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3年1学期
83話:ある邪竜の運命論② sideエリオ
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体育祭の日、兄さんは明らかにいつもと様子が違っていた。
邪竜だから常識の範囲外の行動をするのは想定内だけれど、フレン先輩の言葉さえ無視して動いていたのは明らかな異常だ。
邪竜らしいと言えばそれまでだけれど、僕は兄さんの先輩への異様なまでの執着のヒントがそこにある気がして、生家に一時帰宅することを決めた。
丁度両親は不在で、僕は使用人に話をつけて兄さんが幼少期に封印されていた書庫に足を運ぶ。
前に先輩が、兄さんが本屋に行っていたと話していたから、安直かもしれないけれどここに何かあるのではと思った。
うちの書庫は魔導記録式で、現物の本の他に魔法で記録されたデータの本が貯蔵されている。
ここに入っている本は竜族に関するものばかりだ。特に魔力による焼けがあるあたりがきっと兄さんの読んでいた本だろう。
僕はそう当たりをつけてタイトルを見ていったけれど、書庫にあるのはどれも邪竜に関する本で、幼少期にこんなものばかり読んでいた兄さんの心理状態を考えるとゾッとした。
その中で一冊分、空白が見つかった。誰かが、いや、おそらく兄さんが持っていったのだろう。……うちの書庫に両親は近寄ろうとしないから。
その記録データを呼び出し、本を開いて読み終えた僕は絶句する。
「まさか、兄さんはこれを読んで……」
恐ろしい発見に、全てのピースがはまって真っ暗な闇の絵が浮き上がる感覚がした。
僕が見つけたそれは、世にも珍しい、邪竜が救われる話。邪竜が夢魔に出会って、幸せになる物語だった。
◇
僕は今まで、いくら執着した相手でも、邪竜が言うことを聞く存在なんていないと思っていた。
なぜなら邪竜は全てを捻じ曲げる力を持っているから。何かに従う必要がない。たとえ相手からどう思われようとそれすらねじ曲げられるのが邪竜だ。
だけど、唯一の例外、邪竜にも従うものが一つだけある。
――それは運命だ。
どの物語でも邪竜は運命には逆らえずその一生に幕を引く。
「そんなこと……でも、辻褄が合ってしまう……」
無音の書庫の中で僕の心臓だけがうるさい。無視してしまいたい真実がどんどん整合性を持って頭の中に広がっていくのを感じた。
兄さんは、きっと先輩を運命そのものだと信じ込んでいる。
先輩が、兄さんに手を差し伸べたから。
そして、先輩がたまたま夢魔だったから。
どちらかだけならこんな事にはならなかっただろう。だけどたまたまそのどちらも持って先輩は兄さんの前に現れてしまった。
だから、兄さんより圧倒的に弱い筈の先輩の言葉は兄さんにとって絶対で、どんなに兄さんの意に反していても最終的には従う。
「……なぜならそれが運命だから」
側から見たら子供みたいな理論だけれど、全てがこの一言で説明できてしまう。
こんな事を知ってどうしたらいいかなんてわからない。
邪竜に僕ができることなんてない。
僕に先輩を助けることなんてできない。
だけど、それでも、知ってしまったからには、見て見ぬ振りはしたくなかった。
正義感なんかではない、先輩への名前をつけてはいけないこの感情の為に、僕は家を後にして兄さんのところに向かう事に決めた。
◇
寮の一室、兄さんの部屋まで来た僕は扉をノックする。予想通り返事はない。だけど鍵はかかっていなかった。
「兄さん。失礼します。……っ!!」
扉一枚隔てただけでそこは異質な空間だった。
最低限の家具、寮の作り付けのベッドには掛け布団すらないような、生活感のないそこに本棚が一つだけある。
その本棚には隙間なく本が並べてあり、その全てが例外なく夢魔に関するものだった。
この世界への全ての関心を切り落としたような環境の中で、そこだけが異様な熱意を持って作られた執着の結晶。
僕がこの光景に息を呑んでいる間、兄さんは机に座っているだけで僕の方など一切見る気配もない。
本能が警告する。この生き物からすぐに距離を取るべきだと。運良くこちらを無視しているうちに離れるべきだと。
だけど僕は兄さんに言わなくちゃいけない事がある。
僕はこの、邪竜から見逃されている幸運を投げ打って部屋の中に一歩足を踏み入れた。
邪竜だから常識の範囲外の行動をするのは想定内だけれど、フレン先輩の言葉さえ無視して動いていたのは明らかな異常だ。
邪竜らしいと言えばそれまでだけれど、僕は兄さんの先輩への異様なまでの執着のヒントがそこにある気がして、生家に一時帰宅することを決めた。
丁度両親は不在で、僕は使用人に話をつけて兄さんが幼少期に封印されていた書庫に足を運ぶ。
前に先輩が、兄さんが本屋に行っていたと話していたから、安直かもしれないけれどここに何かあるのではと思った。
うちの書庫は魔導記録式で、現物の本の他に魔法で記録されたデータの本が貯蔵されている。
ここに入っている本は竜族に関するものばかりだ。特に魔力による焼けがあるあたりがきっと兄さんの読んでいた本だろう。
僕はそう当たりをつけてタイトルを見ていったけれど、書庫にあるのはどれも邪竜に関する本で、幼少期にこんなものばかり読んでいた兄さんの心理状態を考えるとゾッとした。
その中で一冊分、空白が見つかった。誰かが、いや、おそらく兄さんが持っていったのだろう。……うちの書庫に両親は近寄ろうとしないから。
その記録データを呼び出し、本を開いて読み終えた僕は絶句する。
「まさか、兄さんはこれを読んで……」
恐ろしい発見に、全てのピースがはまって真っ暗な闇の絵が浮き上がる感覚がした。
僕が見つけたそれは、世にも珍しい、邪竜が救われる話。邪竜が夢魔に出会って、幸せになる物語だった。
◇
僕は今まで、いくら執着した相手でも、邪竜が言うことを聞く存在なんていないと思っていた。
なぜなら邪竜は全てを捻じ曲げる力を持っているから。何かに従う必要がない。たとえ相手からどう思われようとそれすらねじ曲げられるのが邪竜だ。
だけど、唯一の例外、邪竜にも従うものが一つだけある。
――それは運命だ。
どの物語でも邪竜は運命には逆らえずその一生に幕を引く。
「そんなこと……でも、辻褄が合ってしまう……」
無音の書庫の中で僕の心臓だけがうるさい。無視してしまいたい真実がどんどん整合性を持って頭の中に広がっていくのを感じた。
兄さんは、きっと先輩を運命そのものだと信じ込んでいる。
先輩が、兄さんに手を差し伸べたから。
そして、先輩がたまたま夢魔だったから。
どちらかだけならこんな事にはならなかっただろう。だけどたまたまそのどちらも持って先輩は兄さんの前に現れてしまった。
だから、兄さんより圧倒的に弱い筈の先輩の言葉は兄さんにとって絶対で、どんなに兄さんの意に反していても最終的には従う。
「……なぜならそれが運命だから」
側から見たら子供みたいな理論だけれど、全てがこの一言で説明できてしまう。
こんな事を知ってどうしたらいいかなんてわからない。
邪竜に僕ができることなんてない。
僕に先輩を助けることなんてできない。
だけど、それでも、知ってしまったからには、見て見ぬ振りはしたくなかった。
正義感なんかではない、先輩への名前をつけてはいけないこの感情の為に、僕は家を後にして兄さんのところに向かう事に決めた。
◇
寮の一室、兄さんの部屋まで来た僕は扉をノックする。予想通り返事はない。だけど鍵はかかっていなかった。
「兄さん。失礼します。……っ!!」
扉一枚隔てただけでそこは異質な空間だった。
最低限の家具、寮の作り付けのベッドには掛け布団すらないような、生活感のないそこに本棚が一つだけある。
その本棚には隙間なく本が並べてあり、その全てが例外なく夢魔に関するものだった。
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僕がこの光景に息を呑んでいる間、兄さんは机に座っているだけで僕の方など一切見る気配もない。
本能が警告する。この生き物からすぐに距離を取るべきだと。運良くこちらを無視しているうちに離れるべきだと。
だけど僕は兄さんに言わなくちゃいけない事がある。
僕はこの、邪竜から見逃されている幸運を投げ打って部屋の中に一歩足を踏み入れた。
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