穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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3年1学期

95話: 夏星祭、吸血鬼との気まぐれな一夜④

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「フレンは今年の他校交流どこに行くの?」
「まだ決めてないけどジンにだけは教えない」

 出店を回ってる途中でこんな質問をされたので、俺はキッパリとこう答える。勝手に行き先を合わせられて遭遇とか絶対嫌だしね。

「それは残念。偶然会える事を期待しとこうかな」
「ジンがそう言うとなんか怖いんだけど……」

 返事と共に返ってくる笑顔がまた怖い。ジンって俺の行動読んでるんじゃないかってくらい遭遇率高いからこの言葉が現実になる可能性に俺は震えた。

(あ……そういえば)

 話の折に、一つ気になることが浮かんだので俺は流れで聞いてみる事にする。

「今年も監督するの?」

 去年ルナソールで見た学園演劇。いまだに鮮明に思い出せるほど素晴らしい出来のそれはジンが監督して作り上げたものだった。

「もしそうだったら今年もうちに来てくれる?」
「絶対行かない!」

 きっと物凄くいい作品になるとは思うけど、だからといってわざわざジンの懐に飛び込む気にはならない。

「フレンは正直だね。まあ俺今年は監督しないんだけど」
「そうなの?なんで」

 今日一日話しててわかったけどジンはかなり演劇が好きだと思う。なのに今年は監督をしないなんてどうしてだろう。あれだけ盛大に発表できる場もそうないのに。

「俺今年で卒業だから、後続を育てる方に専念するんだよ」
「え」

 質問の答えより気になる言葉が出てきて俺は少し固まった。ルナソールは完全4年制な筈なので、ジンの言葉が本当なら彼は先輩という事になる。

「うそ……ジンって年上だったの??」
「同級生だと思ってた?」

 正直そのイメージもないというか、幾つでも違和感がある。まあ年上だとわかっても敬語とか使う気にはなれないから何かが変わるわけじゃないけど。

「それに、楽しかったけど学園演劇だと脚本の自由度が低かったから」
「そうなの?いい話だと思ったけど……」

 暴君の邪竜が聖女と出会って改心し、聖龍として素晴らしい王様になる物語。ハッピーエンドで素敵なあれのどこが不満だったんだろう。俺が首を傾げているとジンが急に俺の腕を引いて身を寄せてきた。その急なスキンシップに俺が抗議の声を上げる前にジンは答えを口にする。

「本当は聖女じゃなくて夢魔なんだよ。邪竜を鎮めたヒロインは」

 その一言が聞こえた瞬間、俺は反射的に周囲を見渡してしまった。別に俺の正体の話をしてるわけじゃないのに、夢魔って単語が出ると咄嗟にこうなるのは昔からの癖だった。そしてジンが俺の腕を引いて近づいたのも、(ジンにはこの癖の話はしてないけど)、これがきっと彼なりに気を遣った結果だということが今ならわかる。

「俺はそこも含めてこの話が好きなんだけど、キャラクターのイメージがブレるっていう理由で多方面から声が上がって、脚本を編集する事になったんだよね」

 ジンは口に出さなかったけど、イメージがブレるっていうのはきっと、聖なる乙女と性的なイメージのある夢魔が結びつかなくて誤解が生まれるって意味だということが俺にはわかった。

「珍しいね、そういう物語もあるんだ」
「うん。ちなみにこれは古い伝説だけど、俺は多分本当にあったことなんじゃないかなって思ってるよ」

 そこにはあえて触れずに俺は話を続ける。気を遣われたままなのは居心地が悪いし、同情もされたくなかったから。
 それよりもジンの回答の方が興味深くて、俺は何でそう思うのかが気になった。

「どうして?」
「邪竜も夢魔も本来の性質がベースの描かれ方をしているから。ただの題材として使ったならこうはならないよ」

 その理屈はよくわからなかったけど、これだけ伝承や昔話に精通してるジンがそう言うなら本当なのかもしれない。

「そうだったら、なんかいいな。誰か1人でもちゃんと見てくれる人がいたってことだから」

 遠い昔の誰かが、偏見ではない俺達の本当の姿を記録しようとしてくれたなら、それは少しだけ心の支えになる気がする。

「ねぇ、あの話のタイトルってこの国だと何になるの?探しても見つからなかったんだけど」
「国外のマイナーな伝説だから翻訳版は出てないよ。一応タイトルは直訳すると『邪竜の王と夢魔の姫』になるかな」

 そうなんだ、残念。ちょっと読んでみたかったんだけどな。でもこればっかりは仕方ないしと俺が納得しようとしてたら、ジンが携帯を取り出して何かを開いて見せてくる。

「脚本用に俺が翻訳したものならあるけど、読みたい?」

 ジンからの思いがけない提案に俺は少し固まった。翻訳って、ジンそんな事できるんだ。けど、欲しいって言ったら何か面倒な交換条件出されそうだしどうしよう……。

「そんな顔されると傷つくなぁ。俺フレンには優しいんだけど」

 どうやら俺の感情は顔に出てたらしく、ジンが大袈裟に肩をすくめる。ジンが俺に優しかった事なんてないと思うけど、本当この男はどの口でこんな事言ってるんだろう。俺が突っ込もうか悩んでいたら携帯の通知音が鳴る。

「……え?」
「メッセージに送っておいたよ。心配しなくてもお代なんてもらわないから安心してね」

 本当になんの要求もなく、それを貰えたことに驚きつつ、俺は少し悩みながら口を開いた。

「あ、ありがと。後で読ませてもらうから……」

 それを聞いたジンが今日一番ご機嫌な笑顔を浮かべたから、俺はどんな反応を返せばいいかわからなくなる。ジンって性格悪いのにこういう時だけ行動がスマートで嫌味がないから、俺はいつもペースを崩されてしまう。

「そ、そろそろ夏星の時間だから会場行こ。早めに行かないといい場所取れないし」

 そう言って俺はジンの顔を見なくて済む方向に振り返る。夏星はジンが見たいって言ってたし、これは正当な理由だ。だから俺はそれを盾にしてジンから離れて足早に歩く。ジンはそれに嬉しそうに返事を返しながらゆっくりと着いてくる。

 開いたままのメッセージ画面にはまださっきの受信履歴が点滅していてしばらくこの気恥ずかしい様な気持ちを忘れさせてはくれなさそうだった。
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