葉だった。だけど兄さんは澱みなく続ける。

「フレンは俺といればいい。結界がいるなら俺がもっといいのを作れる」
「そ……そういう話じゃ……ルカ、どうしちゃったの?」

 これを見て、僕は話が全く通じていないのを感じる。やっぱり邪竜は邪竜だ。自分の感情を優先して全てのルールを無視して動く。

「ねぇ!ルカさっきから変だよ!やめて!離して!!」
「なんで?だってフレンは……」
「やめっ……」

 兄さんが先輩を床に押し倒す。その衝撃で教室の床が軋み、二人の体が重なり合った。
 その絶望的な光景に、僕の目の前が真っ暗になりそうなその時――

「………っ、エリオ君、なるべく顔を覆って、できれば耳も塞いで」

 僕の耳に、張り詰めたような先輩の言葉が届いた。それが何を意味しているのかわからなかったけれど僕は預かっていたハンカチを口に当て、両手で耳を塞ぐ。最後に一瞬見えた光景で、先輩はいつもつけている手袋を外していた。

 ◇

 何も聞こえないままどれだけ時間が経ったのかわからない中、ふいに背中に触れられる。
 優しい触り方に、それが先輩だと気がついて僕が目を開けると目の前で兄さんが倒れていた。

「……え?」

 そのあり得ない光景に思わず言葉を失う。何が起きたらこんな事になるのか、僕には全くわからなかったから。

「初めてこんなに強く力を使ったから、多分しばらく起きないと思う」

 先輩の一言で、先輩が何かをして兄さんを眠らせたことがわかった。だけどそれもにわかには信じられなかった。竜族である僕ですら歯が立たない兄さんに、先輩の魔力でこんな事ができるはずがない。

「気味悪いよね……?警戒されてると使えないけど、奥の手があるんだ。これでも夢魔、だから」

 先輩の背中の羽がきらりと揺れる。反射する虹色が綺麗なのに妖しくて、あまり見てはいけないとわかっているのに目が離せない。
 地面に倒れている僕を立ち上がらせると先輩は兄さんの方に戻って、頭を持ち上げて膝枕する。

「ルカ、どうしちゃったんだろうね。もしかしてルカも騒ぎに巻き込まれて変な状態になってたのかな」
「そう……かもしれませんね」

 正直、兄さんの不意をつける不審者がいるのかどうかわからない。だけど先輩の声の震えから、そう思いたいのだと察して僕は話を合わせる。

「結界もう一回お願いしてもいい?」
「わかりました」

 扉は破損しているけど、僕は外から見えないように隠して結界を張り直す。
 外の騒ぎが聞こえなくなってから結構な時間が経っていた。
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