33 / 39
33 大丈夫、だから
しおりを挟む
放課後、玄関で臨と待ち合わせて互いの家に寄って着替えてから山に向かうことになった。
時刻は十五時半過ぎ。十七時前になれば辺りはだいぶ暗くなってしまうから、山に行くならこのまま向かう方がいいだろう。
二十二時過ぎに俺たちみたいな高校生がほっつきあるっていると補導されてしまうから、さっさと済ませたい。
まず臨の家に寄った後、僕の家に寄り着替えてリモを回収して、自転車を押しながら山に向かうことにした。
「なんだかドキドキしますね」
僕の自転車の前かごに入ったリモが、言いながら尻尾をぱたぱたと振る。
その様子をすれ違いざまに見た学生らしき女性の集団が、かわいいー、と声を上げて通りすぎていく。
まあ……今リモは冬毛だしご飯をたんまり食べて真ん丸だから、超可愛いんだよな……
「今日こそ終わりにしたいね」
「あぁ、そうだな」
ついてくる、と言っていた真梨香さんには結局声をかけていない。
あんまり人数いると臨の負担になるだろうし。
臨しか戦う力を持っていないし、僕ひとりなら逃げればいいけど真梨香さんを連れて来てなんかあったら嫌だしな。そう思って何も言わずに決着をつけようって話になった。
まあこの件の依頼者は真梨香さんだけど、だからと言って現場に連れ込むのはな……
通りを歩きながら近付いてくる山を見ると、それは巨大な黒い塊に見えた。
烏が鳴き、風が唸り声を上げて枝を揺らしている。
山の入口近くに自転車はなかったが、犬の散歩をする人が山から出てくるのが見えた。
時刻は十六時半すぎ。辺りはだいぶ暗くなっている。
僕は、首から懐中電灯をさげ、それの電源を入れるとリモを抱き上げた。
もこもこの毛皮は暖かいが、リモはわずかに震えているようだった。
「お前怖いの?」
リモにそう声をかけると、びくん、と震えて僕を見上げる。
「そ、そ、そ、そんなことないですよ!」
そう言ったリモの声がやっぱり震えていた。やっぱり怖いのか。
山は風が吹くたびに轟音を上げて木々の枝を揺らし、烏の鳴き声を響かせている。
ここが魔界への入り口と言われたら信じるくらい禍々しい雰囲気を醸し出していた。
この山には何度も来ているのに、今日は一番怖いかもしれない。
烏が騒がしく鳴いて羽ばたいているのが見える。
いったい何羽いるんだろうか。夕暮れの空を舞う烏の姿に恐怖心を抱きながら僕たちは山の中へと入っていった。
道なりに山を登っていくと、途中でリモがひくひくと鼻を鳴らしてきょろきょろと視線を巡らせる。
ここはまだ山頂と社の分かれ道よりだいぶ手前だ。
リモの様子を見て、僕は声をかけた。
「リモ、なんか感じてる?」
「はい……あの、社がある方向から気配がしますが……ちょっと怖いです」
と言い、ぶるり、と震える。
やっぱり社の方なのか。分かれ道はもう少し先だし、社までまだ距離があるけどここでも震えるくらい怖い気配を感じるって事なんだろうな。
日和ちゃんにいったい何があって化け物に憑りつかれたのか。その理由は結局わかっていないけど、今日は、今日こそは決着をつけてやる。
すっかり日が暮れた山は真っ暗で、今にも何か出そうな雰囲気だった。
烏の鳴き声と風で枝が擦れる音が大きく響き、一層恐怖感を抱かせる。
あの化け物がどこからか現れないか、そう思うとリモを抱きしめる腕に自然と力がこもってしまう。
そんなことがあるようなら、たぶんリモが騒ぐだろうから大丈夫だと思うけれど。
歩く度に響く枯れ葉を踏みつける音すら恐怖を増幅させる演出に思えてしまう。
臨と僕で並んで歩き、少しずつ山を登る。
リモの案内でたどり着いたのはやはり、あの社だった。
辺りは既に闇が包み、烏の鳴き声と羽ばたく音が不気味に響いている。
他に生き物の気配は感じない。
ただ闇がそこにあるだけだ。
あの化け物は近くにいるのだろうか? 残念ながら僕には何も感じない。風の音さえも僕には化け物が現れる予兆に感じられた。
彼女は現れるだろうか? 現れてくれないと困るけど……
リモは鼻をひくひくさせて首をしきりに動かしている。
「日和ちゃんは狐ですから、森の中では危険だと思うんですよ。圧倒的にあちらが有利になってしまいます」
「まあ俺の電撃は直線でしか飛ばないから、広いほうが助かるけど、彼女のあの黒い手はそんなの関係なさそうだから結構厄介かも」
と言い、臨は笑う。
その笑顔に僕はどきり、としてしまう。
死ぬかもしれないって言うのに、なんでこんな笑顔でいられるんだろうか、こいつ。
僕は手を伸ばして臨の腕を掴み、その顔を見つめて言った。
「お前、死なねえよな」
それは自分に言い聞かせる為の言葉だった。
臨を巻き込んだのは僕だ。それで臨が傷つくのは嫌だし何かあったら嫌だ。
ここまで来て僕の心は揺らいでいる。
大丈夫だと思いたい。臨は強い。僕が思っているよりもずっと。でも不安はぬぐえなかった。
「紫音」
臨の手が、僕の頭に触れる。
「心配してくれてありがとう」
その時、大きく風が吹いた。
時刻は十五時半過ぎ。十七時前になれば辺りはだいぶ暗くなってしまうから、山に行くならこのまま向かう方がいいだろう。
二十二時過ぎに俺たちみたいな高校生がほっつきあるっていると補導されてしまうから、さっさと済ませたい。
まず臨の家に寄った後、僕の家に寄り着替えてリモを回収して、自転車を押しながら山に向かうことにした。
「なんだかドキドキしますね」
僕の自転車の前かごに入ったリモが、言いながら尻尾をぱたぱたと振る。
その様子をすれ違いざまに見た学生らしき女性の集団が、かわいいー、と声を上げて通りすぎていく。
まあ……今リモは冬毛だしご飯をたんまり食べて真ん丸だから、超可愛いんだよな……
「今日こそ終わりにしたいね」
「あぁ、そうだな」
ついてくる、と言っていた真梨香さんには結局声をかけていない。
あんまり人数いると臨の負担になるだろうし。
臨しか戦う力を持っていないし、僕ひとりなら逃げればいいけど真梨香さんを連れて来てなんかあったら嫌だしな。そう思って何も言わずに決着をつけようって話になった。
まあこの件の依頼者は真梨香さんだけど、だからと言って現場に連れ込むのはな……
通りを歩きながら近付いてくる山を見ると、それは巨大な黒い塊に見えた。
烏が鳴き、風が唸り声を上げて枝を揺らしている。
山の入口近くに自転車はなかったが、犬の散歩をする人が山から出てくるのが見えた。
時刻は十六時半すぎ。辺りはだいぶ暗くなっている。
僕は、首から懐中電灯をさげ、それの電源を入れるとリモを抱き上げた。
もこもこの毛皮は暖かいが、リモはわずかに震えているようだった。
「お前怖いの?」
リモにそう声をかけると、びくん、と震えて僕を見上げる。
「そ、そ、そ、そんなことないですよ!」
そう言ったリモの声がやっぱり震えていた。やっぱり怖いのか。
山は風が吹くたびに轟音を上げて木々の枝を揺らし、烏の鳴き声を響かせている。
ここが魔界への入り口と言われたら信じるくらい禍々しい雰囲気を醸し出していた。
この山には何度も来ているのに、今日は一番怖いかもしれない。
烏が騒がしく鳴いて羽ばたいているのが見える。
いったい何羽いるんだろうか。夕暮れの空を舞う烏の姿に恐怖心を抱きながら僕たちは山の中へと入っていった。
道なりに山を登っていくと、途中でリモがひくひくと鼻を鳴らしてきょろきょろと視線を巡らせる。
ここはまだ山頂と社の分かれ道よりだいぶ手前だ。
リモの様子を見て、僕は声をかけた。
「リモ、なんか感じてる?」
「はい……あの、社がある方向から気配がしますが……ちょっと怖いです」
と言い、ぶるり、と震える。
やっぱり社の方なのか。分かれ道はもう少し先だし、社までまだ距離があるけどここでも震えるくらい怖い気配を感じるって事なんだろうな。
日和ちゃんにいったい何があって化け物に憑りつかれたのか。その理由は結局わかっていないけど、今日は、今日こそは決着をつけてやる。
すっかり日が暮れた山は真っ暗で、今にも何か出そうな雰囲気だった。
烏の鳴き声と風で枝が擦れる音が大きく響き、一層恐怖感を抱かせる。
あの化け物がどこからか現れないか、そう思うとリモを抱きしめる腕に自然と力がこもってしまう。
そんなことがあるようなら、たぶんリモが騒ぐだろうから大丈夫だと思うけれど。
歩く度に響く枯れ葉を踏みつける音すら恐怖を増幅させる演出に思えてしまう。
臨と僕で並んで歩き、少しずつ山を登る。
リモの案内でたどり着いたのはやはり、あの社だった。
辺りは既に闇が包み、烏の鳴き声と羽ばたく音が不気味に響いている。
他に生き物の気配は感じない。
ただ闇がそこにあるだけだ。
あの化け物は近くにいるのだろうか? 残念ながら僕には何も感じない。風の音さえも僕には化け物が現れる予兆に感じられた。
彼女は現れるだろうか? 現れてくれないと困るけど……
リモは鼻をひくひくさせて首をしきりに動かしている。
「日和ちゃんは狐ですから、森の中では危険だと思うんですよ。圧倒的にあちらが有利になってしまいます」
「まあ俺の電撃は直線でしか飛ばないから、広いほうが助かるけど、彼女のあの黒い手はそんなの関係なさそうだから結構厄介かも」
と言い、臨は笑う。
その笑顔に僕はどきり、としてしまう。
死ぬかもしれないって言うのに、なんでこんな笑顔でいられるんだろうか、こいつ。
僕は手を伸ばして臨の腕を掴み、その顔を見つめて言った。
「お前、死なねえよな」
それは自分に言い聞かせる為の言葉だった。
臨を巻き込んだのは僕だ。それで臨が傷つくのは嫌だし何かあったら嫌だ。
ここまで来て僕の心は揺らいでいる。
大丈夫だと思いたい。臨は強い。僕が思っているよりもずっと。でも不安はぬぐえなかった。
「紫音」
臨の手が、僕の頭に触れる。
「心配してくれてありがとう」
その時、大きく風が吹いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
七竈 ~ふたたび、春~
菱沼あゆ
ホラー
変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?
突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。
ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。
七竃が消えれば、呪いは消えるのか?
何故、急に七竃が切られることになったのか。
市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。
学園ホラー&ミステリー
キミに届く、一枚の勇気
伊咲 汐恩
キャラ文芸
喉の奥で想いに蓋をする地味子・ミナは、ある日スマホで書いた告白文をクラスで晒されてしまう。助けてくれたのは、転校生で金髪の刈谷。しかしその夜、刈谷がミナの家の前に倒れ、看病することに。お礼の”お助け券”で二人の距離は縮まり、互いの心に触れた。それぞれの悩みに直面する中、刈谷の妹・風華がミナに『兄に近づくな』と警告してきて――。
ベスティエンⅢ
熒閂
キャラ文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。
ちょっとのんびりしている少女・禮のカレシは、モンスターと恐れられる屈強な強面。
禮は、カレシを追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学するも、そこは女子生徒数はわずか1%という環境で……。
強面カレシに溺愛されながら、たまにシリアスたまにコメディな学園生活を過ごす。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる