あなた以外の方に愛されていますので元婚約者はどうぞお幸せに

有賀冬馬

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遠縁の地での生活は、静かで穏やかだった。

私は毎日、本を読んだり、庭の手入れをしたり、刺繍をしたりして過ごしていた。誰にも見られない生活は、最初は孤独だったけど、だんだんと心地よくなっていった。あの日の約束を胸に、私はもっと素敵な女性になろうと決心した。

「いつか必ず、あなたを迎えに行きます」

彼の声が、今でも鮮明に心に残っている。

「本当に、来てくれるのかな……」

不安になる日もあったけれど、彼がくれた青い石を握りしめると、不思議と心が温かくなった。

そんなある日、私の住む小さな館に、突然、見慣れない馬車がやってきた。紋章を見ると、隣国のものだ。馬車から降りてきたのは、たくさんの立派な騎士たちと、一人の上品な女性。

「クラウディア・フォン・ローゼンシュタイン様でいらっしゃいますか?」

女性はそう尋ね、私に深々と頭を下げた。

「はい、そうですが……」

私は戸惑った。こんな立派な方たちが、私に何の用だろう?

「お迎えに参りました。陛下がお待ちです」

女性はそう言って、私に恭しく頭を下げた。陛下? 誰のことだろう?

「あなたを迎えに行くと約束された陛下でございます」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。もしかして、いや、そんなまさか……彼が?

私は急いで馬車に乗り込んだ。心臓のドキドキが止まらない。本当に彼が来てくれたんだ。信じられない気持ちでいっぱいだった。



隣国の宮殿に着くと、そこは想像を絶するほど豪華絢爛だった。たくさんの人が、私を見てざわめいている。

そして、玉座に座る一人の男性。

私はすぐに彼だとわかった。嵐の中で出会った、あの優しい青年。でも、今は皇帝の服を身につけ、威厳に満ちた姿をしている。

「よく来てくれた、クラウディア」

彼は私に微笑みかけ、玉座から降りてきた。

「あなたは……陛下だったのですね」

私の声は震えていた。

「はい。私はこの国の皇帝、アルベルトです。約束通り、あなたを迎えに来ました」

彼は私の手を取り、優しく微笑んだ。

「さあ、クラウディア。私の皇后として、この宮殿で一緒に生きてください」

彼の言葉に、私はただただ頷いた。



皇后として迎え入れられた私は、最初は何をどうしていいか分からなかった。豪華なドレス、宝石、そしてたくさんの使用人たち。すべてが私には場違いなものに感じられた。

でも、アルベルト様は、そんな私を優しく見守ってくれた。

「何も心配することはない。君は、君のままでいい」

彼はそう言って、私にたくさんの教養を授けてくれた。

「この国の歴史は、こうして動いてきたんだ。この国の法律は、こういう思いでつくられたんだ」

私は毎日、アルベルト様からこの国のこと、政治のこと、経済のこと、たくさんのことを学んだ。そして、彼の隣にふさわしい皇后になるために、マナーや社交術も身につけた。

「クラウディア様、本当に美しいですわ」

侍女の一人が、私に微笑みかけた。ドレスも、髪も、化粧も、すべてが私を輝かせてくれた。

でも、私が一番変わったのは、内面だった。

かつての私は、自分の地味さに自信を持てず、いつも下を向いていた。でも、アルベルト様が私の中の美しさを見つけてくれたことで、私は自分に自信を持てるようになった。

「クラウディア、君はもう、以前の君ではない。君は堂々たる皇后だ」

アルベルト様の言葉が、私に力をくれた。私は、自分を卑下するのをやめ、顔を上げて胸を張って歩くようになった。



アルベルト様との結婚生活は、幸せな日々だった。彼は、私のことを本当に大切にしてくれた。

「クラウディア、君の意見を聞かせてくれないか」

彼は、どんなに小さなことでも、私の意見を尊重してくれた。

「私はただの地味な娘ですから……」

そう言うと、彼は優しく微笑んだ。

「地味ではない。君は、私にとって唯一無二の存在だ。君がいてくれるから、私はこの国を治めていける」

彼の言葉は、いつも私の心を温かくしてくれた。私は彼を心から愛するようになったし、彼も私を深く愛してくれた。私たちは、互いに支え合い、この国の未来を築いていくために、毎日を懸命に生きていた。

私の存在は、この国の人々にも知られるようになった。

「皇后様は、本当に優しい方だ」
「陛下と皇后様は、とてもお似合いだ」

そんな声が聞こえてくるたびに、私は嬉しくて、少し照れくさくなった。



そんなある日、故国から一人の使者がやってきた。

「我が国では、政争が起こり、侯爵家が失脚の危機に瀕しております。侯爵家嫡男エドワード様が、陛下に助けを求めておられます」

使者はそう言って、頭を下げた。

エドワード様――。

その名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。あの時の屈辱が、鮮やかに蘇る。

「地味な娘では、家の格が落ちる」

あの言葉が、今でも耳に残っている。彼は、私が地味だからという理由で婚約を破棄し、私の人生をめちゃくちゃにした。

そして今、彼は私に助けを求めている……。

「陛下、どうなさいますか?」

私はアルベルト様に尋ねた。アルベルト様は、私の手を取り、優しく微笑んだ。

「クラウディア、どうしたい?」

私は少し考え、静かに答えた。

「私を蔑んだ彼が、今さら助けを求めてくるなんて……。いえ、でも……」

私は彼がくれた青い石を握りしめた。

「彼が、この玉座の前に立つことをお許しください。私が、直接、話を聞きます」

アルベルト様は、私の言葉に頷いてくれた。私は、もう弱々しいクラウディアではない。私はこの国の皇后だ。

そして、私は、あの時私を蔑んだ彼に、この私の姿を見せてあげなければならない。もう、逃げも隠れもしない。私は、堂々と彼と向き合うのだ。
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