「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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「………は?違うのか?」

キョトンとした顔をするイシュメルに、フランチェスカは絶句した。

ルーカス曰く『馬鹿なんですのこの男。男は元カノにいつまでも愛されてると勘違いしているという噂は本当でしたのね。というか愛しのルーくんの前で何言ってくれちゃってますのこのクズ、死にますの?』の顔だ。

「違いますわよ?わたくしは夫一筋ですの」
「こ、この町にいるのは俺を待っていたからでは!?」
「いいえ。ついこの間まで彼と海外にいたのですが、子ができたのでしばらく故郷の近くに住まうことにしましたの」
「子!!?」

5ヶ月ですの、と言いながら腹を撫でるフランチェスカを、ルーカスが優しく抱き寄せる。その姿はまさに家族そのもの。絶句するイシュメルに、ルーカスは愛妻の腰に腕を回しながら目を細めた。

「……そういうことですので、不倫未遂はここまでにした方が良いのではないですか?イシュメル殿」

彼がそう呼んだ途端、周りにいた平民たちの視線が一斉にイシュメルに集中する。それが悪意あっての行動だと言うことは流石のイシュメルにもわかった。

「え?似てるとは思ってたけど、まさかあれ領主様の息子?」
「は?まじ?婚約者いるんじゃなかった?」
「こんなとこで既婚者口説くって……やば……」

まずいと思いフードを被り直したときにはもう遅い。周りからのドン引きの視線に血の気が引いたイシュメルに、その隙を狙い、ルーカスが大声を上げる。

「あ、おまわりさーん!次期領主が迷子だそうなので連れて行ってもらえますかー?」
「…っき、貴様……!平民風情がこんな無礼どうなってもいいのか!?」

大慌てで自分の地位を振り翳し脅しの意味を込めて睨みつけるも、ルーカスは全く動じた様子はない。むしろ挑発するような表情で、ニコリと笑った。

「どうぞ、罰したければ勝手にしたらいかがですか?できればの話ですが」
「……っおぼえていろ!」

イシュメルは情けない捨て台詞を吐き、走ってその場を立ち去った。

フランチェスカは昔好きだったとは思えない視線でその背中を見送り、盛大なため息をついた。

「もう2度と地上に現れないでくれないかしら」
「多分現れないと思うよ?」
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