「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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本編

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伯爵令嬢フランチェスカといえば、誰もが知る社交界の華であり、一途に愛し献身した婚約者にこっぴどくフラれた不遇の令嬢である。

こんな話が周知になるなどまさに不遇だが、それほどまでにフランチェスカの婚約者への溺愛ぶりは有名であった。

「イシュメル様!差し入れですわ。皆さまと食べてくださいまし」
「また来たのか?」
「もう、またとは何ですの?愛する殿方に尽くすことは婚約者の特権ですの」

次期侯爵である婚約者のため常にひたむきに努力し、自らも忙しいにも関わらず、婚約者へのフォローはかかさない。

美貌とスタイルは言わずもがな、社交も芸事も全て高い評価を保ち、彼に必要な人脈はどんな人間でも邪険にしない。

普段は貴族令嬢として非の打ち所がない澄ました笑みだが、婚約者を前にすれば恋する乙女の顔に変わる。

「わたくし、イシュメル様のためならなんでもしますのよ?」

その献身ぶりは彼女に懸想する男たちも諦めるほどで、彼女に嫉妬していた女たちもいつのまにか感心するようになっていた。

……そんなフランチェスカだったが、よりによって彼女の誕生日の日、

「婚約を解消してくれ」

大勢の来客の前で、婚約破棄をされた。

しかも、フランチェスカの友人たちが彼女にプレゼントを渡し終えたタイミングで話しかけた為に、フランチェスカが『まあ、イシュメル様も何かくださるの?』とはしゃぎ声を直後のことである。

幸せそうな顔で振り返ったフランチェスカは、神妙な顔つきの婚約者とその隣に寄り添う見知らぬ少女を見て、みるみる驚愕をあらわにした。

「な……ぜ…?」
「…お前に申し訳ないと言い出せずにいたが、1年前から私はアイラを伴侶としたいと思っていた。しかしもう限界だ。婚約破棄してくれ、フランチェスカ」

要するに1年も前から二股をかけていたと暴露していた。

まるでフランチェスカの一途な愛を責めるかのような言い草で、見ていた貴族たちは一様に眉を顰めた。
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