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外に出ると風が強く吹いていた。
枯れ葉が舞い、人々は背を丸め足早に歩いていく。
明日から十一月。寒さは日々強くなっていく。
時刻は九時四十分。
自転車の前かごにリモを載せ、それを押しながら臨と並んで歩き、天狐の山に向かった。
「えー、何あれ狸? ちょーかわいー!」
などと指さされたリモは、手を振り愛想を振りまき時折写真など撮られている。
「知らないところでバズってそうだね」
「僕はそういうの嫌いなんだが。お前と違って」
「なら鞄にいれたらいいじゃない」
「だって鞄の中だと可哀想じゃねーか」
すれ違う人々の中には、明らかに臨を指していると思われる、
「あの人かっこいいー」
「雑誌で見たことない?」
なんて言葉も聞こえてくる。臨が目立つの忘れてた。こいつモデルだもんな……
デパートやショッピングモールで見かけるポスターにいたりするんだった。
身近過ぎて忘れんだよ。
「リモは人気だねー」
臨の暢気な声が聞こえてくる。
「手を振るだけで喜んでもらえるなんて嬉しいですね!」
「僕はもう、臨とは出かけないことにするよ」
「え、なんで? 俺何もしてないよ?」
などと話しながら僕らは山へと向かった。
商店街を通りがかったとき、リモが鼻をヒクヒクさせたかと思うと不意に籠から飛び降りた。
「リモ?」
リモがまっすぐに走って行った先にあったのは喫茶店だった。リモは店の前で掃除をしている青年に駆け寄ると、尻尾を振りちょこん、と座った。
喫茶店の窓ガラスには、「喫茶まほろば」と書かれている。
昔ながらの喫茶店、というレトロな雰囲気の小さな店だった。一階は店で、二階は住居、という感じだろうか。
この商店街は子供の頃から来ているのでよく知ってはいるけれど、この店には入ったことがない。
喫茶店、と言うのは大人な雰囲気があるし高校生の僕には入りにくかった。
その青年はリモに気が付くと、その場にしゃがみ笑顔で言った。
「おはよう、久しぶりだね。こんな時間に来るなんて珍しい」
どうやらリモの事を知っているらしい。
「今は餌、何もないよ」
「大丈夫です! ちょっとご挨拶に寄っただけですから!」
リモがそう答えるが、たぶん相手には伝わっていないだろう。
青年は近づく僕らに気が付くと立ち上がり、
「おはようございます」
と、笑って言った。
たれ目が印象的な三十歳そこそこと思われる青年だ。
もしかしたらもっと上かも知れない。
大人って、見た目で年齢わかんねーんだよな……
「おはようございます、あの、この子の事、知っているんですか?」
僕が言うと、青年は足もとにいるリモに視線を向けて言った。
「この狸の事? えぇ。たまに餌をあげているんで。まあ、よくないことだとは分かっているんですけど、僕の言葉がわかるみたいで悪さするわけでもないし、人懐っこくて」
確かに人懐っこい。
っていうか、
こいつこんなところで餌を食いに来てたのか?
山からここまでけっこう距離あるぞ……?
「確かに人懐っこいですね」
すっかり僕の家に住みついて、家族ともなじんでいるしな。
「今、僕と一緒にいるんですよ、その子」
「ほんとに? 狸と暮らしてるの?」
まあ、狸と暮らしてるってなかなかないと言うか珍しいと言うか。
「そういえば彼女と会ったのも、この子がきっかけだったなあ」
寂しそうに青年は呟く。
彼女?
青年はリモを抱き上げると、
「またね」
とだけ言い、僕たちの方にリモを差し出した。臨がそれを受け取り自転車の籠に戻す。
「飛び出すと危ないよ、リモ」
「つい懐かしくって。この人とってもいい人なんですよー。僕たちによく餌をくれて」
僕たち。
という言葉がひっかかる。
リモには仲間がいるのか?
「あのすみません、この子、ここにはひとりで来ていたわけじゃないんですか?」
「え? あぁ、最近はひとりだったけど前はふたりっていうか、二匹で来てたね。狐と一緒に。狐と狸の組み合わせなんて珍しいよね」
狐、という言葉が引っかかる。
「リモ、お前狐の友達がいるのかよ? なんで言わねーんだよ?」
リモに向かって言うと、くるっと僕の方を向いて言った。
「だって、聞かれていませんし」
いや、まあそうだけれど。
でもその狐と今回の件、関係あるのか?
「狐の友達がいるのは確かですが、ここ何か月も行方不明で」
しょんぼりとした様子でリモが答える。
「何か月も行方不明ねえ……」
臨は呟き、顎に手を当てる。
「え、あ、え……ふたりとも誰と話されているんですか?」
戸惑った様子で青年が言う。
「この子とですけど」
何事でもない様に、臨がリモを指差した。
青年は訳が分からないようで、僕らの顔とリモの顔を交互に見る。
「え? 狸……言葉……え?」
「おいらは未來さんの言葉、わかりますよ!」
リモが大声で言うが、青年にはきっと伝わっていないだろう。
リモの顔をじっと見つめるだけだ。
「未來さん?」
「未来は僕ですけど……あの、この子が言ったんですか?」
僕がリモの言葉を受けて名前を言うと、困惑した様子で青年が言った。
何で僕たちにはリモの言葉がわかり、他の人にはわからないんだろう?
これも僕らがもつ力が影響しているのだろうか?
「僕は初芝未來と言います。この喫茶店を経営してます」
「僕は北城紫音です」
「戸塚臨と言います」
そのまま流れで僕らは初芝さんのお店に入り、飲み物をごちそうになることになった。
時刻は十時過ぎ。
店の開店時刻は、十時半と書いてあった。
枯れ葉が舞い、人々は背を丸め足早に歩いていく。
明日から十一月。寒さは日々強くなっていく。
時刻は九時四十分。
自転車の前かごにリモを載せ、それを押しながら臨と並んで歩き、天狐の山に向かった。
「えー、何あれ狸? ちょーかわいー!」
などと指さされたリモは、手を振り愛想を振りまき時折写真など撮られている。
「知らないところでバズってそうだね」
「僕はそういうの嫌いなんだが。お前と違って」
「なら鞄にいれたらいいじゃない」
「だって鞄の中だと可哀想じゃねーか」
すれ違う人々の中には、明らかに臨を指していると思われる、
「あの人かっこいいー」
「雑誌で見たことない?」
なんて言葉も聞こえてくる。臨が目立つの忘れてた。こいつモデルだもんな……
デパートやショッピングモールで見かけるポスターにいたりするんだった。
身近過ぎて忘れんだよ。
「リモは人気だねー」
臨の暢気な声が聞こえてくる。
「手を振るだけで喜んでもらえるなんて嬉しいですね!」
「僕はもう、臨とは出かけないことにするよ」
「え、なんで? 俺何もしてないよ?」
などと話しながら僕らは山へと向かった。
商店街を通りがかったとき、リモが鼻をヒクヒクさせたかと思うと不意に籠から飛び降りた。
「リモ?」
リモがまっすぐに走って行った先にあったのは喫茶店だった。リモは店の前で掃除をしている青年に駆け寄ると、尻尾を振りちょこん、と座った。
喫茶店の窓ガラスには、「喫茶まほろば」と書かれている。
昔ながらの喫茶店、というレトロな雰囲気の小さな店だった。一階は店で、二階は住居、という感じだろうか。
この商店街は子供の頃から来ているのでよく知ってはいるけれど、この店には入ったことがない。
喫茶店、と言うのは大人な雰囲気があるし高校生の僕には入りにくかった。
その青年はリモに気が付くと、その場にしゃがみ笑顔で言った。
「おはよう、久しぶりだね。こんな時間に来るなんて珍しい」
どうやらリモの事を知っているらしい。
「今は餌、何もないよ」
「大丈夫です! ちょっとご挨拶に寄っただけですから!」
リモがそう答えるが、たぶん相手には伝わっていないだろう。
青年は近づく僕らに気が付くと立ち上がり、
「おはようございます」
と、笑って言った。
たれ目が印象的な三十歳そこそこと思われる青年だ。
もしかしたらもっと上かも知れない。
大人って、見た目で年齢わかんねーんだよな……
「おはようございます、あの、この子の事、知っているんですか?」
僕が言うと、青年は足もとにいるリモに視線を向けて言った。
「この狸の事? えぇ。たまに餌をあげているんで。まあ、よくないことだとは分かっているんですけど、僕の言葉がわかるみたいで悪さするわけでもないし、人懐っこくて」
確かに人懐っこい。
っていうか、
こいつこんなところで餌を食いに来てたのか?
山からここまでけっこう距離あるぞ……?
「確かに人懐っこいですね」
すっかり僕の家に住みついて、家族ともなじんでいるしな。
「今、僕と一緒にいるんですよ、その子」
「ほんとに? 狸と暮らしてるの?」
まあ、狸と暮らしてるってなかなかないと言うか珍しいと言うか。
「そういえば彼女と会ったのも、この子がきっかけだったなあ」
寂しそうに青年は呟く。
彼女?
青年はリモを抱き上げると、
「またね」
とだけ言い、僕たちの方にリモを差し出した。臨がそれを受け取り自転車の籠に戻す。
「飛び出すと危ないよ、リモ」
「つい懐かしくって。この人とってもいい人なんですよー。僕たちによく餌をくれて」
僕たち。
という言葉がひっかかる。
リモには仲間がいるのか?
「あのすみません、この子、ここにはひとりで来ていたわけじゃないんですか?」
「え? あぁ、最近はひとりだったけど前はふたりっていうか、二匹で来てたね。狐と一緒に。狐と狸の組み合わせなんて珍しいよね」
狐、という言葉が引っかかる。
「リモ、お前狐の友達がいるのかよ? なんで言わねーんだよ?」
リモに向かって言うと、くるっと僕の方を向いて言った。
「だって、聞かれていませんし」
いや、まあそうだけれど。
でもその狐と今回の件、関係あるのか?
「狐の友達がいるのは確かですが、ここ何か月も行方不明で」
しょんぼりとした様子でリモが答える。
「何か月も行方不明ねえ……」
臨は呟き、顎に手を当てる。
「え、あ、え……ふたりとも誰と話されているんですか?」
戸惑った様子で青年が言う。
「この子とですけど」
何事でもない様に、臨がリモを指差した。
青年は訳が分からないようで、僕らの顔とリモの顔を交互に見る。
「え? 狸……言葉……え?」
「おいらは未來さんの言葉、わかりますよ!」
リモが大声で言うが、青年にはきっと伝わっていないだろう。
リモの顔をじっと見つめるだけだ。
「未來さん?」
「未来は僕ですけど……あの、この子が言ったんですか?」
僕がリモの言葉を受けて名前を言うと、困惑した様子で青年が言った。
何で僕たちにはリモの言葉がわかり、他の人にはわからないんだろう?
これも僕らがもつ力が影響しているのだろうか?
「僕は初芝未來と言います。この喫茶店を経営してます」
「僕は北城紫音です」
「戸塚臨と言います」
そのまま流れで僕らは初芝さんのお店に入り、飲み物をごちそうになることになった。
時刻は十時過ぎ。
店の開店時刻は、十時半と書いてあった。
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